<特殊建築物>
「特殊建築物」は,法第2条第2号で次のように定義されています。
特殊建築物:学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。),体育館,病院,劇場,観覧場,集会場,展示場,百貨店,市場,ダンスホール,遊技場,公衆浴場,旅館,共同住宅,寄宿舎,下宿,工場、倉庫,自動車車庫,危険物の貯蔵場,と畜場,火葬場,汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。
「特殊建築物」は,「建築物」の次に定義される重要な用語であり,法適用上の重要な考え方です。ですが,法適用上で重要なのは,「別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物」です。日常的に「特殊建築物」という場合は,「別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物」を指していることが多いですし,法第6条第1項第1号で手続きが強化されるのも,法第35条などで基準が強化されるのも「別表第1(い)欄に掲げる用途」に限定されます。
<別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物>
「別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物」は,別表第1と政令第115条の3で次のように定義されます。
別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物 | |
別表第1(い)欄 | 令第115条の3 |
1.劇場,映画館,演芸場,観覧場,公会堂,集会場 | (なし) |
2.病院,診療所(患者の収容施設のあるもの),ホテル,旅館,下宿,共同住宅,寄宿舎 | 〈児童福祉施設等〉 |
3.学校,体育館 | 博物館,美術館,図書館,ボーリング場,スキー場,スケート場,水泳場,スポーツ練習場 |
4.百貨店,マーケット,展示場,キャバレー,カフェー,ナイトクラブ,バー,ダンスホール,遊技場 | 公衆浴場,待合,料理店,飲食店,物品販売業を営む店舗(床面積が10㎡以内のものを除く) |
5.倉庫 | (なし) |
6.自動車車庫,自動車修理工場 | 映画スタジオ,テレビスタジオ |
別表第1の1から6を分類すると次のようになります。
1.は,前方にステージがあって,演劇や,落語や,音楽コンサートや,講演が演じられてそれを多数の観衆が座って,または,立ち席で見る施設のことです。映画館はステージではなく大画面です。
2.は,多数の人が寝泊まりする施設です。ただ,福祉施設には,障害者の就労支援施設や高齢者のディサービスも含まれていますから,寝泊まりのないものもあります。「児童福祉施設等」は複雑ですので〈児童福祉施設等の定義〉で解説します。
3.は,学校やスポーツ施設です。水泳場は屋根のあるものに限られます。プールに屋根がなくてもプールの更衣室やシャワー室には屋根がありますからそれは特殊建築物であるなどということはありません。スケート場はともかく,スキー場が入っているところが不思議ですね。屋根のある屋内スキー場のことです。
4.は,物を売る店舗や飲食店のことです。
5.は,倉庫です。
6.は,自動車車庫です。自動車にはガソリンが入っていて燃えるからという理由なんでしょう。自動車修理工場も同じ理由だと思います。ただ,日本の車がめったなことで燃えたりはしないと思いますし,いろいろな業種の工場の中で自動車修理工場だけが特殊建築物であるというのは,疑問に感じます。映画スタジオ,テレビスタジオは私は経験がありません。放送施設を含む放送局の社屋自体を特殊建築物に指定するならともかくも,スタジオのみを指定しているのはさっぱり意味がわかりません。もちろん,スタジオと放送施設を別棟で建てたりはしませんから,スタジオを持つテレビ放送局は社屋全体が特殊建築物になります。
「別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物」について,法令上で定義されていることは,上記のように
法第2条第2号
法別表第1(い)
令第115条の3
に加えて,「児童福祉施設等」を定義する令第19条第1項とその用語を解説する福祉関係の法令です。
定義する条文を読めば特殊建築物かどうかが判別できるかと言えばそうではありません。〈特殊建築物かどうかの判断〉で解説します。
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<備考>
「別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物」を定義する条文は,法第2条第2号からはじまって,福祉関係の法令の条文まであって,とても膨大です。一つの用語を定義する条文としては最も文字数の多いものに含まれます。そういう意味でも建築基準法の最も難解な用語の一つと言えます。
<キャバレー>
昭和25年の制定ですから,キャバレー,カフェー,ナイトクラブ,バーといった用語が使われています。
<ボーリング>
「ボーリング」は地質調査で地面から掘り進むことです。球を転がすスポーツは「ボウリング」と書きます。建築基準法が規制する「ボーリング場」は地質調査の愛好者が掘削技術を競う屋内競技場のことなんです。建築基準法の制定時に「ボーリング」と「ボウリング」の用語が混在していたのでしょうか。実は少数ですが「ボーリング」と書いた「ボウリング場」もありますね。
<政令指定の定期報告対象建築物>
2016年6月施行の基準法改正で政令指定で定期報告対象となった建築物に「サービス付き高齢者向け住宅」「認知症高齢者グループホーム」「障害者グループホーム」があります。「サービス付き高齢者向け住宅」は,共同住宅か寄宿舎か有料老人ホームのいずれかに該当する特殊建築物です。「認知症高齢者グループホーム」「障害者グループホーム」は寄宿舎に該当する特殊建築物です。「小規模的脳型居宅介護の事業所」「看護小規模多機能型居宅介護の事業所」は「老人短期入所施設」に該当する特殊建築物です。
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このページの公開年月日:2017年8月25日