1 建築基準法の法体系

<1 建築基準法の法体系>

建築基準法の法体系は次のようになっています。

  • 建築基準法(以下,「法律」という。)
  • 建築基準法施行令(以下,「政令」という。)
  • 建築基準法施行規則(以下,「省令」という。)
  • 建築基準法の関係告示(以下,「告示」という。)
  • ____県建築基準法施行条例(以下,「県条例」という。)
  • ____県建築基準法施行規則(以下,「県規則」という。)
  • ____県告示

これが,建築基準法の法体系です。

このように体系化されていることが,わかりやすいと言うか言わないかは人によって違うでしょうが,法律から政令に飛んで,政令から告示へ飛んでというように頭の中が非常に混乱してしまいます。なぜ,こんなふうに体系化されているのかを私なりに解説してみます。

<1.法律と政令などの関係>

建築基準法は,国会の議決を経て国が定めるもので,国民の義務を規定して建物が守らなければならない基準を大まかに定めています。建築基準法施行令(政令)は,政府が定めるもので,法で定めた基準の内容を細かく規定します。建築基準法施行規則(省令)は,国土交通省が定めるもので,手続きの様式を示して必要な添付書類を規定します。告示は,国土交通大臣が定めるもので,法令や政令で定める基準の内容をさらに細かく規定します。__県建築基準法施行条例(県条例)は,法第40条等を根拠として県議会の議決を経て各県が定めるもので,法の制限を附加(つまり強化)します。__県建築基準法施行細則(県規則)は,特定行政庁たる__県が定めるもので政令第42条等を根拠として制限を強化(あるいは緩和)する区域を指定する他,法令に定めのない軽微な手続きを規定します。

人に義務を科すことを規定できるのは原則として法律だけである

このように書くと「では,政令に書いてあることは国民の義務ではないのか。」と疑問に感じる方もおられるでしょうね。具体例として政令第19条第1項を見てみましょう。

政令第19条第1項:法第28条第1項の政令で定める建築物は児童福祉施設・・・とする。

と記されています。政令には「~しなければならない」とは規定せず,法第28条第1項に「政令で定める建築物には採光のための窓を設けなければならない。」と義務を定めています。法律で義務を定めて政令に移行させることによって政令の条文が有効になってくるわけです。政令の条文の多くは「法第○条で定める○○は,」ではじまっています。

とはいえ,「法第○条で定める○○は」がついていない政令の条文もありますね。政令第21条第1項がそうです。

政令第21条第1項 :居室の天井の高さは,2.1メートル以上でなければならない。

「義務を科すことができるのは法律だけである」との原則に外れていますが,政令第21条第1項は,法第36条に「床の高さに関して,この章の規定を補足するための技術基準は,政令で定める。」を根拠としているので政令第21条第1項は国民の義務として成立しています。このように,政令の条文には必ず出発点となる法律の条文があります。

<2.手続きの方法について規定するのは省令である>

法第6条第1項を見てください。ここでは建築主の確認申請書の提出義務を規定しています。その上で省令第1条の3で申請書の様式や添付書類を定めています。このように,法律で手続きを必要とする義務を定めて様式を省令で定めるのが原則です。

でも,例外もあります。省令第1条を見てください。ここには「検定を受けようとする者は,申込書を提出しなければならない」と提出義務が記されています。原則は法律で提出義務を規定すべきですけれども,この申請は資格を受けるためのものであり申請しなければ受験できないというほとんど当たり前のことなので,省令で規定しているのだと思います。

余談ですが,行政側が発行する確認通知書の様式も省令第2条で規定されていますのでこれは行政庁の義務となります。

<3.告示で定めることの根拠は法律・政令にある>

法第2条第7号に「~国土交通大臣が定めた構造方法を~」という言葉があります。この言葉があるから告示でその内容を規定することができます。こうして定めた告示は,もとになる法令をたどって義務を発生させることができます。現在とてもたくさんの告示が出ています。告示だけで1冊の本(分冊)になっているくらいです。こうして出版されているものは,「告示(抜粋)」と書いていない限り出版時点での全部の告示です。ちなみに,法律や政令に「国土交通大臣が定めた○○」と書いてあっても告示のないもの(いわゆる未制定告示)もあります。

