基礎杭工事の工事監理(ガイドライン)

<基礎杭工事の工事監理(ガイドライン)>

2015年10月のマンション杭の未到達事件を受けて,2016年3月に杭工事の工事監理についてガイドラインが出されています。

事件は,10年前に建設されたマンションで,EXP.Jで構造分離されたところで2センチ程度のずれが発見され,原因を調査していく中で,その部分の杭が強固な支持地盤に到達しておらず,施工記録上は杭施工の電流記録紙が流用されて到達したことになっていたものです。

ガイドラインは,このような事件の再発防止のために出されたものです。

発表の国土交通省HPはこちら「基礎ぐい工事に関する適正な設計・工事監理の実施に向けて」です。

まずは,施工者がすべき事項を告示で定めています。

基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置(概要)

基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置(平成28年告示国土交通省告示第468号)

上記告示の第1号(1)~(7)は,建設業法上の一般事項で,設計図書に記された条件の確認,異なることを発見した場合の文書報告などが記されていて,第2号(1)~(4)は支持層到達確認の必要事項,第3号(1)~(5)は施工記録について記されています。

注目したいのは,

第2号(1):「監理技術者等(元請け)は,基礎杭工事における杭の支持層への到達に責務を有する

第2号(2):「(元請けの)建設業者は,下請負人による杭の支持層への到達にかかるかかる技術的判断に対し,その適否を確認する。」

第3号(1):「下請負人は,基礎ぐい工事の施工を把握するために,オーガ掘削時に地中から受ける抵抗に係る電気的な計測値,根固め液及びくい周固定液の注入量等施工記録を確認し,当該(元請けの)建設業者に報告する」

です。

この告示では,下請負人による支持層への到達に係る技術的判断があって,施工記録の提出があって,責務を有するのは元請けの監理技術者等であることを規定しています。

以前から,「図面が10mの杭を打設するようになっていて,図面通りに施工したにもかかわらず支持地盤に到達していなくて建物が沈下し始めたら誰の責任なのか」が気になっていましたが,一義的には(元請けの)建設業者の責任であることが明確化されました。「図面通りに施工する」とは「図面が想定した性能を発揮できるように施工する」という意味であって,「図面に10mと書いてあるからその通りに施工した。あとは知らない」というものではありません。このことは,なかった概念を規定したのではなく,これまでの慣習を規定したものです。

ところで,支持層への到達の責務を有するのは元請けの技術者で,施工者(通常は株式会社)はその技術的判断の確認であることは,私は知りませんでした。(1)の規定が,その判断にミスがあった場合に技術者個人に損害賠償責任まで負わせる規定ではないことを祈りますが,私にはどちらであるかわかりません。


上記までが,施工者の対応で,これを受けて建築士である工事監理者が何をしなければならないか。これを規定したのがガイドラインです。

基礎杭工事における工事監理ガイドラインの策定について

基礎杭工事における工事監理ガイドライン

このガイドラインは,平21年9月策定の「工事監理ガイドライン」で示した確認方法の「基礎杭工事における合理的方法について具体的な考え方・内容を示すもの」とされています。「工事監理ガイドライン」には「別紙1~5」がついていて,基礎杭の部分は別紙1の「4.2施工」で「支持地盤,支持地盤への根入れ深さ」の確認をすることが工事監理の業務内容として示されています。今回出された「基礎杭工事における工事監理ガイドライン」は,この部分を補うものです。

で,規定した監理の内容は,施工計画の確認,施工記録の確認方法の妥当性などに加えて,試験杭は原則立ち合いとしていますが,他の杭は施工記録による確認としています。


加えて,法定の中間検査において行政側の検査員が杭の施工状況の確認をすべきことの通達が出ています。

基礎杭工事に関する中間検査等について(平成28年3月4日国住指第4241号)

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備考

このガイドラインを作る準備過程で「また,建築士の監理責任にするつもりか」「杭工事には全数,立ち会わなければいけなくなるのか」などと憂う声が聞かれましたが,再発防止策の根幹は,建設業法の新告示で適切な工事施工をするための施工者がすべき事項を規定したものです。

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このページの公開年月日:2016年3月20日