増築部分のみへの現行法適用(法第86条の7第3項)

<増築部分のみへの現行法適用(法第86条の7第3項)>

増築などを行う場合に既存不適格が継続できるかどうかの考え方は〈いつの建築基準法が適用されるか(既存不適格,遡及適用)〉と〈増築における既存不適格の継続と遡及適用〉で解説したとおりですが,ここでは,具体に法第86条の7第3項で増築などを行っても既存不適格が継続できる条文を解説します。

法第86条の7

第3条第2項の規定により第28条,第28条の2(同条各号に掲げる基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。),第29条から第32条まで,第34条第1項,第35条の3又は第36条(防火壁,防火区画,消火設備及び避雷設備の設置及び構造に係る部分を除く。)の規定の適用を受けない建築物について増築等をする場合においては,第3条第3項第3号及び第4号の規定にかかわらず,当該増築等をする部分以外の部分に対しては,これらの規定は,適用しない。

法第86条の7第3項に列記されている条文は,増築などの工事を行っても,既存部分には既存不適格が継続するものです。増築工事に係る部分については現行法が適用されます。

<増築工事に係る部分のみへ現行法適用となる条文>

単体規定

法第28条(居室の採光及び換気),

法第28条の2(石綿その他の物質の飛散または発散に対する衛生上の措置)第3号(化学物質発散材の不使用と24時間換気),

法第29条(地階における住宅等の居室),

法第30条(長屋または共同住宅の住戸の界壁),

法第31条(便所),

法第32条(電気設備),

法第34条(昇降機)第1項(一般の昇降機),

法第35条の3(無窓居室等の主要構造部),

法第36条(補足するために必要な技術的基準)のうち

政令第21条(居室の天井高さ),令第22条(居室の床高さ),令第23条から第27条(階段),令第28条から第35条(便所),令第115条(煙突),令第5章の4第1節の2(給水,排水その他の配管設備),同第2節(昇降機)

集団規定  なし

上記が,既存部分には既存不適格が継続し,増築工事に係る部分のみに現行法が適用される条文です。

増築部分が大きいか小さいかに係らず,既存部分の既存不適格は継続します。増築工事に係る部分には現行法が適用されるのは当然でしょう。

増築工事だけではなく,改築もですし,大規模の修繕,大規模の模様替の工事をする場合も同様です。

<法第86条の7第3項の適用事例>

<居室の採光>

居室の採光は,既存部分の居室について既存不適格のままで増築ができます。24時間換気も同様です。

<エレベーター>

増築工事にあたって,エレベーターも既存部分にあるものは既存不適格が継続できます。

<6畳間を8畳間に増築する時の採光>

法文上は,増築される2畳分のみに採光規定が適用されます。でも,普通に考えて,増築の対象となった8畳間の採光を取るべきでしょう。24時間換気も,既存部分から外気を取り入れて増築部から排気するのであれば空気経路全体に対して適用すべきです。

<階段手すり>

平成12年に令第25条で義務化された階段への手すり設置が既存不適格となっている建物を増築する時には,既存部分の階段に手すりを付ける必要はありません。増築部分に新しく作る階段には手すりが必要です。

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法第86条の7第3項の適用上の疑問

法第86条の7第3項の規定で,大規模の修繕,大規模の模様替の扱いについては疑問があります。例えば,屋根のすべてを作り替える工事であれば大規模の模様替になりますから,同条第3項で既存不適格が消滅します(同条第1項で列記した条文の緩和はあります)。この結果,すべての階の居室の採光をとらなければならないし,エレベーターも作り替えなければならないというのは基準として厳しすぎるような気がします。

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このページの公開年月日:2016年6月11日