建築物かどうかの判断例

<建築物かどうかの判断例>

建築基準法上の建築物に該当するかどうかは,〈建築物の定義〉に当てはまるかどうかです。ですから,定義の条文を見れば建築物かどうかが判断できるとはいうものの,

小さな手で持てる犬小屋,

大型犬の犬小屋,

大型犬を5匹飼う犬小屋,

もっと大きな犬小屋

とだんだん大きくなった時に,手で持てる犬小屋を建築基準法の規制を受ける建築物という人はいないと思いますが,規模のあるものについてはどこかで線を引いて建築物として安全規定を適用することになります。こうした,どこで線を引くか,というテーマに対しては「建築物の定義」を読んでも判断できません。

例えば,「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」では,8つの事例で建築物に該当するかしないかを解説しています。

<海水浴場の休憩所等>

屋根があるものは建築物であり,上部の材料が容易に取り外し自由である場合は建築物ではないとされています。

これを受けてどのように適用するかが難しいところでして,屋根だけが容易に取り外せるようになっていても,壁,床,建具などが恒久構造物として建築されていて,形の上で容易に取り外せるだけで事実上取り外されることはなく,夏の間だけではなく,1年中屋根がかけられたままであるならば,建築物であるとすべきものだと思います。海水浴場の休憩所等で建築物に該当しないのは,7月8月のみの季節的な利用で,屋根だけではなく他の構造要素も簡易的なもので,オフシーズンにはすべてが撤去されるものと考えています(個人見解です)。

<テント工作物>

素材がテントであろうと,屋根は屋根であり恒久的に使用されるものは建築物です。「適用事例」では,建築物に該当しないものの例として「一時的な目的で設置する簡易なキャンプテント,運動会用のテント等」をあげています。

キャンプ場など自然の空間で1夜を過ごすために4人用とか8人用程度のキャンプテントを建てることに建築基準法を適用する人はいないでしょう。運動会のトラックの周りに「〇〇小学校PTA」などと書かれたテントを建てるにあたって建築基準法を適用する人もいないでしょう(運動会は雨が降ると中止になるのですから屋根の役割はしていません)。

今どきは,イベントや式典でもっと大きなテント屋根が設置されますが,これが建築物にあたるのかどうかは難しいところです。この解説からすると,アウトドアのキャンプテントや運動会のテントとは規模が違いますし,テントの下に多人数が着席し,雨が降っても式典は中止にならないので屋根としての役割もありますから,建築物に該当するとの考え方になりますが,上記の「海水浴場の休憩所等」の「季節的(イベントという数時間のみ)な利用」ということで適用していないのだと思います。ただし,イベントによっては数万人規模で非常に大規模なテントもありますから,どこかで線を引いて建築物としなければいけないのだと思います(個人見解です)。

<車両を利用した工作物>

タイヤがついていて移動できるものは建築物ではありません。ただ,「適用事例」では建築物として取り扱うものとして「給排水など・・が,簡易な着脱式でないもの」「随時かつ任意に移動できるものとは認められないもの」などを建築物として扱うものとしています。

私はそのことに加えて,本当に移動しているかどうかが重要だと考えています。「適用事例」で示しているように移動可能な状態にしていても,敷地内でまったく動くことなく1年とか数年置かれているものは,「移動可能なだけで移動していない」のですから,建築物として適用すべきと思います(個人見解です)。

<コンテナ>

船舶や鉄道で貨物輸送用に使われるコンテナを敷地において倉庫などとして使う場合は建築物に該当すると解説されています。

コンテナは重量がありますし,屋根・壁をもち密閉された空間になりますから,建築物になるというものです。もちろん,空っぽのコンテナを敷地内に置くことは,コンテナを置いているだけですから建築物ではありません。

<係留船>

「適用事例」では,「従来より,・・単に陸上で土地に強固に結合されている状態のみならず,水面,海底等に定常的に鎖等で固定された状態を含むものである」と解説されています。

固定されている海上ホテルなどを対象としているものと思われます。

<機械式自動車車庫>

屋根のある機械式自動車車庫が建築物に該当することはいいと思います。屋根がないものでも高さが8mを超えるものは建築物として取り扱うとされています。

8mを超えるものが建築物となることの根拠を探したのですが,基準法上には見当たりません。S59通達東住指発第143号で8mを超える機械式駐車場が建築物として扱われることが書いてありますからこれが根拠かなと思います。

<開閉できる屋根を持つ工作物>

開閉できる屋根を持つ屋内プールは建築物であることが示されています。屋内プールの場合,屋根を開くのは夏場の数か月間だけで,閉まっている期間の方が長いのですから,屋根として建築基準法の適用を受けるということでしょう。

開閉式のテント屋根を建築物として扱うかどうかは本当に難しいです。判断基準として示されているのは「屋根としての効用を有するかどうか」「土地への定着性が認められるかどうか」です。屋上ビヤガーデンの開閉式テントはどうなのかとビールを飲みながら考えるのですが,雨が降ってきたら閉めるのですから屋根としての効用がありますし,柱はりで屋上スラブに定着していますから建築物なのでしょう。イベントで使うテントのように数時間で撤去されるものとも違います。世の中のビアガーデンの開閉式テントが建築物として扱われているのかどうかは私は知りません。

