周りの建物をよく見よう!

<周りの建物をよく見よう!>

建築士にとっての「いろはのい」は,建築基準法でも標準仕様書でも材料特性でもなく,今ある建物をよく見ることです。建っている建物が最良の先生であり教科書です。

建築の分野では「真似をするところからはじめよう!」と言われます。勿論これは駆け出しの建築士にとってのお話でして,第一線で活躍する建築士がライバル建築士のデザインを真似するということが許されるわけではありません。

真似ということがどこまで許されるのかという議論は置いておいて,建築は過去の積み重ねの上に成り立っています。そのことはどの分野でもそうだと思います。今建っている建物はその前の建物を手本として設計されています。その手本とされた建物はその前に建っていた建物を手本としています。このようにして,技術が伝承され,少しずつ改良・向上しています。

今建っている建物が教科書ですから,「建物をよく見よう!」

建築関係者に限らず誰でも,建物を見ていると思いますが,風景の一部として建物を見ているだけではいけません。もっと注意深く見ましょう。「建物を見る」と,屋根の形状,樋のかけ方,仕上げの納め方,柱の太さ,素材の使い方,など参考になるものが見つかるはずです。

通勤中も,現場への移動中も,普段の買い物での移動中も,教科書になる建物はたくさんありますから,しっかりと建物を見ましょう。それは,映画やドラマを見るときでも同じです。役者さんが演技している背景に建物や内装が映し出されますから,ドラマを見つつ建物も見ましょう。

有名建築家の作品を巡るのも大切なことです。

歴史的な建物を見て回ることもいいことです。

多くの人が訪れるショッピングセンターやホテルも価値があります。

建築関係者であれば初対面でも,建物について話ができます。建物を見て気になることの議論になるからです。

A:「この部屋に入る時の室名表示の位置が左右逆なのではないかと思ったのですが,」

B:「ええ,私も気になりました。それと,階段の手すりがぐらぐらしてるのもいけませんね。」

ってなものです。そうしたプロ同士の話ができるというのは,お互いに建物を深く見つめているからです。

生活の場であり,社会活動の場である建物に興味を持ち建物をよく見ること。これが建築士としてのスタートです。

<こぼれ話>

アニメのドラえもんを見ていた時のことです。のび太君が2階の自分の部屋にいて窓を見て座っていた状態から後ろに倒れこんで天井を見上げるシーンがありました。のび太君の目で見て天井と天井に吊り下げられた昔ながらの円形の蛍光灯が映し出されました。その時建築士は考えます。

「のび太君の部屋の竿縁天井の向きはあっているんだろうか」

天井の竿をどっち向きにするかは決まっていて,守らなければいけないものなんです。ドラえもんを見ていても,建築士はそうしたことが気になります。


(2013年4月28日記)