<偏心率の制限>
偏心率は,建築基準法施行令第82条の6で規定されています。いわゆるルート2では,各階の偏心率が0.15以下であることを規定しています。いわゆるルート3では,偏心率の制限はありませんが,0.15を超えると必要保有水平耐力を割り増しするようになっています。法律上の規制は別のページで解説することにして,ここでは,偏心率の規制の意味,算出式,算出式の意味について解説します。
<偏心率の規制の意味>
偏心率とは,各階を平面的に見て建物の重心と剛心(剛性の中心)とが離れている割合のことです。
偏心率が0であることが理想です。その状態では,地震による水平力は重心に作用し,その位置は剛心と一致していますからその階はねじれることなく水平に変位します。しかし偏心率が0でないと,重心に作用した水平力は,剛心と重心との距離分の曲げモーメントがその階に作用しますのでその階全体が回転してしまいます。この回転が大きいと地震時に建物全体がねじれ変形して外周部に大きな変形を生じますので,これを抑えるために制限しています。
<偏心率の算出式>
算出式は,令第82条の6で次のように規定されています。
Re=e/re
Re:各階の偏心率
e:各階の構造耐力上主要な部分が支える固定荷重および積載荷重(-かっこ内,略-)の重心と当該各階の剛心をそれぞれ同一水平面に投影させて結ぶ線を計算しようとする方向と直交する平面に投影させた線の長さ
re:国土交通大臣が定める方法により算出した各階の剛心周りのねじり剛性(KR)の数値を当該各階の計算しようとする方向の水平剛性の数値で除した数値の平方根(「弾力半径」という)
KR:略(ねじり剛性ですから,X方向の剛性にはY方向の距離(剛心からの距離)の二乗をかけて,Y方向の剛性にはX方向の距離(剛心からの距離)の二乗をかけて合計したものです)
<算出式の意味>
KRは,その階の床に剛心まわりにモーメントを作用させたときの剛性です。回転変位とねじりモーメントとの比例係数ですから,1ラジアン回転させるために必要なねじりモーメントがKRです。建築の場合床が1ラジアンという大きな回転変位を受けることはありませんから,例えば,1/100ラジアン回転させるのに必要なねじりモーメントの100倍がKRです。KRの単位は,ねじりモーメントを無次元であるラジアンで除したものですから,モーメントの単位と同じNmとなります。
ねじり剛性KRの意味がわかったところで,次はその算出をどのようにするのかです。
告示に計算式が書いてありますから,それに代入すれば算出できます,というのがひとつの答えではありますが,その式がどのように導き出されるかを,触りだけ説明します。
① 剛心まわりに1/100ラジアン回転させるのに必要なモーメントを算出してそれを100倍する
② それは,剛心から1離れたところにあるものは1/100の変位が生じるということだから,
③ その位置(通常は,そこにある柱)に剛芯からの距離かける剛性の1/100の水平力が生じ,それを剛心まわりのねじりモーメントにするのだから,さらに剛心からの距離をかける
ということを考えると,剛心からAの距離にある剛性Kを持ったもの(通常は柱)のねじり剛性はKA2になりますから,それぞれの剛性についてKA2を合計したものとなります。この算出では剛性も距離もX方向Y方向に分離して行いますから,告示式になります。
次は,弾力半径reです。
ねじり剛性を,その方向の水平剛性で除して平方根にしたものです。ねじり剛性の単位は,Nmで水平剛性の単位はN/mですから,水平剛性で除して平方根すれば単位はmになりますね。そういう計算式で算出したものを弾力半径と呼ぶ,と覚えてしまえばすむことですけど,その意味を考えてみましょう。
距離の二乗を積分したもの,それを剛性で除して平方根する。これは断面二次半径の算出と共通しています。違うのはねじり剛性の算出ではX方向Y方向の両方を加算することです。断面二次半径についても言えることですが,弾力半径も剛性の存在が剛心から平均的にはどれだけ離れているかを求めているものだと言えます。
<弾力半径の意味,偏心率が1の意味>
弾力半径は,上記で説明したように,ねじれ変形に対して剛性が剛心から平均的にどれだけ離れているかを示すものです。
その弾力半径の意味をもう少し深く考えるために,弾力半径だけ離れた位置に水平力を作用させたらどうなるのかを考えてみましょう。
弾力半径だけ離れた位置に水平力が作用するということは,重心がそれだけ離れているということで,偏心率で言えば1となります。もちろん,建築設計の実務において偏心率が1になるほど大きな偏心が生じることはないはずですが,想定として考えてみます。
K:その階の水平剛性
KR:その階のねじり剛性
として,剛心から弾力半径reだけ離れた位置に水平力Pを作用させるものとします。
重心に作用する水平力Pを,剛心への力に置き換えると水平力Pと曲げモーメントP×reとなります。
剛心の変位agは,
ag=P/K
であり,
剛心まわりの回転角θgは,
θg=P×re/KR
です。この式で,re=√(KR/K)ですから,KR=re2×Kを代入して,
θg=P/re/K
となり,θgによる重心位置による変位agθはreを乗じたものですから,
agθ=P/K
であり,それは,
agθ=agです。
つまり,水平力Pの作用点である重心の変位は,ねじれによる回転がないとしたときの変位の2倍になるということです。これが,偏心率が1であることの意味です。
偏心率が1であることの意味がわかると,偏心率が0.15であることの意味もわかります。0.15では,剛心から弾力半径だけ離れたところの水平変位が1.15倍になります。重心の水平変位は,1+0.152倍です。偏芯率0.15で設計したものは重心位置での変位の増大は微々たるものです。
偏心率の算出例はこちら〈偏心率の算出例〉です。
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このページの公開年月日:2016年8月24日