私の結論
そろそろ,私の結論をまとめます。
私が知りたかったのは,「なぜこの場所が大規模に液状化したのか」です。里塚で起きた液状化は,特殊なものです。私はそれを「液状化による地層内地滑り」と名付けました。この場所で液状化による地層内地滑りが生じたのは,川が流れていた谷筋を砂質土(火山灰を多く含んだ土)で盛り土して下流側に地下水をせき止めるような土があったため,盛り土全体の地下水位が高い状態に保たれたから,と推察します。
川が流れていた谷筋ですから傾斜地です。その下流側の土中に地下水をせき止めるような土がありそのあたりで地下水位が急に下がるとともに地表面も傾斜していて低くなっていたため液状化した土砂が上流側のものも含めて一気に噴き出してしまったものです。盛り土の地下水位を下げるための暗渠管は施工されていましたが,十分な能力は発揮されていませんでした。これは砂質土であるにもかかわらず透水性が低かった(と想定される)ことにも影響していると考えられます。
「なぜこの場所が」という問いの答えを,図10が的確に示しているように思います。それは,図01の模式図をほとんどそのまま示しているからです。私が想像した「下流部の土中にある火山灰Dvによって地下水が堰き止められ」は,本当に想像にすぎませんが,何らかの要因があってそこより上流側の地下水が高く保たれる何かがあったものと思います。
この推察で何がわかるのか
さて,この推察で何がわかるのでしょうか。
それは,里塚で起きたことが全国どこの造成団地でも起きるわけではないということです。
里塚での液状化は,砂質土(火山灰)で盛り土された団地だから生じたのだと語られます。それ自体は正しいのですけど,里塚で起きたことは通常の液状化ではなく「液状化による地層内地滑り」です。図01の模式図や図10の断面図に示すような状態だったからこそ生じることです。高いところを削って低いところを埋めるという造成行為はどこの団地でも行われることですが,砂質土で盛り土すれば砂の隙間を通って水が抜けるので地下水位は高くはなりません。適切に暗渠管も配置されて地下水を抜く対策もされているはずです。このため,同じことが他の団地でも起きたりはしないと考えられます。ただし,傾斜地を埋めたところの下流側の地中内部に地下水をせき止めるような何かが存在していた場合は液状化による地層内地滑りが生じる可能性がありますから注意する必要があります。
最後に,札幌市がしている対策工事の感想を書きます。私なら地下水をせき止めるようになっている地層を置き換えて団地全体の地下水位を下げることを思考過程の第一に考えます。土の置き換えと暗渠管の追加です。液状化対策の最も明快な答えは地下水位を下げることですからこれを第一とします。札幌市の検討会でも地下水位を下げることの検討はされていますが,揚水試験の結果,期待した効果が上がらないため断念しています。地下水位はお風呂の水を抜くように短時間で抜けるものではありませんし,水位を低下させた結果さらなる地盤沈下も予想されますので,それを避けたかったことも理由でしょう。ただ,技術者としては,地下水位を下げるという教科書的な解決方法にこだわりたいです。「ならば,どうすればそれができたんだ。おまえならできたのか。」となりますが,申し訳ありません,札幌市の検討会に参加されているみなさまよりも高い見識を私が持っているものではありませんで,私にはわかりません。教科書的解決方法にこだわりたかったなという独り言でございます。