既存部分に適用される耐震診断など

<既存部分に適用される耐震診断など>

法第20条について既存不適格になっている建築物を増築したい場合に,その既存不適格を継続できる条件は〈増築における法第20条の既存不適格の扱い〉で説明しましたが,その中の,既存部分で地震力についての耐震診断などについて説明します。

EXP.Jで分離して増築する場合で,既存面積の20分の1(50㎡を超える場合は50㎡)を超える増築をする場合には,令第137条の2第2号イの規定によりH17告示第566号への適合が求められ,同告示第3第1号ハで「H18告示第185号に定める基準によって地震に対して安全な構造であることを確かめる」ことが求められます。いわゆる「既存部分への耐震診断(耐震改修)の義務付け」です。

これがややこしいです。

H18告示第185号

~~建築物の耐震改修の促進に関する法律第4条第2項第3号に掲げる建築物の耐震診断及び耐震改修の実施について技術上の指針となるべき事項に定めるところにより耐震診断を行った結果,地震に対して安全な構造であることを確かめられること。

とあり,耐震改修法第4条第2項第3号の指針とは,H18告示第184号であり,この指針が定める耐震診断が同告示の別添「建築物の耐震診断及び耐震改修の実施についての技術上の指針となるべき事項」です。この別添は第1「建築物の耐震診断の指針」で,第2「建築物の耐震改修の指針」であり,この耐震診断で診断した結果NGであれば耐震改修で補強するというものです。

実は,耐震診断・耐震改修として認められるものは他にもあります。上記別添第1ただし書きに「国土交通大臣がこの指針の一部または全部と同等以上の効力を有すると認める方法によって耐震診断を行う場合においては,当該方法によることができる」とありますので,大臣が認める方法が加わります。その認める方法は,平成26年11月7日付け通達国住指第2850号で規定されています。この通達を見たい場合は,「既存建築物の増築等における法適合性の確認取扱要領及び同解説(平成30年4月,大阪府内建築行政会議)」の26ページ目(資料としては23ページ)で見ることができます。

[ckckaisetsu1]

備考

H18告示第185号にいう「地震に対して安全な構造であること」の条件をH18告示第184号の別添の耐震診断指針で確認するのですが,実は,耐震診断基準では「倒壊する危険性が高い」「倒壊する危険性がある」「倒壊する危険性が低い」の3つに分類するだけで,法が求める「地震に対して安全な構造であること」を満たしてはいません。現状(2016年6月)では,「倒壊する危険性が低い」に判定されたものを「地震に対して安全な構造」にあてはめています。これは無理があると思います。そもそも「地震に対して安全な構造であること」とする条件が厳しすぎます。

複雑すぎる規定

既存部分の耐震診断は,日本建築防災協会の「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」が用いられることが多いです。この規定(書籍)による耐震診断で既存不適格建築物の増築が可能になることを条文をたどって示すことは難しいです。

まず,既存建物には現行法が適用されない根拠が法第3条第2項であり,

増築などの工事をすることで既存不適格が消滅することの根拠が法第3条第3項第3号であり,

その例外措置が法第86条の7で,法第20条に対する例外は同条第1項であり,

その例外を適用できる範囲を規定したのが令第137条の2第2号(第1号も)であり,

そこでは,具体の基準はH17告示第566号第3と定め,

そこでは,H18告示第185号と定め,

そこでは,耐震改修法第4条第2項第3号に規定する指針とされているので,同法を見て,

同法の下にある告示がH18告示第184号であり,指針とはその別添であり,

その別添第1のただし書きに,大臣が同等と認める方法を含むとあるので,

それを規定した通達を見る。

その通達に,建築防災協会の耐震診断基準が含まれている。

と,ここまでたどって(法第3条第2項から数えて10個目で)やっと目的のものにたどり着けました。しかも,通達は通常の法令集には掲載されていませんし,国土交通省HPでも見ることができません。「複雑すぎる規定」のタイトルに恥じない状況と思います。恐らく建築基準法でもっとも複雑に配置された規定です。そして,ここまでたどり着けば終わりではなく,その耐震診断基準を読み解くことが必要です。

このページの公開年月日:2016年6月20日