<児童福祉施設等の定義>
〈特殊建築物〉を定義する条文の中に「児童福祉施設等」があります。これがとても難しい用語ですので,整理してみました。
「児童福祉施設等」という用語は,法別表第1の「政令で定める用途」のものとして令第115条の3第1号で示されています。この条文だけ見るとこの用語の意味がわからないので,建築基準法の中でもわかりにくい用語とされています。「児童福祉施設等」という用語は,実は,政令の条文をさかのぼって令第19条第1項で次のように定義されています。
児童福祉施設等:児童福祉施設(幼保連携型認定こども園を除く。),助産所,身体障害者社会参加支援施設(補装具製作施設及び視聴覚障害者情報提供施設を除く。),保護施設(医療保護施設を除く。),婦人保護施設,老人福祉施設,有料老人ホーム,母子保健施設,障害者支援施設,地域活動支援センター,福祉ホーム又は障害福祉サービス事業(生活介護,自立訓練,就労移行支援又は就労継続支援を行う事業に限る。)の用に供する施設
建築技術者にはあまりなじみのない福祉に関係する施設の名称が並んでいます。これらの施設が何であるかは福祉関係の法律を見ることになります。
用語 | 根拠条文 | 定義 |
児童福祉施設
(建築基準法で「幼保連携型認定こども園」は除かれる) |
児童福祉法第7条第1項 | 助産施設,乳児院,母子生活支援施設,保育所,幼保連携型認定こども園,児童厚生施設,児童養護施設,障害児入所施設,児童発達支援センター,情緒障害児短期治療施設,児童自立支援施設及び児童家庭支援センター |
助産所 | 医療法第2条 | (助産師が出産を支援する施設です。) |
身体障害者社会参加支援施設
(建築基準法で「補装具製作施設及び視聴覚障害者情報提供施設」は除かれる) |
身体障害者福祉法第5条第1項 | 身体障害者福祉センター,補装具製作施設,盲導犬訓練施設及び視聴覚障害者情報提供施設 |
保護施設
(建築基準法で「医療保護施設」は除かれる) |
生活保護法第38条第1項 | 救護施設,更生施設,医療保護施設,授産施設,宿所提供施設 |
婦人保護施設 | 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第5条 | (被害者を保護する施設です。) |
老人福祉施設 | 老人福祉法第5条の3 | 老人デイサービスセンター,老人短期入所施設,養護老人ホーム,特別養護老人ホーム,軽費老人ホーム,老人福祉センター及び老人介護支援センター |
有料老人ホーム | 老人福祉法第29条第1項 | (老人を入居させて介護などを行う施設です。) |
母子保健施設 | 母子保健法第23条 | (母子保健法上では「母子保健センター」という用語になっている。) |
障害者支援施設 | 障害者総合支援法第5条第11項 | (入所支援と入所せずに行う支援がある。) |
地域活動支援センター | 障害者総合支援法第5条第25項 | (障害者の創作的活動など) |
福祉ホーム | 障害者総合支援法第5条第26項 | (障害者が居住できる施設) |
障害福祉サービス事業の用に供する施設
(建築基準法で「生活介護,自立訓練,労移行支援又は就労継続支援を行う事業」に限られる) |
障害者総合支援法第5条第1項 | 「障害福祉サービス」とは,居宅介護,重度訪問介護,同行援護,行動援護,療養介護,生活介護,短期入所,重度障害者等包括支援,施設入所支援,自立訓練,就労移行支援,就労継続支援及び共同生活援助をいう。 |
福祉施設ですから,大きくは,子供に対するもの,障害者に対するもの,高齢者に対するものにわけられます。施設の内容も,有料老人ホームや福祉ホームのように居住する施設もありますし,居住のない老人ディサービスセンターや障害者の自立支援施設もあります。保育園も児童福祉施設なんですね。
<政令指定の定期報告対象建築物との関係>
2016年6月施行の基準法改正で政令指定で定期報告対象となった建築物の中に「高齢者,障害者等の就寝の用に供する用途に供する建築物」があります。これに列記されるもののほとんどは上の表の用語にあてはまりますが,あてはまらないものもあります。
高齢者,障害者等の就寝の用に供する建築物 | 特殊建築物に該当する考え方 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 共同住宅か寄宿舎か有料老人ホームに該当 |
認知症高齢者グループホーム,
障害者グループホーム |
寄宿舎に該当 |
小規模多機能型居宅介護の事業所,
看護小規模多機能型居宅介護の事業所 |
老人短期入所施設に該当 |
「サービス付き高齢者向け住宅」は,高齢者の居住の安定確保に関する法律によるものです。このうち,「有料老人ホーム」に該当するものは児童福祉施設等の定義に当てはまり特殊建築物になります。それ以外のものは,冒頭の表の中にはありませんから児童福祉施設等に該当せず,特殊建築物ではないとも思えますが,サービ付き高齢者向け住宅のサービスを共同住宅で行うならば共同住宅として特殊建築物で,寄宿舎形式の建物であれば寄宿舎として特殊建築物です。
「小規模多機能型居宅介護の事業所」は介護保険法を根拠としていて冒頭の表にはありませんが,たどっていけば老人短期入居施設に該当するそうです。したがって,特殊建築物です。
用語の中に「盲導犬訓練施設」があります。これが何に該当するのか,ごめんなさい,わかりません。
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<備考>
「児童福祉施設等」に該当するかしないかを判別するのは難しいことです。私は「その施設は,福祉関係の法律の何法の何条の何にあたるものなのか,正式名称で教えてください」というようにしています。施設を運営する人は,なじみのある名称を使うのですが,通称である場合があって,福祉のことを知らない建築技術者にとっては,法律の根拠から教えてもらわないとわからないからです。
<備考>
このページでは,令第19条第1項で定義される用語を福祉関係の法令から引用しています。あくまでも引用です。建築基準法で使われている「児童福祉施設」が何であるかは,児童福祉法第7条の同じ用語で考える以外にないとは思いますが,法令上の関連はありません。法令上の関連がないということを通常は意識する必要はありませんが,建築士試験だけは影響があります。建築士試験の法令問題は,厳密に法令上定義されているものだけから出題されますから,「児童福祉施設」を定義する児童福祉法第7条は試験対象になりません。
<別表の特殊建築物>
法第2条第2号で定義される特殊建築物と別表第1(い)欄の特殊建築物とは別物です。ですが,このページで「特殊建築物」としているのは,別表の特殊建築物のことです。
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このページの公開年月日:2017年8月26日