構造設計一級建築士でなければできない業務「事例検討」

<構造設計一級建築士でなければできない業務「事例検討」>

「建築物の構造設計をルート2かルート3で設計すれば,構造設計一級建築士の資格が必要」と覚えておけば,ほぼ正しいのですが,そうでない場合もありますので,事例をあげながら資格の要否を解説します。

<木造建築物の設計>

純木造の建築物の場合,「第6条第1項第2号に掲げる建築物(高さが13mまたは軒の高さが9mを超えるものに限る。)」だけが資格の必要要件ですから,

【事例1】
延べ面積:1200㎡
構造形式:大断面木造
階数:一部2階建て
用途:体育館
最高高さ:12.5m
軒高:8.5m

この建築物は,2階建てで1000㎡超えですから一級建築士の資格は必要ですが,ルート1の許容応力度設計が可能で,一般的にもルート1で設計するはずですから構造設計一級建築士の資格は必要ありません。

木造建築の場合は,最高高さと軒高だけが資格の要否でして,例えば,令第46条の壁量を入れないことの代わりに大断面木造で構造設計しても,構造設計一級建築士が求められたりはしません。

<RC造建築物の設計>

【事例2】
延べ面積:290㎡
構造形式:RC造(ラーメン構造)
階数:3階建て
用途:事務所
最高高さ:12.9m
軒高:8.9m
構造設計:Σ2.5Aw+Σ0.7Acが不足しているためルート3で設計

これは,ルート3で設計していますから構造設計一級建築士の資格が必要と思われがちですが,この規模の建築物は二級建築士で設計できますから,必要ありません。

【事例3】
延べ面積:490㎡
構造形式:RC造(ラーメン構造)
階数:3階建て
用途:事務所
最高高さ:12.9m
軒高:8.9m
構造設計:Σ2.5Aw+Σ0.7Acが不足していないがルート3で設計

事例2との違いは,延べ面積が300㎡を超えましたから一級建築士の資格が必要なことと,壁量は不足していないことです。ルート1で設計できる条件であるH19告示第593号第2号イ(壁量,柱梁のせん断耐力,特定天井)に該当することを示していればルート3の保有水平耐力検討の部分は義務事項ではありませんから(法第20条第1項第2号のカッコ書きで外れるから),構造設計一級建築士の資格は不要です。

<鉄骨造建築物の設計>

鉄骨造建築物の場合は,次のいずれかの場合に,

・地上階数が4階以上
・最高高さ13mまたは軒高9mを超えるもの
・H19告示第593号第1号に該当するもの

ルート3などの構造設計が必要で,それは構造設計一級建築士の資格要件と一致しています。したがって,ルート1で設計できる条件を満たしていれば構造設計一級建築士の資格が不要で,条件を満たしていない場合はルート2,ルート3の設計が必要で資格も必要です。

<増築の場合>

増築の場合の構造設計一級建築士資格の要否は難しいです。

【事例4】

既存部分
構造規模:鉄骨造4階建て

増築部分
構造規模:1階部分で250㎡
設計方針:既存不適格ではなく既存部分を含めて現行法で設計(既存部分と構造分離しない)

鉄骨造4階建てを既存部分を含めて現行の第20条に適合させて設計するのですから,法第20条第1項第2号のカッコ書きの条件によりルート2,ルート3の設計が必要で,それは構造設計一級建築士の資格も必要だと思われがちですが,増築部分だけ見たときに平屋の250㎡でそもそも一級建築士の資格が必要とされません(建築士法第3条第2項)から構造設計一級建築士の資格も必要とされません。(既存部分EXPJで構造分離する場合は当然に資格は必要ありません。)

[chouritsulink]

備考

構造計算適合性判定(法第6条の3)を必要とするにもかかわらず,構造設計一級建築士の資格を必要としないのは,①ルート1を大臣認定プログラムで設計したことによって適合性判定を必要とした場合,②建物規模が一級建築士でなくても可能なものをルート3などで設計した場合,のふたつです。ルート1に適合しているものをルート3で設計した場合は,適合性判定が必要で資格は必要としないのではという疑問については,ルート1に適合している(適合していることを計算書上で示している)ならば適合性判定は必要ありませんし,ルート1に適合しているかどうかを示すことなくルート3で設計した場合もあるのでは?という疑問については,「ルート1に適合しているかどうかを最後まで示すことなくルート3の設計を終える」ことは不可能だと思いますし,可能だったとしても,適合性判定も構造設計一級建築士の資格も必要なのだと思います。

逆に,適合性判定を必要としないで構造設計一級建築士の資格を必要とするのは,60mを超える場合で法第20条第1項第1号の設計をした場合です。

このページの公開年月日:2018年5月13日