<建築物の定義の「これに類する構造のもの」とは何?>
〈建築物の定義〉は,法第2条第1号で「~,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。),~」と示されていますが,この「これに類する構造のもの」とは何でしょうか。
これを解説したものとしては,「建築確認のための基準総則・集団規定の適用事例」があって,「例えば,一層二段の自走式自動車車庫で駐車のための屋上床版(床を兼ねる屋根)に穴を空けているもの等は「これに類する構造のもの」として含まれることとなった。」と示されています。
この条文は,昭和の末から平成の初めにかけて議論になった一層二段の自走式自動車車庫の取り扱いを法文的に解決するためのものとして追加されたものです。テーマとなった一層二段の自走式自動車車庫は,1階の屋根(=屋上の床)に穴が空いているもので,「穴から雨が漏れ,雨を防ぐ能力がないから屋根には該当せず,基準法の建築物の定義に該当しない」と主張したことが議論になっていました。これが建築物に該当して建築基準法の適用を受けると,規制が大きく変わってきます。それは,建ぺい率・容積率の制限適用されること,住居系地域における駐車場の面積制限が適用されることです。
この議論に決着をつける,つまり,それを建築物の定義に加えることの改正が「これに類する構造のものを含む」で,平成5年6月25日に施行されました。当時の改正を説明する通達は次の2つです。
H5通達住指発第224号:
「建築物の定義を改め,土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱又は壁を有するものについて,これに類するものを含むこととした。」
H5通達住指発第225号:
「その趣旨は,従来から解釈上建築物として取り扱っていたものについて,法文上,建築物としての位置づけを明確にするものであり,建築物の対象についての従前からの取扱いが変更されるものではないことに留意されたい。」
2つの通達ともそのタイトルは「定義の明確化」なのですが,法文の「これに類する構造のもの」といわれても何のことかわかりませんで,当時の議論を知っていて通達でいう「従来から解釈上建築物として取り扱ってきたもの」が何であるかがわかる人だけがわかるというものです。
改正前の議論を推察できる通達は次の4つがあります。
〇「立体自動車車庫の取り扱いについて」(S59通達東住指発第143号)
〇「立体自動車車庫の取扱いについて」(S63通達広築指第2号)
〇「立体自動車車庫の取扱いについて」(H1通達前建指第6号)
〇「一層二段の自走式自動車車庫に関する建築基準法上の取扱いについて」(H4通達住指発第142号)
S59通達では,床が網目状になっている自走式立体自動車車庫と高さが8mを超える屋根のない機械式立体自動車車庫が質疑対象で,建築物に該当すると回答しています。
S63通達とH1通達では,一層二段の自走式立体自動車車庫で床がチェッカープレートで基礎がなくアスファルト舗装された土地に設置されたものが質疑対象で,建築物に該当すると回答しています。
H4通達では,一層二段の自走式自動車車庫の設置業者との判決が出たことに関する国の見解が示されています。判決理由に「雨覆の機能を果たしていると認めることはできず,本件駐車設備が屋根を有するとは認めることができない。よって,本件駐車設備は「建築物」であるということができない。」と「本件駐車設備は法第88条第2項にいう「工作物」に該当する」の2点が示され,結論として「法第88条第2項によって準用される法第6条第1項及び法第48条に違反するから,本件処分(特定行政庁の是正措置命令)は適法である。」としています。これに対する建設省の見解は,「人及び車が出入りする通常の自動車車庫として十分な広さ,高さを有する内部空間が屋上部分と明確に区画されたものであり,このため,当該自動車車庫は,法第2条第1号に規定する建築物に該当するものであると解されるものである。なお,今回の判決のとおり自走式自動車車庫が法第2条第1号に規定する建築物には該当せず,法第88条にい規定する工作物として取り扱われた場合には,自走式自動車車庫の内部に滞留する不特定多数の人の安全性を確保することが困難となり,また,住居系地域以外の地域においては,建ぺい率制限及び高さ制限を受けずに建築が可能となる等市街地環境に著しい悪影響を与えることとなる等の問題が生じると考えられる。」としています。
これらの通達から建築物の定義である「これに類する構造のもの」の内容が「一層二段の自走式自動車車庫」であり「屋根にあたる部分に穴があって雨を避ける機能のないもの」を含むのだということがわかります。
ついでに,S59通達で示されている高さが8mを超える屋根のない機械式立体自動車車庫も建築物として扱われているようです。
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<感想>
法律の規制の適用においてすれすれのものの取扱いの難しさを示している例です。床に穴の空いた一層二段の自走式自動車車庫が建築物に該当するかしないかは,建ぺい率・容積率制限や48条の用途規制を受けるかどうかという点において重要な違いがあり,設置者は,建築物の定義である「屋根及び柱又は壁を有する」とする建築物の定義を利用して「雨を防ぐ機能のないもの(屋根にあたる部分に穴を空けた)は建築物ではない」としたものです。規制することの必要性はH4通達の末尾に記されたとおりであり,これを建築物ではないとして規制を逃れる行為は認められてはならないのだろうと思います。
そのことを,翌年の法改正で定義を修正することで明確にしたのですが,「これに類する構造のものを含む」との規定は,明確になっていないという点においてまずかったのだと思います。基準法にはここ以外にも「その他これらに類するもの」という文面は複数あって,そうしたものの一つに過ぎないとの見方もありはしますが,裁判をして建築基準法の冒頭の定義である「建築物」を争ったことを明確化するのですから,言葉で明確にしてほしかったです。
例えば,「これに類する構造のもので,政令で定めるもの」として,政令で,「多段の自走式自動車車庫で床板に雨を避ける機能を有しないもの」としてほしかったです。
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このページの公開年月日:2017年6月19日