公共工事の工事監理

<公共工事の工事監理>

国や地方公共団体が発注する建築工事の工事監理を受託する場合があります。公共工事だからと言って建築士による工事監理の内容に違いがあるということは基本的にはないとはいうものの,公共工事であるがゆえの監理内容があります。


例えば,現場に行ったら作業員が昼休みにビールを飲んでいたとします。いえいえ,公共工事の現場で,恐らくは民間工事でも今時昼休みにビールを飲んでいるところはありませんから,想定の話だと思ってください。ビールを飲んで作業をすることは安全管理上問題がありますし,施工品質の低下にもつながります。また,夕方帰る時にアルコールが抜けていなくて飲酒運転になってはいけません。公共工事は税金から支出されますから,単純に建物ができあがればそれでいいというものではなく,それを作る過程も適切なものでなければいけません。昼休みにビールを飲んでいたというのは施工上も適切なことではありませんから,建築士としてそれを見たら説得してやめさせるということをしなければいけません。

「法令順守」という言葉があります。建築士が工事監理をするにあたって,工事が図面通りにできていることを確認すればいいというものではなく,各種のルールが守られながら工事が行われているかどうかについても求められます。


建築工事で「法令順守」というと実にいろいろなことがからんできます。

  • 建設工事で発生する廃棄物は適切に処分されなければいけません。
  • 1次下請け・2次下請けと仕事が送られる中で「一括下請け(丸投げ)」になっていてはいけません。下請けの工事が終わったら速やかに契約代金を支払わなければいけません。
  • 現場へ搬入する資材のトラック輸送にあたって過積載があってはいけません。

など,いくらでもあります。


公共工事だけに適用される法律はあります。

公共工事の品質確保の促進に関する法律」(平成17年3月31日公布)

品質確保法には閣議で決定された基本方針があります。

公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針について」(平成17年8月26日(平成26年9月30日改正))

品質確保法は,単純な入札制度であれば価格のみによる競争が行われて結果として採算ぎりぎり,さらには採算ライン以下の価格で落札することが生じていたことを防ぐために立法化されたという背景があります。これまでの実績や技術者の資格などを加味した入札を行うことを推進しています。

 

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年11月27日公布)

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律施行令

入札・契約適正化法には,閣議で決定された適正化指針があります。

公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」(平成13年3月9日(平成26年9月30日変更))

また,

公共工事の入札契約のより一層の適正化に向けて

入札及び契約の適正化等に係るマニュアル等について」←すみません。その後消えています。

もあります。

入札・契約適正化法では,発注見通しなどの公表,不正が疑われる場合の通報義務,一括下請けの禁止,施工体制台帳の提出義務などを定めています。


公共工事の特有の制度として「経営事項審査」があります。

公共工事を請け負おうとする場合は建設業法第27条の23の経営事項審査を受けていなければいけないことになっています。

経営事項審査


公共工事において廃棄物の処分は重要です。建設現場で発生する廃棄物を不法投棄する業者がこの世の中にはいるらしく,公共工事で発生する廃棄物を不法投棄されては困ります。

建設廃棄物処分の監理


下請け契約について。

1棟の建物を建築するのに10件とか数10件とかの1次下請け・2次下請けで行われています。これらの契約が建設業法やその他の法令に適合して行われていなければいけません。

下請け契約の留意事項

建設労働者の労働環境改善のための政策が国土交通省から出されています。若い技術者が育たないという実態があり,その原因の一端に労働者の社会保険などの福利厚生が適正に行われていない状況があるそうです。公共工事の工事監理では,下請負人名簿が提出されますので,そこに書かれる技術者への福利厚生がきちんとされているかどうかも,大切なことです。施工体制台帳には,雇用保険などの加入の有無を書く欄がありますから,それでチェックすることができます。現状では未加入であることもあって,その場合には認めないのか,注意だけして認めるのかは,発注者の方針によります。

建設業の社会保険未加入対策について」(国土交通省建設市場整備課,平成26年2月)


工事場所周辺への迷惑防止という意味で,「建設機械の騒音対策・排ガス対策」があります。国土交通省が,低騒音・低振動のものや排気ガス対策がとられているものを指定して,その使用を促進しています。

排出ガス対策」 ←国土交通省公共事業企画調整課

騒音振動対策」 ←国土交通省公共事業企画調整課

排出ガス対策は,1991年から制度化されたもので,当時の基準を1次といい,現在の基準は3次です。1次よりも2次,2次よりも3次の方が強化されているため,3次の方がよいが,1次のものも使用されています。発注時の条件として現場説明書などに「排出ガス対策がされたものを使用すること」との一文があることがほとんどと思われますが,「2次以上の排出ガス対策」として発注する事例は現時点(2014年5月)では,少ないと思います。

騒音振動対策については,制定当初からの基準の変更はないようです。

※ 上記は公共工事を意識して書いたものですが,民間工事も法令順守されなければいけないことに変わりありません。

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<感想>

左記のことが本当に建築士の業務範囲なのか,私は疑問に思いますが,社会が「法令順守」を求めている以上,建築のプロとして知らなかったでは通らないでしょう。公共工事の監理業務の委託契約がありますから,その契約の中に上記が含まれているならば業務としてしなければいけませんし,契約事項に含まれていなかったとしても法令順守のもとにある程度はすることになります。

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このページの公開年月日:2013年10月19日