<マンション杭未到達事件>
事件の概要
○ 対象のマンション
マンション名:パークシティLaLa横浜
建設時期:2007年11月
構造規模:鉄筋コンクリート造,12階建て,共同住宅,705戸,構造上の棟数は4棟
○ 事件発見から建て替え決定までの経緯
2014年11月:EXP.Jの部分で手すりの高さのずれ約2.4センチを居住者が見つけ,事業者側へ連絡
2015年9月:事業者側の調査により,支持層に到達していない杭,施工記録が改ざんされた杭の存在がわかった
2015年10月19日:事業者側からの発表
2016年9月19日:マンション管理組合が議決により全4棟を建て替えることを決定(費用は事業者負担)
報道上では「傾いたマンション」とされた。
「傾く」とは,垂直に立っているものが斜めになること。柱が何センチ(何%)傾いているというデータはなかった。
<記事など>
この事件の建築上の問題点
建築上の表面的な問題点 →
「EXP.Jで構造分離して隣接している棟とのレベル差。約2.4センチ」
「基礎の不同沈下」
調査していくうちに次のことがわかった。
○ 沈下のあった棟の杭6本で支持地盤へ未到達(52本中の28本を調査したもの)
○全4棟で473本の杭のうち、支持層到達のデータ改ざんとセメント量の改ざんをしていた杭が3棟で70本
事業者の対応
事業者の対応:事業者負担で全棟建て替え
支持地盤へ到達していないとわかっているものは6本だけ。
その部分だけ補強する。その棟だけを建て替える。という結論ではなかった。
<事業者発表>
「平成27年10月19日」〈資料3〉← この時点ですでに全棟建て替えの方針を示している。
国土交通省の対応
この事件を受けて再発防止策として国土交通省がしたのは,次の2つ。
工事監理者に対して「基礎ぐい工事における工事監理ガイドライン」〈資料4〉
工事施工者に対して「基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置」〈資料5〉(建設業法に基づく告示)
その他,設計時における十分なボーリング調査が必要であることの注意喚起「基礎ぐいの適正な設計について」(通達)や中間検査における行政側による支持地盤確認の再確認「基礎ぐい工事に関する中間検査等について」(通達)を出している。
<再発防止の中心>
「建設業法の告示」で施工者の責任を明確にしたこと。
この告示では,
告示の第1号(1)~(7)は,建設業法上の一般事項で,設計図書に記された条件の確認,異なることを発見した場合の文書報告など
第2号(1)~(4)は支持層到達確認の必要事項,
第3号(1)~(5)は施工記録
を規定している。
この告示の規定で注目したいのは,
第3号(1):「下請負人は,基礎ぐい工事の施工を把握するために,オーガ掘削時に地中から受ける抵抗に係る電気的な計測値,根固め液及びくい周固定液の注入量等施工記録を確認し,当該(元請けの)建設業者に報告する」
第2号(2):「(元請けの)建設業者は,下請負人による杭の支持層への到達にかかるかかる技術的判断に対し,その適否を確認する。」
第2号(1):「監理技術者等(元請け)は,基礎杭工事における杭の支持層への到達に責務を有する」
つまり,支持層到達への責務を有するのは元請けの監理技術者だが,それができるのは,下請負人による支持層到達に係る技術的判断があって施工記録が提出されていることが前段で存在していなければならないということ。
これを踏まえたうえで,建築士による工事監理者としての責務がある。
工事監理者としての責務は「ガイドライン」で規定。
このガイドラインで注目したいのは,
3(2)工事施行者の施工計画:施工計画に,元請けと下請けの役割分担,杭の支持層への到達等の技術的判断方法,施工記録の確認方法,施工記録が取得できない場合の代替え手段等が適切に定められているか否かを把握することとする
という点。
ガイドラインでは,告示を受けて,工事監理者が行うのは,元請けと下請けがどのように役割分担し,支持層到達をどのように判断し,それをどのように記録し確認するかを求めるもの。試験杭への立会は求めているが,それ以外の杭は必要に応じて立会をするにしても,書類による確認であることが規定されている。