<4.県条例は法第39条,第40条,第43条,第56条の2を根拠としている>

都道府県条例については広島県を例にして説明します。

県条例は必ずしも法令を根拠とする必要はなく自治体の意志で議会の議決を経ることで制定できるものですが,広島県の場合,広島県建築基準法施行条例の条文はすべて建築基準法の第39条,第40条,第43条,第56条の2を根拠としています。そして「義務を科すことができるのは法律だけである」との原則からは外れますが,条例も議決を経て制定されるものですから,その地方自治体のエリア内でする人の行動に対して義務を規定することができます。その自治体の県民・市民に対してのみではなく,旅行してたまたま訪れた人に対しても適用されます。東京都千代田区にパブリックスペースでの喫煙を規制する条例がありますが「私は千代田区民ではないから条例は適用されない」などということはありません。

上記は都道府県が定める条例ですが,市町村が定める条例もあります。ひとつは,法第41条を根拠とするものです。第40条は制限の附加(強化)であるのに対して,第41条では制限の緩和を規定できるようになっています。この条例を定めることができるのは市町村のみに限られていますが,これを制定している市町村は広島県内にはありません。他には,法第85条の2を根拠とするもので竹原市の伝統的建築物群保存地区内における制限の緩和を規定するものがあります。あとのふたつは,法第68条の2を根拠とする地区計画区域における建築物の制限に関する条例と,法第69条を根拠とする建築協定を定める条例です。

<5.県規則は区域の指定と手続きの方法を補足する>

ここも広島県を例にして説明します。

県規則は,2つの役割を持っています。

ひとつは,政令第32条第1項のように浄化槽の放流水質について強化(あるいは緩和)する地域(区域)を定めることです。放流水質の他には,軟弱地盤の区域,強風が吹く区域,多雪区域などがあります。これらは,法律等に「特定行政庁が規則で定める○○」との条文があってそれを根拠としています。

次に県規則のもうひとつの役割は,手続きの方法を補足することです。例えば,確認申請書に敷地等断面図の添付を規定していますが,これは省令第1条の3第7項を根拠として県条例第4条の2に適合していることを示すための資料として添付を義務付けたものです。

ここまでは原則どおりですが,常に原則どおりとは限りません。取下げ届・建築主の変更届・設計変更届・工事取り止め届は県規則第31条から第34条に規定されている義務ですが,実はこれらの条文には根拠となる法文はありません。原則は法律に根拠を求めるべきですが,例えば建築主が変更された場合に,電話で「AさんからBさんに変更したよ」と言葉で言って済むはずもなく,何らかの形で文書で提出しなければいけないのは当然のことですから,それを県規則で規定しただけのことです。あえていうならば,建築主の変更届の提出義務は法第6条第1項の確認申請書の提出義務に付属したものだということができるでしょう。

もう一点,例外的なことがあります。それは,法第42条第2項道路の指定のように法律等で「特定行政庁が指定する○○」を県規則で規定していることです。法第42条第2項には「特定行政庁が規則で指定する○○」とは書いていないのですが,広島県ではそのいくつかを県規則で規定しています。第2項道路の他には,定期報告建物の指定,角地緩和の指定などがあります。

※ 上記で「県規則」と書いたものの名称は,「広島県建築基準法施行細則」です。法律では「規則で定める」と書いているのに,広島県が定めたのは「細則」です。間違っているような気もしますが,「細則」という名の「規則」です。なんでそんなまどろっこしいことをしたのか私にはわかりません。

※ 「県規則」は制定根拠を法律等にある「特定行政庁が規則で定める○○」としていますから,特定行政庁として定めたものです。広島県内には,広島市,福山市など広島県以外の特定行政庁がありますが,県細則は他の特定行政庁には及びません。したがって,各市はそれぞれ規則を定めています。

<6.県告示は特定行政庁としての意思>

これも広島県の例で説明します。

建築基準法関係で広島県が告示として出しているものは4件あります。1つは,建築計画概要書の閲覧場所等を定めたものです。省令第11条の4第3項で特定行政庁は告示で示すことが規定されており,「広島県建築計画概要書等閲覧規定」(昭和46年県告示第120号)として定めています。もうひとつは,「建築基準法の規定による特定工程及び特定工程後の工程の指定」(平成23年10月27日県告示第1004号(平成26年9月29日付けで3年延長を改正))で戸建住宅の中間検査を指定しています。残りのふたつは「建築基準法の規定による数値の指定」(平成16年3月31日県告示第523号)と「建築基準法の規定による都市計画区域内の用途地域の指定のない区域における容積率等の指定」(平成16年5月31日県告示第794号)で,用途地域の無指定区域における容積率などの上限を規定しています。概要書の閲覧に関するもの以外は,告示として出さなければいけないとは規定されていませんが,特定行政庁の意思表示の方法として告示したものです。

以上が,建築基準法の法体系です。それぞれの役割分担が理解できると,法令を読むときの参考になります。

このページの公開年月日:2011年9月1日(最終更新:2021年4月4日)