既存部分に独立部分が複数ある場合の法第35条の避難規定の既存不適格の継続

<既存部分に独立部分が複数ある場合の法第35条の避難規定の既存不適格の継続>

増築などを行う場合に既存不適格が継続できるかどうかの考え方は〈いつの建築基準法が適用されるか(既存不適格,遡及適用)〉と〈増築工事における既存不適格の継続と遡及適用〉で解説し,既存部分に独立部分が複数ある場合の既存不適格については〈複数独立部分がある場合の既存不適格の継続(法第86条の7第2項)〉で解説しましたが,ここではその中の法第35条(避難規定)の適用について解説します。

法第86条の7第2項  第3条第2項の規定により第20条又は第35条(同条の技術的基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。以下この項及び第87条第4項において同じ。)の規定の適用を受けない建築物であつて,第20条又は第35条に規定する基準の適用上一の建築物であつても別の建築物とみなすことができる部分として政令で定める部分(以下この項において「独立部分」という。)が二以上あるものについて増築等をする場合においては,第3条第3項第3号及び第4号の規定にかかわらず,当該増築等をする独立部分以外の独立部分に対しては,これらの規定は,適用しない。

政令第137条の13  法第86条の7第2項(法第87条第4項において準用する場合を含む。次条において同じ。)の政令で定める技術的基準は,第五章第二節(第117条第2項を除く。),第三節(第126条の2第2項を除く。)及び第四節に規定する技術的基準とする。

政令第137条の14  法第86条の7第2項(法第88条第1項において準用する場合を含む。)の政令で定める部分は,次の各号に掲げる建築物の部分の区分に応じ,当該各号に定める部分とする。

二  法第35条(第五章第二節(第117条第2項を除く。)及び第四節に規定する技術的基準に係る部分に限る。)に規定する基準の適用上一の建築物であつても別の建築物とみなすことができる部分  建築物が開口部のない耐火構造の床又は壁で区画されている場合における当該区画された部分

三  法第35条(第五章第三節(第126条の2第2項を除く。)に規定する技術的基準に係る部分に限る。)に規定する基準の適用上一の建築物であつても別の建築物とみなすことができる部分  建築物が次のいずれかに該当するもので区画されている場合における当該区画された部分

イ  開口部のない準耐火構造の床又は壁

ロ  法第2条第九号の二ロに規定する防火設備でその構造が第112条第14項第一号イ及びロ並びに第二号ロに掲げる要件を満たすものとして,国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの

条文は上記の通りです。

法第35条で既存建物の独立部分で既存不適格の継続が可能なものは,

政令第117条第1項(廊下,階段及び出口の適用範囲),令第118条(客席からの出口の戸)から令第126条(屋上広場等)までの廊下幅,直通階段,2以上の直通階段,避難階段,特別避難階段,屋外への出口までの距離などの規定,

政令第126条の2第1項(排煙設備の設置),令第126条の3(排煙設備の構造),

政令第126条の4から令第126条の5(非常用照明の設置)

です。

独立部分とみなされるものの条件は,床・壁・防火戸で区画されていることですが第二節,第三節,第四節のそれぞれで,区画の条件が微妙に異なります。独立部分とみなす区画の条件は,第二節(廊下幅,直通階段など)と第四節(非常用照明設備)では,開口部のない耐火構造の床または壁で区画されていることであり,第三節(排煙設備)では,準耐火構造の床または壁で開口部は防火戸があるもので区画されていることです。この場合の防火戸の閉鎖機構は,常時閉鎖か随時閉鎖で,煙感知の自動閉鎖のものです。

そして,法第20条〈既存部分に独立部分が複数ある場合の法第20条の既存不適格の継続〉のところで解説しましたように,既存部分に区画によって作られた独立部分が2つあることが条件です。さらに,既存不適格が継続できるのは,既存建物の独立部分の増築する部分から離れた方です。

対象となる規制条文と独立部分とみなせる区画の条件を表にすると次の通りです。

対象となる規制条文 独立部分とみなせる区画の条件
第五章第二節(廊下幅,直通階段,2以上の直通階段,避難階段,特別避難階段,屋外への出口までの距離などの規定) 開口部のない耐火構造の床または壁で区画されていること
第五章第三節(排煙設備規定) 準耐火構造の床または壁で区画されていること

開口部には,防火戸が設置されていること(防火戸の閉鎖機構は,常時閉鎖か随時閉鎖で,煙感知の自動閉鎖のもの)

第五章第四節(非常用照明設備規定) 開口部のない耐火構造の床または壁で区画されていること
独立部分として既存不適格の継続ができるのは,既存建物に複数の独立部分があって,増築する部分から離れたところにある独立部分である。

<法第86条の7第2項の法第35条への適用事例>

<直通階段,2以上の直通階段,避難階段>

直通階段,2以上の直通階段,避難階段の設置については,あまり改正されていない条文ですから既存不適格になっていることは少ないとは思いますが,開口部のない床・壁で区画されている既存部分の増築する部分から離れたところにある独立部分には既存不適格が継続できます。

既存不適格が継続できるとはいえ,開口部のない耐火構造の床・壁で区画されていることが条件ですから,「開口部のない」防火区画は少ないと思います。

<排煙設備>

準耐火構造の床・壁で区画されていて,その開口部は防火戸で煙感知式のものであれば独立部分となります。竪穴区画が適用されている建物であれば,各階で区画されていますから,それぞれが独立部分となります。例えば,1階を増築する場合には,増築する部分と隣接している既存の1階部分には既存不適格が消滅しますが,他の階は既存不適格が継続します。

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法第86条の7第2項の適用上の疑問

法第86条の7第2項の独立部分の既存不適格の継続は,法第20条の取り扱いと同じで,既存部分に独立部分が複数あって,適用できるのは増築工事とは離れたところの独立部分です。2以上の直通階段はあるけど重複避難距離が現行基準に適合していない建物に,避難経路とはまったく関係のない1階部分の増築をしようとしても,既存建物の既存不適格が消滅します。そもそも開口部のない床・壁で区画されている建物なんて少ないですし,あったとしても,増築に近接した部分には既存不適格が消滅します。階段までの避難距離や大規模小売店舗の階段幅などについて既存不適格になっている建物については,増築を不能とするように思えます。法律は,階段や廊下は,あとからでも建物の外側に追加できるという考え方なのかもしれませんが,「避難経路に影響を与えない増築については既存不適格を継続する」というようなルールに変更してほしいです。

排煙規定の場合は,開口部の存在が許容されていますから,緩和にはなっていると思いますけど,増築部と既存部分とが区画されていれば既存側に遡及適用されないようなルールであってほしいです。

屋根構造を全部作り替える場合は大規模の修繕になって,その建物全体が避難規定について遡及適用されてしまうというのも,厳しすぎるように思います。

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このページの公開年月日:2016年6月12日