法第87条(用途変更)の逐条解説

<法第87条(用途変更)の逐条解説>

用途変更について規定しているのは,建築基準法第87条です。ここで規定していることを解説します。

第1項から第4項で規定していることをまとめると,

法第87条第1項:第6条第1項第1号の特殊建築物にするような用途変更に対する確認申請手続きの準用(基準への適合義務も生じる)

同条第2項:用途地域の制限の準用

同条第3項:用途変更による既存不適格の消滅(用途変更する建物全体に及ぶもの)

同条第4項:用途変更による既存不適格の消滅(独立部分がある場合や用途変更する部分のみに適用されるもの)

となります。

条項ごとに見ていきましょう。

<第1項(確認申請手続きの準用)>

法第87条第1項  建築物の用途を変更して第6条第1項第一号の特殊建築物のいずれかとする場合(当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるものである場合を除く。)においては,同条(第3項,第5項及び第6項を除く。),第6条の2(第3項を除く。),第6条の4(第1項第一号及び第二号の建築物に係る部分に限る。),第7条第1項並びに第18条第1項から第3項まで及び第14項から第16項までの規定を準用する。この場合において,第7条第1項中「建築主事の検査を申請しなければならない」とあるのは,「建築主事に届け出なければならない」と読み替えるものとする。

第1項は,用途変更における確認申請手続きの準用を定めたものです。手続きを準用するだけではなく,法第6条第1項の「~着手する前に,その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けなければならない」を準用しますから基準への適合も求められます。

ここで,いつの基準法が適用されるのかが問題です。それは〈いつの建築基準法が適用されるか(既存不適格,遡及適用)〉で解説しましたように,建築工事に着手したときの建築基準法です。用途変更をする時の基準法ではありません。法第6条を準用した結果「建築基準関係規定に適合するものであることについて」が適用されるのですが,この条文を「現行の関係規定なのでは?」との見方もあるかと思いますけど,法第3条で既存建物は工事をしない限り建設当時の基準法が適用され続けます。用途変更は工事ではありません。

第1項の「用途変更をして法第6条第1項第一号のいずれかとする場合」の読み方は複雑です。〈用途変更で確認申請を必要とする場合〉で解説します。

<第2項(用途地域制限)>

法第87条第2項  建築物(次項の建築物を除く。)の用途を変更する場合においては,第48条第1項から第13項まで,第51条,第60条の2第3項及び第68条の3第7項の規定並びに第39条第2項,第40条,第43条第2項,第43条の2,第49条から第50条まで,第60条の3第2項,第68条の2第1項及び第5項並びに第68条の9第1項の規定に基づく条例の規定を準用する

第1項は,別表第1の用途で100㎡を超える場合に適用されるものですが,第2項は100㎡以下であっても,また,別表1以外のものであっても適用されます。

第2項はふたつの意味があります。100㎡以下の用途変更でも(別表第1の特殊建築物でなくても)適用されるということと,もうひとつは,法第48条は「~建築してはならない」という規定ですから,第1項では第6条を準用したところで48条の用途規制がかからないことを有効にするためです。

第2項の存在により,完成後の建築物を用途変更して第48条の用途規制に適合しないものにすることはできません。作業場で原動機の出力で規制されている地域にある建築物で原動機の出力を増やすことも用途変更に含まれるものと解釈されています。作業場を完成させて完了検査を受けたのちに原動機を増設する行為は,法第87条第2項により禁止されます。

「第2項が準用する法第48条はいつの48条か」

今ある法律を読んで「48条を」と書いてあるのですから「今の48条」です。そのように解釈すると第3項第三号の規定が無効になってしまうように思えますが,第2項の冒頭に「次項の建築物を除く」とありますから,既存不適格建築物については第2項ではなく第3項が適用されます。

