依頼者のイメージを形にする能力

<依頼者のイメージを形にする能力>

「建築士に必要な能力とは何か」と聞かれて,もっとも包括的なものを答えるとすれば,
「依頼者のイメージを形にする能力」でしょうか。
建築士の仕事は,依頼者がいるから成り立ちます。依頼者が持っている要望を分析して,具体的な形を作り,図面化する。きざな言い方をすれば,「依頼者の夢を図面にする」ことが建築士の役割です。

このHPで,建築士に必要な知識や技術を紹介してきましたが,これらを必要とする最終的な目的は,「依頼者のイメージを形にする」ためです。

依頼者の要望が,「大きな窓と,小さなドアと,部屋には古い暖炉があるのよ」だった場合,建築士は,「大きい窓」とはどのくらいの大きさなのかを自分で考え,分析して案を作り,依頼者の思いを確認しながら具体化しなければいけません。この曲が流れた時に「新築の家を造るのに『古い暖炉』があるわけないじゃないか」と文句を言った人がいましたけど,「古い暖炉」とは,お城にあるような「伝統的デザインの暖炉」という意味だということが,読み取れなければいけません。

建築士の仕事のスタートは,依頼者の要望を読み取ることです。建物が出来上がった時にイメージの相違があっても平気で「え? 要望どおりですよ」と答える設計者がいます。依頼者の言葉を聞いてそのとおりに設計したということでしょうけど,結果として要望とは違うものができてしまったということすら気づかず「要望どおりですよ」と答える姿にはがっかりします。

とはいえ,要望どおりに設計したはずでも,依頼者のイメージとは異なるものができてしまうのは時々あることで,それは,要望の分析が不十分であったために,依頼者が伝えたかったイメージとは異なるイメージを受け取ってしまったことが原因と思われます。

依頼者は,自分の要望を専門用語で正確に表現できるわけではありませんから,要望を聞いたときに,建築士から参考となるものを提示して,イメージの確認をする必要があります。また,要望自体が無理なものだったり,相当に高い費用がかかるものであってもそうとは知らずに要望したりすることもありますから,

・費用アップはどの程度まで認められるのか
・その要望のために他がある程度制約されることは許容されるのか
・その要望を叶えるのに,他により合理的な手法はないのか
・その要望は,短期的な心の迷いではないのか

などを考えて,依頼者に必要な助言をすることも建築士の役割です。非常識な要望であっても安易に受けて設計に反映させる建築士もいますが,できた建物は一生ものですから,「こんなはずではなかった」というようなことにならないようにしなければいけません。建物が完成して「こんなはずではなかった」となった時に,「え,要望どおりでしょ。あなたが言った通りに作ったんですよ」で済むことではありません。

依頼者の要望どおりに設計する建築士
依頼者の夢を実現する建築士

このふたつには,大きな隔たりがあります。建築士は,依頼者が言ったとおりに作ればいいというものではありません。「夢を実現する建築士」になるべきで,ならば,それができるようになるためには,何が必要かを考えなければいけませんけど,私はまだそんなレベルには達していませんから,このHPでの説明は省略します。

「真っ赤なバラと白いパンジー」までは実現できます。「子犬」もなんとかなります。でも,「坊やの横には,あなたがいてほしい」は,「夢を実現する建築士」であっても能力を超えています。超えてはいますが,建築士は依頼者の心の底の願望を含めてその実現にかかわるのだという意味で,とてもすばらしい仕事に携わっています。   (1970年代の大ヒット曲,小坂明子の「あなた」より引用)(2012年6月1日記)