4 通達と解説書など

4 通達と解説書など

通達と解説書をひとまとめにするのは問題あると思いますか?  以前は国の行政機関が出す通達というものは法令の条文に近いものとして取り扱われていたため,通達を根拠としてかなり強い指導をする場面もありました。けれども,今は,通達は省庁の考え方を示したものにとどまり,法律を解釈するための尺度のひとつにすぎない,との考え方が主流となりつつあります。こうしたことから,ここではあえて,通達と解説書を同列で並べてみました。

①  通達・解説書でできること

現在,膨大な数の通達と解説書が出ています。これらの中に書いてあることを分類してみると次のようになります。

  • 条文の制定(改正)趣旨を説明する
  • 用語の定義を補足する
  • 法律用語を一般的な言葉で置きかえる
  • ちらばった条文を整理する(一覧表など)
  • 文字で書かれた条文を図形化する

などです。このように,通達・解説書は,条文を解説するだけであり,法文にない義務を附加することも緩和することもできません。その意味では,一般著者が書いた解説書とその本質は変わりありません。

急いでいるときは解説書の一覧表を見た方がわかり易いのでそうするのですが,必ずそのことを法文で確認するようにしてください。解説書では,意外なところで前提となる条件が抜け落ちていることがあります。

次に,通達の探し方と私が普段使っている解説書を紹介します。

②  通達の探し方

通達を探すときに私は,新日本法規が出版している「集録建築法規」を使っていますので,これで説明します。集録建築法規の第4巻が通達です。通達だけでこんなに分厚くなっています。でたらめに探していたのでは時間ばかりかかりますから,次のようにして探します。

○条文ごとに分類された目次

目次が法の条文ごとに分類されていますから調べたいものが法の第何条からきているものかをたどってそこにある通達を探す。単体規定は第39条の後に「雑件(建築基準法の疑点)」というのがありここで解説してあるものもある。

○条文の制定趣旨は改正通達

昭和27年に施行された建築基準法は半世紀以上経過して随分分厚くなりました。制定時には制定趣旨を説明する通達が通知されていますし,その後改正するごとに改正通達が通知されています。これらを読むことで条文を制定した目的がわかります。

○年次索引

通達が通知された年月日がわかっている場合は,年次索引で探す。

③  解説書の紹介

  • 国土交通省住宅局内建築基準法研究会編「建築基準法質疑応答集」
  • 国土交通省住宅局内建築基準法研究会編「事項別建築基準法規実務辞典」
  • 建設省住宅局監修「詳解建築基準法」
  • 建設省住宅局建築指導課,建設省住宅局市街地建築課監修「改正建築基準法(1年目施行)の解説」と「同(2年目施行)の解説」
  • 国土交通省住宅局市街地建築課「平成14年建築基準法改正の解説」
  • 日本建築行政会議編集「建築物の防火避難規定の解説2002」
  • 建設省住宅局建築指導課監修「建築設備設計・施工上の指導指針」
  • 建設省住宅局建築指導課監修「浄化槽の設計・施工上の運用指針」
  • 建設省住宅局建築指導課監修「工事中建物の仮使用手続きマニュアル」
  • 建築申請実務研究会編「建築申請memo」
  • 国土交通省住宅局建築指導課編集「図解建築法規」

解説書の書名をあげただけでこんになにあります。書店に行けば他にも解説書がたくさんありますし,「建築知識」などの雑誌で建築基準法の運用を特集することもあります。

さて,これらの解説書の使い方を解説しましょう。

「質疑応答集」と「事項別実務辞典」は加除式になっていて,通達も並列してあるので頼りになりますし運用が定着しているので法令に近いものだと言えます。「詳解基準法」は古い解説書で最近の改正条文が反映されていませんが,これも運用が定着していると言えます。次に,調べたい法文が最近改正されたものである場合には,それぞれに解説書(「改正建築基準法(1年目施行)の解説」など)がありますから,これらを見ることで改正が目指した制定目的を知ることができますし,最近の法改正は条文がかなり難解になっているので解説書を読んでから法文を読んだ方が理解するのが早いです。「防火避難規定の解説」などは,分野を絞って解説しているので便利です。最後の「申請memo」と「図解建築法規」は図表にまとめてあって初心者の担当者にとっては入門書として活用できますし,設計者がこれらを使っているので見ておくことは意味があります。

ところで,構造審査のための解説書はどうなったのだろうと思われましたか?  構造審査をどのようにして解説書のどの部分を利用するのかというのは,私はまだ整理できていないので省略させていただきます。

補足ですが,最も大切な解説書は,裁判所の判例です。法文がどんなに細かく規定してあっても,実務をやっているとどちらにでもとれることがたくさんあります。そうしたことで判断が分かれた場合に裁判所が判定してくれます。こうして出された判例は,法令を扱う上での重要な判断基準となります。「質疑応答集」に「判例編」があるので見てください。最近は行政側の常識とは異なる判決も出されています。

もうひとつ補足ですが,課長会議や県内特定行政庁会議の決定事項がありますね。古いもので昭和30年代のものからあって,パイプファイルで数冊になっています。これらの決定事項はどのような位置付けになるのでしょうか。これらは,国土交通省の通達と同じで建築基準法の法体系の外側にあるものです。このためこれらは第三者に対して法的な拘束力を持たないというのが基本的な考え方になります。ただ,担当者は組織の一員であるため,組織が決定したことと反する行動をすることは許されません。結果としてこれらの決定事項でもって申請者(設計者)へ助言・誘導することになりますが,助言・誘導までであって申請者に対して強制力を持たないものであることは注意してください。

④  通達・解説書の効力

通達や解説書は,法体系の外側にあるため法的な拘束力を持たないものです。このため,通達で法令にない義務を規定していてもそれは無効となります。では,何のために通達や解説書があるのでしょうか。

「着工」ということを例に考えてみましょう。

法令では建築工事の着手時期を確認通知後でなければならないことを規定しています。でも,着工とは何であるかは定義していません。このため,仮囲い,縄張り,掘り方,地業という一連の作業の中でどこを「着工」とするかが問題になります。解説書では,法規制の目的を勘案して理論的に「着工の定義はこうでなければならない」ということを解説しています。また,裁判でそれが争われることで着工が定義されていきます。このような過程を経て考え方として定着すれば,それは事実上,法令と同等のものになります。法律上で定義がないことを逆手にとって「今やっている基礎工事は着工にあたらない」と主張しても受け入れられません。解説書に書かれていることはそれだけでは拘束力のないものですが,解説している考え方が定着してくれば,法律の条文を補うものとなります。

このページの公開年月日:2011年9月1日