朱鷺メッセ崩落事故の原因が突き止められなかったことが残念(その1)

<朱鷺メッセ崩落事故の原因が突き止められなかったことが残念(その1)>

2003年8月に起きた新潟県の朱鷺メッセの連絡橋崩落事故について感想を入れます。発注者である新潟県と設計者・施工者との間で裁判が行われ高裁が和解勧告を出して2013年12月に正式に和解していますから,裁判の上では解決しています。けれども,なぜ橋が地震も風もないのに崩落したのかという原因が解明されないままでした。

私は,残念でなりません。落ちるはずのないものが落ちた。そんなことはありません。力学的な現象であり,落ちるべくして落ちたのです。自重により力が作用し,構造体のどこかで耐力を超えたから破断して崩落したのです。設計が悪かったか,施工が悪かったか,原因があるから崩落したのです。

にもかかわらず,原因が解明できなかったというのは,建築分野における技術レベルが低かったことを示しているように思えてなりません。構造設計者の言葉を借りれば,「調査を呼び掛けても県が応じないし,調査に必要な物的資料の貸し出しもしないから解明できなかったのだ」となるのでしょう。誰が悪かったのかは触れないことにしても,結果として「原因を解明することこそが必要なことなのだ」と主張する人がいなくて(いてもその声が届かず),裁判を終えています。

原因が解明できなかったことは,技術者として情けない限りですが,それとともに,実害があります。設計が原因だったのか,施工が原因だったのかが特定できていれば,その被害は原因者が負担すべきですから,損害賠償を請求できたのですけど,高裁が和解で示したのは「設計が原因である」としながら,和解金は原告請求額の約10分の1でした。原因が特定されていない結果,設計(または施工)のみが原因であるとは断定できないと考えたからでしょう。結果として,被害額の大半を県民が負担することになってしまいました。

もっと大きな問題があります。それは,次に同じような設計をしてもいいのかどうかがわからないことです。設計者は設計は間違っていなかったと主張しています。ならば,もう一度同じ設計をしてもいいことになりますが,世の中,原因がわからずに崩落した設計を採用する建築主はいません。朱鷺メッセの連絡橋も崩落しなかった健全なところも含めて解体して別の工法で再建しています。原因が分からない以上,崩落しなかったところもいつ崩落するかわからないので解体して再建するのは当然でしょう。でもそれは,適正であったかもしれないものを壊したことになります。

こうした事故においては,信用できる中立機関があって,公平な立場で技術的にどうであったのかを検証することがあってしかるべきと思います。

足場の落下事故と防止に関する法規制

<足場の落下事故と防止に関する法規制>

平成28年10月14日に東京都港区六本木の既存建物の改修工事の現場で足場の解体中に足場のパイプを落としてしまい,通行中の第三者を死亡させる事故がありました。
こうした事故に対する法規制がどのように定められているかをまとめてみました。


「足場の規制」と言えば,労働基準監督署の所管だろうと思いますが,労働基準監督署は解体作業や工事を行う作業員の安全を守ることが主目的でして,工事現場のすぐ近くを歩いている第三者の安全を守ることは主目的ではないようです。誤解があってはいけないので,足場の資材を落下させてしまえば,そこにいる作業員への危険も生じますから指導監督の範囲内ですし,落下の危険性について作業員と工事現場のそばを通行する第三者とを区別しているものではないことを加えておきます。
工事によって生じる隣家や通行人への危害防止は,実は,建築基準法で規定されています。
それだけではなく,建設業法にも規定がありますし,作業員を守ることが主目的とはいえ,労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則で足場の安全性についての規定があります。したがって,「足場の落下による隣家や通行中の第三者に対する危害防止の法規制」は,建築基準法建設業法労働安全衛生規則の3つで連携して規定しているといえます。

詳しくは,〈事故防止・安全管理・危機管理〉にまとめています。

上のページでは,隣家や通行人への危害防止全般について書いています。足場の解体中の資材の落下による危害防止についてならば,

建築基準法では,

施行令第136条の5第2項と第136条の7

建設業法では,

建設業法第28条第1項第1号「建設業者が建設工事を適切に施工しなかつたために公衆に危害を及ぼしたとき、又は危害を及ぼすおそれが大であるとき。」の営業停止など

労働安全規則では,

計画の届け出,作業主任者の選任,足場の安全基準の3つで,足場の安全基準としては,例えば,「組立て、解体又は変更の作業を行う区域内には、関係労働者以外の労働者の立入りを禁止すること。 」

と規定されています。

2000年金物規定の木造住宅にも倒壊被害

<2000年金物規定の木造住宅にも倒壊被害>

平成28年熊本地震で被害を受けた建物の中には,2000年に強化された木造規定で建築されたものも含まれていました。報道記事としては,

被災者を苦しめる4号特例」(日経アーキテクチュアー)

があります。この記事は,木造建築の4号ものの確認申請にあたって添付図書が省略できてそのために適正な設計が行われなかったことの可能性を指摘するものです。今後,新基準で倒壊した建物の原因調査は行われるものと思います。

その原因として考えられるもののとしては,設計の不備,施工の不備などがあげられますが,私は,もうひとつ別のことを想定します。それは,

総2階である建物の1階の壁量が不足しているのでは?

です。上記報道の写真も総2階に近い建物です。その他にも,

南阿蘇の倒壊アパート5棟 柱接合部に金物なし

で報道されたように,2階建て木造アパートは総2階です(写真の建物は2000年基準前のものと思います)。壁量を規定しているのは政令第46条第4項で,壁量は各階の床面積で規定されていますから,2階の面積が大きいか小さいかにかかわらず,1階の壁量は一定です。このことが,総2階の建物の1階の余力を低下させているように思います。

2階の面積によって,1階の壁量を変化させる規定が望ましいと考えます。そして,もうひとつ。床面積にならないベランダや玄関ポーチなどは壁量を算出する際の床面積に含めるべきと考えます。現在の規定では,内側に入り込む形の玄関ポーチでも屋外は屋外ですから壁量の床面積に考慮しません。でも,荷重としてはいくらも低減されていませんから,耐力上は不利側に作用します。

今後,調査結果が出されるでしょうからその中で議論されると思います。