<第3項(既存不適格の消滅)>

法第87条第3項  第3条第2項の規定により第24条,第27条,第28条第1項若しくは第3項,第29条,第30条,第35条から第35条の3まで,第36条中第28条第1項若しくは第35条に関する部分,第48条第1項から第13項まで若しくは第51条の規定又は第39条第2項,第40条,第43条第2項,第43条の2,第49条から第50条まで,第68条の2第1項若しくは第68条の9第1項の規定に基づく条例の規定の適用を受けない建築物の用途を変更する場合においては,次の各号のいずれかに該当する場合を除き,これらの規定を準用する

一  増築,改築,大規模の修繕又は大規模の模様替をする場合

二  当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるものであつて,かつ,建築物の修繕若しくは模様替をしない場合又はその修繕若しくは模様替が大規模でない場合

三  第48条第1項から第13項までの規定に関しては,用途の変更が政令で定める範囲内である場合

まず,第3項の適用除外となる第一号から第三号の意味から解説します。

第一号は,増築などの工事が伴う場合の既存不適格の扱いは,法第86条の7で規定されますから便宜上除いただけです。増築+用途変更は法第24条などについて遡及適用されないという意味ではありません。増築工事の場合の既存不適格の扱いは〈増築における既存不適格の継続と遡及適用〉を見てください。ちなみに法第24条は増築工事で既存不適格が消滅します。法第27条は50㎡以下の増築+用途変更ならば既存不適格が継続できます。

第二号は,類似の用途への用途変更では遡及適用されないという意味です。類似の用途とは令第137条の19第1項に規定されています。

第三号は,用途地域の制限に限っての遡及適用されない範囲です。類似の用途への用途変更に限ったもので令第137条の19第2項に規定されています。第三号は,第2項の遡及適用の例外規定です。

第二号と第三号の関係はとてもわかりにくいです。第三号は用途地域の制限に限定したものであることはわかりますが,第二号も用途地域の制限の遡及適用の例外を受けられます。第二号と第三号とでは類似の用途の範囲が異なっていることと,第二号では類似の用途であることに加えて,大規模の修繕や模様替をしないことも条件として加わっています。

次は,第3項本文です。第3項本文は,用途変更により遡及適用される条文を列記したものです。

<用途変更で遡及適用される条文>

第24条(特殊建築物の外壁等),

第27条(耐火建築物・準耐火建築物),

第28条第1項若しくは第3項(居室の採光,火気使用室等の換気),

第29条(地階における住宅等の居室),

第30条(住戸の遮音界壁),

第35条(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準),

第35条の2(特殊建築物等の内装),

第35条の3(無窓居室等の主要構造部),

第36条中第28条第1項若しくは第35条に関する部分(何を指しているのか私にはわかりません),

第48条第1項から第13項まで(用途地域の制限),

第51条(卸売市場など),

第39条の2などに基づく条例の規定

これらの条文は,用途変更することにより遡及適用されます。

この遡及適用の仕方については,用途変更した部分だけに遡及適用されるのではなく,建物全体に及ぶます。法第27条は用途変更により耐火建築物が要求される規模になるのであれば,建物全体が耐火建築物にしなければならないというものです。これは当然でしょう。法第28条第1項は,用途変更しなかった居室にも採光規定が遡及適用されます。ちょっと厳しいと思いますね。次の第4項でちゃんと緩和されています。

<第4項(既存不適格の消滅)>

法第87条第4項  第86条の7第2項(第35条に係る部分に限る。)及び第86条の7第3項(第28条第1項若しくは第3項,第29条,第30条,第35条の3又は第36条(居室の採光面積に係る部分に限る。以下この項において同じ。)に係る部分に限る。)の規定は,第3条第2項の規定により第28条第1項若しくは第3項,第29条,第30条,第35条,第35条の3又は第36条の規定の適用を受けない建築物の用途を変更する場合について準用する。この場合において,第86条の7第2項及び第3項中「増築等」とあるのは「用途の変更」と,「第3条第3項第三号及び第四号」とあるのは「第87条第3項」と読み替えるものとする。

