Ⅳ建築構造安全性判定手法(構造解析で算出された存在応力を割り増しするルール)

Ⅳ 建築構造安全性判定手法

<構造解析で算出された存在応力を割り増しするルール>

モデル化された構造体に法令で決定する外力(例えば固定荷重)を作用させて,構造体のどこにどれだけの応力が作用するか。ここが構造力学の出番で,条件が同じであれば唯一の解が得られます。これが構造力学の構造力学たる存在感なのですが,建築構造安全性判定手法では,構造力学で算出された作用応力を割り増しして適用するルールがあります。

「そんなバカな」と言いたいところですが,それぞれに理由があって割り増しするものがあります。構造力学での算出結果に係数を乗じて割り増すものもあれば,算出方法自体を構造力学の解法とは異なるものを用いるものもあります。

<スラブの作用応力>

スラブには固定荷重と積載荷重が作用します。この外力に対してスラブ各部の応力を求めて長期許容応力度と比較して応力の方が小さければ構造計算上適合です。平面であるスラブに面外の垂直方向に外力を作用させてどれだけの応力が生じるかを構造計算で求めることは可能ですが,建築の構造計算では別の手法で応力を算出します。

そのルールは日本建築学会の「鉄筋コンクリート構造設計規準」の第10条にあります。ここに規定されているのは4辺固定のスラブでして,1辺が開放されている場合などの応力算出はJFEスチールの「鋼構造設計便覧」にあります。

※ 「鋼構造設計便覧」にあるのは精算値です。学会規準の計算式はスラブ中央のモーメントを割り増ししていますから,便覧の精算値を用いる場合には中央モーメントについて割り増ししなければいけないのだと思います。学会規準では4/3=1.33だけ割り増ししています。一方,外周部のモーメントは低減してもいいはずですが,どれだけ低減できるかの数値が示されていませんからわかりません。

<RC小梁の作用応力>

RC小梁は両端をRC梁で支持されています。小梁の両端はRC梁のねじれ剛性で回転を拘束しますから固定端とヒンジ端の中間的な状態にあります。この回転剛性を正確に評価して小梁の作用応力を算出することもできるのですが,通常はそのようなことはしません。

小梁に作用するモーメントなどの算出方法は学会規準の第9条の解説にあります。これは略算式であり,また,ねじれ剛性などを考慮して精算するよりも大きな値になります。通常はこの略算式で算出します。

「正確にねじれ剛性などを評価して精算したらそれで設計してもいいのか」

ということについては,学会の略算式は荷重はけっして等分布に作用するものではなく偏りなども考慮して安全側に設定されたものですから,精算値による設計は不可なのだと思います。

<RC梁の作用応力>

RC梁に長期荷重時,地震荷重時に作用する応力は,骨組み解析により算出されますので略算や割り増しなどは,基本的にはありません。ただ,柱梁接合部に剛域を設定した時の材端位置の考え方に作用応力の割り増しの考え方があります。これも学会規準の第9条の解説にあります。具体には学会規準を見てもらいますが,簡単に説明しますと,梁材端の設計にあたって作用モーメントは剛域がある分小さくなっていますが,地震荷重は剛域の存在を考慮して小さくなることを認めるけれども,長期荷重については剛域を考慮しない材端(柱梁接合部の中心)に作用するモーメントで検討するというものです。

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スラブ設計に用いる作用モーメントの略算式

学会RC規準第10条の略算式は精算値に比べて安全側なのだと思っていましたが,違っていました。JFEスチールの「鋼構造設計便覧」には精算値と略算値が同じグラフに書いてありますから比較できます。端部においては清算値の方が大きいです。これだけ見ると清算値で設計すべきなのでは?と感じます。でも,ちゃんと学会RC規準第10条の解説に正当性が述べられています。

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このページの公開年月日:2015年7月9日