被災建築物応急危険度判定の状況

<被災建築物応急危険度判定の状況>

この地震(平成30年北海道胆振東部地震)では,被災建築物応急危険度判定が実施されます。これは地震により被害を受けた建築物の安全性を判定して危険な建物には「危険判定(赤)」を出すことで使用中止を呼びかけ,余震による2次災害の防止を図るものです。

国土交通省の7日5時半の発表で,北海道庁に支援本部の設置と,札幌市に実施本部の設置と,札幌市での7日からの実施検討と,厚真町と安平町とむかわ町での実施検討を表明しています。

実施主体となる札幌市では「応急危険度判定を実施します」で,その内容を発表しています。これによると,調査開始は,7日午前からで,調査対象地域は,清田区里塚1条1丁目の一部,1条2丁目の一部,清田区清田7条3丁目の一部となっています。地盤の液状化で宅地被害を受けたところを調査するようです。

7日の実施結果は,国土交通省発表で札幌市で298件実施し,内65件に危険判定となっています。

7日にはむかわ町でも実施されていますが,9日現在でむかわ町のホームページでの発表はありません。7日の実施結果は30件実施し,内14件に危険判定したと国土交通省が発表しています。

安平町では,8日9日に81件実施し,内22件に危険判定したと国土交通省が発表(10日7時)しています。

10日には,北広島市と厚真町でも実施され,北広島町では40件実施し内13件に危険判定,厚真町では5件実施し内4件に危険判定をしたと国土交通省が発表(11日7時)しています。

 

12日で判定活動は終わったと思われます。2市3町で814件実施され,内157件に危険判定を出しています。

 

 

 

 

判定活動は,建築士会が支援するものですが,9日現在で北海道建築士会のホームページでの発表はありません。11日現在も同じです。

<被災建築物応急危険度判定について解説>

判定制度について簡単に解説します。

まずは,「日本建築防災協会」のホームページの「応急危険度判定」を見てください。

これによれば,「応急危険度判定は、大地震により被災した建築物を調査し、その後に発生する余震などによる倒壊の危険性や外壁・窓ガラスの落下、付属設備の転倒などの危険性を判定することにより、人命にかかわる二次的災害を防止することを目的としています」とあります。

発災の直後に行うもので,判定した結果,「危険(赤い紙)」「要注意(黄色)」「調査済(緑)」に分類して,その建物の見えやすい部分に張り出します。「危険判定」であれば,その後の余震で危険性が想定されるので,その建物の使用を控えるべきという意味です。「要注意判定」は,使用にあたって注意すべきことがあるということで,注意すべき内容も手書きで書かれています。「調査済」は,特質すべき事項がなかったということです。

この判定は事前に登録している応急危険度判定士が行うもので,建築士であれば講習会を受けて登録することを勧められて,多くの人は登録しているのではないでしょうか。

判定業務は,この応急危険度判定士が「判定マニュアル」に基づいて行います。この判定マニュアルは講習会で配られたもので,判定士ならば書棚か引き出しのどこかにあるのではないでしょうか。また,「被災建築物応急危険度判定必携」は制度の全体的なことを知るうえで役に立ちます。

判定を実施するうえでポイントになることをまとめます。

  • 判定士2名で1チームであること
  • 1チームの判定数は1日に15棟
  • 50チームに1人の判定コーディネーターがつく
    (判定業務は,実施本部長の指揮により判定コーディネーターの技術的な指示を受けて行うことです)
  • 判定した結果は,現地に張り出すだけではなく,判定コーディネーターに報告する
  • 応急危険度判定は,被災度判定区分やり災証明のための家屋調査とは違う
  • 判定士は,住民からの「どの地区をいつ実施するのか」という質問には答えられなければならない。
  • 判定士は,危険判定をおこなった場合に避難場所を伝えられなければならない。

被災度区分判定とは,「地震により被災した建築物を対象に、建築構造技術者がその建築物の内部に立ち入り、当該建築物の沈下、傾斜および構造躯体などの損傷状況を調査することにより、その被災の程度を軽微、小破、中破、大破などと区分するとともに、地震動の強さなどを考慮し、復旧の要否とその程度を判定して「震災復旧」につなげることをいう」です。

<判定士が判定業務にあたって準備すること>

判定の実施にはいろいろな道具が必要です。マニュアルの「資機材関係」のページに,参加する判定士が準備するもの,派遣側が用意するもの,依頼側が用意するものにわけています。この中で判定士が準備するものとして次のものをあげています。

ヘルメット,筆記用具,雨具,防寒着,水筒,マスク,コンベックス,軍手,携帯電話,ナップサック,(双眼鏡,ペンライト,ホイッスル,カメラなどもあったほうがよい)

上記には書かれていませんが,資格者証は当然ですし,判定マニュアルもそうです。

その他,私の個人的な感覚で必要なものとして,安全靴を履くべきですし,打診棒,伸びチジミする鏡,電卓は必要なはずです。タオル,ティッシュ,レジ袋はあった方がいいでしょう。クラックスケール,下げぶりは派遣者側の準備になっていますが,自前のものを用意した方がいいと思います。

そして,何よりマニュアルを熟読して判定できるようになっていなければいけません。被災地の地図をよく見て地理感を頭に入れておくことも必要でしょう。

ここからは,まったくの個人見解ですが,本当に必要なことは,被災地に入ることの覚悟なのだと思います。活動中に出会う人は,多かれ少なかれ,地震によりダメージを受けています。精神的なものもあるでしょうし,財産を失った人もいます。失ったそれは,かけがえのないものであることもあります。判定活動では,被害を受けた建物に赤い紙を貼ります。被災したその人の前で調査して判定表を貼る場面も多いです。生活している住まいに赤い紙を貼られる人の気持ちを想像してください。「基準通りに調査して,その結果として判定を貼りだしただけだ」で済まされることではありません。危険判定の意味が説明できること,耐震基準の意味が説明できること,過去の地震で同種の建物にどのような被害があったのかを説明できることといった技術者としての言葉とともに,被害に寄り添う言葉は必要です。被害を受けた人にどのように向き合うのかということは,マニュアルにはまったく触れられていません。どうするかは判定する個人にゆだねられていることなのだと思います。判定する人に必要なことは「被災地に入る覚悟」です。では,「具体にどうすればいいのか」が必要ですが,すみません,私には答えがありません。