「その他」と「その他の」

「その他」と「その他の」

一般的な文章の中で,「その他」と「その他の」が意味として違うなどということはありませんが,法律の中では,意味が違います。


建築基準法を読んでいくと,「その他」と「その他の」がさりげなくちりばめられています。例えば,

法第2条第2号では,「学校,体育館,○○,汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物」とあり,

同条第7号では,「鉄筋コンクリート造,れんが造その他の構造で」とあります。

いずれも,「A,Bその他C」「A,Bその他のC」という形をとりますが,意味が違うとはどういうことでしょうか。

「その他」:A,B,Cを並列する

「その他の」:A,BはCを説明するために参考として例示しただけで,条文として有効なものはCだけ

「その他」と「その他の」でこんな使い分けがしてあるなんて通常は思いませんが,法律上での用語としてそのようになっているのだそうです。明確にそうであることがわかるところを紹介します。

宅地造成等規制法第2条第1号の「道路,公園,河川その他政令で定める公共施設」は,「その他」で並列しているので道路はあらためて政令で定める必要がありません。その政令とは,施行令第2条のことなのですが,道路,公園,河川以外のものが列記されています。
ところが,その施行令第2条の中に記述されている「学校,運動場,墓地その他の施設で省令で定めるもの」は,「その他の」だから「その他の」の前にある「学校,運動場,墓地」は参考として例示しているだけで,「その他の」の後ろにある省令で定めたことのみが有効になることから,省令第1条で「学校,運動場,緑地,広場,墓地,水道及び下水道とする。」と「学校,運動場,墓地」を列記しています。

このように,作法上の用語として,「A,Bその他C」「A,Bその他のC」は違うのです,と解説させていただきますが,ほんとうにそうなのだろうか,と,私自身,疑問に思うところはあります。

「A,Bその他政令で定める施設」や「A,Bその他これらに類する構造」というときの「その他」は,並列ですのでAとBに「政令で定める施設」を加えるのです。これは,間違いありません。

でも,「その他の」の場合,「A,BはCを説明するために参考として例示しただけで,条文として有効なものはCだけ」と言ってしまったら,通じにくい条文も存在します。例えば,

法第2条第6号イ:防火上有効な公園,広場,川その他の空地又は水面、耐火構造の壁その他これらに類するものに面する部分

この条文の「その他の」は,「公園,広場,川」と「空地又は水面」をつないているのですが,「その他のだから,前段の『公園,広場,川』は条文上,有効でない」と言ってしまっていいのもでしょうか。公園などより広い概念である「空地又は水面」を規定しているのですから「結果的に『公園,広場,川』を含んで規定している」という意味において問題ないと言えばそのとおりですけど,しっくりしないものは感じます。

法第2条第7号:壁,柱,床その他の建築物の部分の構造のうち,耐火性能(~を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄筋コンクリート造,れんが造その他の構造で,国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。

この条文には「その他の」が2か所あります。

「壁,柱,床その他の建築物の部分の構造」と
「鉄筋コンクリート造,れんが造その他の構造」です。

これも「その他の」ですから,「その他の」の前にあるものは条文としては有効ではない,となるのですけど,さきほどと同じように,「建築物の部分の構造」の方が「壁,柱,床」より広い概念のものであるという点において問題ないとは言えますが,これもしっくりしないものを感じます。

このページの公開年月日:2013年4月(最終更新:2021年4月7日)