<通信機器収納施設など>

受水槽にポンプ室が付属していますし,受電のキュービクルも機械を屋根・壁が包んでいます。外側にある面材を含めてそれが機械なのか,外側の面材を屋根・壁であるとして,屋根・壁の中に機械が入っていると考えるかで建築物かどうかが変わってきます。

「適用事例」では,扉を開いて人が内部に入ってメンテナンスするものは建築物であり,扉を開いたら機械は密集していて扉の外に人が立ってメンテナンスするものは建築物ではないとしています。通信機器収納施設については,扉の外に人が立ってメンテナンスするかどうかで建築物かどうかを判断するのですが,受電のキュービクルはちょっと違います。機器が密集していて人が中に入らないものは,床面積を持つ建築物ではありませんが,キュービクルは建築設備ですから建築設備としての建築物です。

建築物に該当するかどうかは,通達によっても示されています。

<コンテナを利用したカラオケボックス>

平成元年7月18日建設省住指発第239号通達「コンテナを利用した建築物の取扱いについて」で,カラオケボックスへの基準法の適用が示されています。

平成元年当時は,鉄道のコンテナに扉をつけて内装も改装してカラオケボックスにして敷地に並べておいただけの状態でカラオケ営業するものが多くみられました。敷地に置くだけなので確認申請をとらずに,設置(建築)する事例が後をたたなかったために,この通達が出されたものと記憶しています。

この通達によれば,コンクリートの基礎があり基礎に緊結されていることが条件とされています。また,カラオケルームは法別表第1(い)欄第4項の遊技場に該当するとも書いてあります。

<コンテナ型データセンター>

平成23年3月25日国土交通省国住指第4933号通達「コンテナ型データセンタに係る建築基準法の取扱いについて」で,示されています。

この通達によれば,コンテナ内が機器を収納するだけのぎりぎりの空間であり,稼働時は無人で危機管理時以外は内部に人が立ち入らないものについては建築物に該当しないとしています。ただし,複数積み重ねる場合は建築物に該当するとしています。

「パワーコンディショナー」や「蓄電池」を収納するコンテナについても同様の通達が示されています。パワーコンディショナーとは太陽電池発電設備において発電された直流電気を交流の電気に変換する設備のことです。平成24年3月30日国土交通省国住指第4253号と平成25年3月29日国住指第4846号で示されています。

<トレーラーハウス>

平成9年3月31日建設省住指発第170号通達「トレーラーハウスの建築基準法上の取扱いについて」で,示されています。

ここで言う「トレーラーハウス」とは,車輪を有する移動型の住宅で原動機を備えず牽引車により牽引されるもの,としていて,取り扱いはキャンプ場におけるものに限定しています。規模,形態,設置状況などから判断して随時かつ任意に移動できるものは建築物に該当しないとしています。キャンプ場に限定した取扱いですから,キャンプ利用者が持ち込むものが建築物に該当しないのは当然と言えるでしょう。キャンプ場の経営者が設置してキャンプ利用者に貸し出すのであれば,簡易宿泊所としての営業許可が必要でしょうし,建築物に該当するものと思います(個人意見)。

<小規模な鋼製物置>

商品名でいうとヨド物置とかイナバ物置などの鋼製物置が建築物にあたるかどうかの判断基準が平成27年2月27日国住指第4544号技術的助言「小規模な倉庫の建築基準法上の取扱いについて」で示されています。

「土地に自立して設置する小規模な倉庫(物置等を含む)のうち,外部から荷物の出し入れを行うことができ,かつ,内部に人が立ち入らないものについては,建築基準法第2条第1号に規定する貯蔵槽に類する施設として,建築物に該当しないものとする。」とされています。

鋼製物置で3mかける4mぐらいのけっこう大きなものもあって,それはさすがに建築物であり倉庫として扱わなければならないですが,2mかける3m,1mかける2mと小さなものになったときに,どこで線を引くのかが明らかではなかったです。

この技術的助言が出たおかげで,小さなものは建築物ではないことがはっきりしました。小さいことの定義は,物置の扉の外に立って手を伸ばして物を出し入れできるものは建築物ではなく,人が中に入って物を出し入れするものは建築物であるとしています。手を伸ばして届く範囲ですから,普通に考えて奥行き1mを超えれば建築物となると思います。奥行き1.5mでも「おれは絶対に手を伸ばして使う」と主張すれば認められると思いますが,奥行き2mであれば認められないものと思います(個人意見)。

この技術的助言が出る前は,畳1畳分の鋼製物置でも建築物であるとして規制する行政庁もあったようです。もっと大きなものと比較して線を引くことができないからそうしたのでしょう。線を引きにくい問題に「人が中に入るか入らないか」という判断基準を示した国土交通省の決断に敬意を表します。

<仮設トイレ>

イベントなどで設置される仮設トイレが建築物にあたるかどうかの判断基準が平成16年9月13日国住指第1551号通達「仮設トイレの建築基準法上の取扱いについて」で示されています。

「仮設トイレのうち,規模,形態,設置状況(給排水等の設置が固定された配管によるものかどうかなど)等から判断して,随時かつ任意に移動できるものは,建築基準法第2条第1号に規定する建築物には該当しないものとして取扱うこと」とされています。

「適用事例」の解説によって,建築物であるかどうかの判断基準が示されているとはいえ,それでもなお難しいというのが実態です。

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このページの公開年月日:2017年6月25日