難しい条文です。

準用する条文は,法第86条の7第2項と第3項です。法第86条の7第2項は2以上の独立部分があるものの緩和,第3項は用途変更する部分のみの遡及適用です。これらも難しい条文ですので解説〈複数独立部分がある場合の既存不適格の継続(法第86条の7第2項)〉〈増築部分のみへの現行法適用(法第86条の7第3項)〉を見てください。

準用する法第86条の7第2項は2以上の独立部分がある場合です。適用されるのは,法第35条ですから,廊下・階段などの避難規定,排煙規定,非常用照明です。

準用する同条第3項は用途変更する部分のみの適用です。適用されるのは,第28条第1項若しくは第3項,第29条,第30条,第35条の3です。

例えば,採光規定は,法第87条第3項で建物全体に遡及適用され,同第4項でその遡及適用は用途変更する部分のみに限られます。

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備考

第2項の記述は疑問に感じます。第48条は建築行為を制限する条文ですからそのままでは用途地域における用途制限を規制することができません。第2項で規定することで建築行為を伴わない用途変更を規制するものなのですが,第2項は「法第48条を準用する」ですから,準用したところで制限されているのは建築行為でしかありません。「『建築してはならない』を『用途変更してはならない』に読み替える」という文面を付け加える必要があると思います。

第2項冒頭の「建築物(次項の建築物を除く)」も疑問に感じます。第2項はすべての用途変更について法第48条の用途規制を有効にするためのものですが,既存不適格のものについては類似の用途間でのものは適用除外とします。それを規定したのが第3項ですので,第2項の適用においては「次項の建築物を除く」という意味の記述が必要です。ですからそれが記述されているのではありますが,「次項の建築物」という記述は,法第27条について既存不適格である建築物も含みます。第2項では用途地域の規制について既存不適格であるもののみを除くように記述しなければいけないはずです。

第3項第二号も不思議です。第三号が用途制限に限定した規定ですから,「第二号は用途制限に関するものを除く」と書いてあるべきものだと思うのですが,ありませんから,第二号でも用途地域の制限の既存不適格継続が可能です。第二号の類似の用途には,共同住宅からホテルへの変更も含まれていて,それは用途地域の制限で規制される地域の異なるものですから,これを認めるのはまずいでしょう。個人的見解です。

注意

第3項第二号後半は勘違いしやすいです。第二号が成立するのは令第137条の19第1項で定める類似の用途間であることに加えて,大規模の修繕,大規模の模様替がないことです。一切の修繕・模様替があってはいけないわけではありません。第二号後半は修繕模様替えと大規模な修繕模様替えが並列されていて,どちらであっても適用できるのですからより限定的な条件である「修繕模様替えが大規模でない場合」だけを読めばいいです。

備考

第3項,第4項が規定していないもの(つまり,遡及適用のない規定)の適用は難しいです。例えば,基準法施行前(昭和25年以前)に建築された倉庫は建築時点において建築基準法がありませんでしたから,基準法のすべての規定に既存不適格です。この倉庫を店舗などの居室に用途変更しようとしたとき,第3項,第4項の規定で遡及適用される規定は現行法が適用されますが,第3項,第4項が規定していないものについては,建設当時の建築基準法が適用されます。建設当時と言えば基準法はありませんから,例えば,居室の天井高さに関する制限は適用されません。さて,そのような取り扱いが正解でしょうか。法第3条第2項で既存不適格の継続を規定していますが,それを適用できない条件である同条第3項第五号の「適合するに至った建築物」には適用されないことになっています。昭和25年以前に建築された倉庫は建築基準法が施行された昭和25年において天井高さの規定に適合していますから,その条文における既存不適格ではありません。したがって,倉庫を居室に用途変更するにあたって,原則は建設当時の基準法が適用されるとなるのですが,居室に関する制限には適合していたのですから,既存不適格とはならず,現行の天井高さの規定が適用されます。個人的見解です。

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このページの公開年月日:2016年7月3日