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立体駐車場からの転落事故と安全対策

<立体駐車場からの転落事故と安全対策>

自走式の立体駐車場から自動車が転落する事故が発生することがあります。

例えば,

2016年9月,広島市安佐南区西原の商業施設「ゆめタウン祇園」にて,立体駐車場の3階からワンボックス車が転落
2016年12月,横須賀市の「サカイヤパーキング」にて,立体駐車場の5階から乗用車が転落

がありました。横須賀市の事故では乗っていた人が死亡されています。事故の原因は,勢いがついた状態で柵やフェンスに突っ込んだとされていて,想像ですが,運転操作の誤りではないかと思われます。

突っ込んだから落ちたという単純なことではありません。マンションの開放廊下の手すりにしっかりとした強度があるように,駐車場においても外周部分に自動車の転落を防止できるようなしっかりとした強度が必要です。

自動車の転落防止のために必要な強度がどうあるべきかについては,国土交通省から指針が出されています。これによれば,2トンの自動車が時速20キロメートルで激突することを想定して,25トンの衝撃力に耐えるべきことを求めています。それを受け止める部材は短期許容応力度の1.5倍で設計するとしています。

この指針は,建設省昭和61年9月1日付け住指発第185号通達であり,「建築物の構造関係技術基準解説書」に掲載されている他,

http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/kensetu.files/0225shishin.pdf

で取り出すことができます。

上記の2つの施設において,この指針が求める強度を有していたのかどうかが気になるところで,

①指針が求める強度以上の力で激突した

②設計上は強度を満たしていたが錆などで劣化して強度が低下していた

③設計上もともと強度を有していなかった

の3つが想定できます。

もしも③であった場合,設計が適正でなかったとして責任が問われることになるでしょう。問われた結果,どうなるかはわかりませんが,

①指針であり義務事項ではない

②運転者はそもそも駐車場の利用において柱や壁にぶつからないように走行する義務があるのであって,外壁を突き破るほどの運転ミスを行ってはいけない

ことから,転落した運転者から損害を請求されることはないのではないかと考えます。などと言ったら設計者へのひいき目と思われるかもしれません。あくまでも個人的な希望的観測です。

この考え方で,指針を守っていなくても設計者がその責任を問われないならば,何のために指針が存在するのだと思いますよね。以下も個人の考えですが,指針は,自動車が落下してきた場合,そこにいた第三者の安全を保つために存在しているものと思っています。立体駐車場から自動車が転落する事故において,下にいた人が被害を受けた場合に施設管理者と設計者に対して損害を請求することはあるのだと思います。

運転者と設計者の責任関係はともかくとして,建物が安全でなければいけないことは間違いありません。指針は義務ではないとはいうものの,これを守って設計すべきです。


<判例>

自動車の転落事故で施設管理者が責任を問われた事例としては次のものがあります。

保育園の屋上駐車場からの落下事故」(国土技術政策総合研究所)

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