Ⅳ建築構造安全性判定手法(構造体をモデル化する手法)

Ⅳ 建築構造安全性判定手法<構造体をモデル化する手法>

構造体に力を作用させる問題を構造力学で解けば,どこにどれだけの応力が作用するのかが算出できるのですが,その前段で,構造体を構造力学で解析可能なものにモデル化する必要があります。例えば,線材の端部でモーメントをほとんど伝えない部分をピン支持で置き換えますが,これもモデル化です。構造設計をするにあたって様々なモデル化の手法が必要でして,このページではそれを解説します。

建物の構造設計をする上でのモデル化の代表格は「剛床仮定」でしょう。スラブでできた1フロアーの床は面内の変形に対して大きな剛性を持っていますから,1フロアーの床全体は面内には変形することなく水平移動するという仮定で構造計算を実施するというものです。

「剛床仮定」の他にも,例えば,柱・梁材を曲げモーメントや軸力やせん断力を伝える線材として置き換えるというのもモデル化です。

建築の構造設計ではいろいろなモデル化があって成り立っています。ここでは,どのようなモデル化があり,それが何によってどのように定められているかをまとめました。

① 柱・梁材を曲げモーメントや軸力やせん断力を伝える線材として置き換える

太さのある柱・梁材を軸方向変形に対してはEA,曲げ変形に対してはEIを剛性とする太さのない線材に置き換えます。この手法がどこで定められているのかは,わかりません。恐らく本格的に構造設計がはじまった19世紀にはその考え方はあったはずですし,現在の構造計算も線材で置き換えることを前提として進められています。

したがって,線材に置き換えること自体は議論しないことにして,置き換えに必要な係数である,E,A,Iについて説明します。

まず,

E:その構造素材のヤング係数

A:その部材の断面積

I:その部材の断面2次モーメント です。

鉄骨構造の場合は,鋼材,例えばH形鋼のAとIはJIS規格で決まっていますからそれを使います。その数字をそのまま使っていいということがどこかで書いてあるものではありませんが,実務上そうしています。

鉄筋コンクリート造の場合も,コンクリート全断面のAとIを用いるのですが,それは引張側にひび割れが生じるまでのことであって,より大きな曲げが作用すると引張側でひび割れが生じて剛性低下が起きます。このルールは学会の「鉄筋コンクリート構造計算規準」の第8条に記載されています。剛性低下率の式はその「解8.22」式です。構造計算を手計算でしていた時はコンクリートの全断面のAとIで構造設計をしていましたが,コンピュータでの一貫計算をする今では,ひび割れ発生後の剛性低下を考慮して計算されています。それを規定しているのは「鉄筋コンクリート構造計算規準」の第9条です。

梁にはスラブがつきます。柱にも袖壁がつくことがあります。これらもIの算出には考慮します。スラブの場合は有効幅を算出してその断面を考慮します。そのルールも「鉄筋コンクリート構造計算規準」の第8条に記載されています。

② 柱梁接合部のモデル化

柱と梁は,太さのない線材に置き換え(モデル化し)ますが,線となった柱と梁の接合部を剛接合している「点」としてモデル化するかどうかは別の問題です。鉄筋コンクリート造の場合,接合部となっている点だけではなくその近傍も剛体として評価します。そのルールを規定しているのが「鉄筋コンクリート構造計算規準」第9条です。剛体となる部分の大きさは第9条の解説で示されています。

鉄骨造の場合は「点」としてモデル化するのが一般的に行われているようです。(根拠は調査中)

③ RC造耐震壁のモデル化

(作成中)

④ 鉄骨筋違のモデル化

鉄骨造柱の露出柱脚のモデル化は,かつては,ピン支持としていたものですが,今ではアンカーボルトの性状によって回転剛性のあるピンとしてモデル化することが一般的になっています。回転剛性KBSの算出式は,学会の鋼構造接合部設計指針の第7章の7.2式で示されています。

BS={E・n・A(d+d}/(2l

E:アンカーボルトのヤング係数

:引張側アンカーボルトの本数

:1本のアンカーボルトの軸断面積

:柱断面図心より引張側のアンカーボルト断面群の図心までの距離

:柱断面図心より圧縮側の柱フランジ外縁までの距離

:アンカーボルトの長さ

ベースプレートの下には無収縮モルタルをすることが前提とされています。lの長さは20d以上でなければならず,40dを超えていても40dを最大とすることになっています。

⑤ 鉄骨造柱脚のモデル化

(作成中)

⑥ 応力歪関係のモデル化

ヤング係数Eを定数として,短期許容応力度以下の応力では弾性範囲内であると仮定することもモデル化です。鋼材であればヤング係数Eはほとんど一定ですから仮定するも何も現実のことですけれども,コンクリートの応力歪関係は比例ではありませんからそれを一定(比例)であると仮定して構造計算を進めるのです。

⑦ 剛床仮定

スラブでできた1フロアーの床は面内の剛性が高いですから床自体は変形することなく水平に移動すると仮定することが「剛床仮定」です。

コンピュータの能力が低かったころは1フロアーの床はねじれることなく水平移動するものと仮定して,同じフロアーの水平変位は同じとしていました。この仮定であれば水平力は柱や耐力壁の剛性に比例して配分されるものでした。コンピュータの発達した現在では「疑似立体解析」といって,床の水平移動にねじれによる回転も考慮して計算します。水平剛性の剛芯と重心が一致しないことが通常であり,このずれでフロアーにねじれモーメントが作用します。このねじれに対しては直角方向の剛性も抵抗しますから,そのフロアー全体(X方向,Y方向)のねじれ剛性が必要で,その結果,直角方向にも水平力が生じます。

このルールを規定しているのも「鉄筋コンクリート構造計算規準」の第9条の解説です。

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このページの公開年月日:2015年6月25日