Ⅳ建築構造安全性判定手法(既存建物の耐震診断と耐震改修)

Ⅳ 建築構造安全性判定手法

<既存建物の耐震診断と耐震改修>

「建築構造安全性判定手法」のひとつの分野に既存建物の耐震診断と耐震改修があります。建築物は建築された時の安全基準で設計されます。安全基準は時とともに強化されているため,古い建物は現在の安全基準を満たしていない可能性があります。古い建物の安全性を評価するのか「既存建物の耐震診断」で,それにより耐震性が低いとされたものを補強するのが「耐震改修」です。

まずは,耐震基準の変遷を知ることが必要です。大きな変化は,1981年の新耐震基準の適用です。保有水平耐力の検討などを適用したもので,198161日以後に確認されたものから適用されています。つまり,それ以前の確認であれば旧基準で設計されたことになります。

耐震診断と耐震改修という考え方は,以前からあったものですが,1995年10月27日に公布された「建築物の耐震改修の促進に関する法律」で規定されたことで,法的な位置づけを得ています。この法律は,1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災で新耐震以前に建築された建物が大きな被害を受けたことの教訓から制定されたものです。

その法制化以前には,日本建築防災協会が出版した「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準 同 解説」(1977年3月)があって,運用されてきました。そして,1990年と2001年に改訂されていて,現在も耐震診断の教科書的な本として利用されています。

耐震診断促進法では,「耐震診断」と「耐震改修」を次のように定義しています。

耐震診断:地震に対する安全性を評価すること(法第2条第1項)

耐震改修:地震に対する安全性の向上を目的として増築などをすること(同条第2項)

国土交通大臣が耐震診断促進法第4条第1項に基づいて「基本方針」を定めています。

建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」(告示第184号平成18年1月25日)

この基本方針は,耐震化率の目標を定めたり国や地方公共団体の役割を定めたものでこの中に,第三号で「建築物の耐震診断及び耐震改修の実施について技術上の指針となるべき事項」として「別添の指針」で耐震診断と耐震改修の指針を定めています。「この指針に基づいて改修を行うべきである」と規定しています。

別添の指針は,「建築物の耐震診断及び耐震改修の実施について技術上の指針となるべき事項」で,「・・ための基本的な方針」(告示)の末尾についています。

・・ための基本的な方針」(告示)が別添の指針で規定する耐震診断指針について,ちょっとだけ解説します。木造建築物とそれ以外の建築物に分けていて,それ以外の建築物については,Is値とq値を算出してその数値で

①地震の震動及び衝撃に対して倒壊し,または崩壊する危険性が高い

②地震の震動及び衝撃に対して倒壊し,または崩壊する危険性がある

③地震の震動及び衝撃に対して倒壊し,または崩壊する危険性が低い

のいずれかの結果に当てはめるようになっています。いうまでもありませんが,③の「危険性が低い」とされれば,一般的に安全と判断されています。勿論,安全の目安とされているだけで,告示が「安全である」と判定したわけではありません。

ところで,Is値とq値は,

Is値:各階の構造耐震指標(0.6以上なら倒壊の危険が低いと判定)

q値:各階の保有水平耐力に係る指標(1.0以上なら 同上 )

です。

Is値とq値の意味は,告示では解説されていないのですが,私の目でちょっとだけ解説しますと,

Is値:ベースシァーを1.0にした地震力を分母にして建物の保有水平耐力を分子にして靱性の高いものは割り増しを考慮したもの。

q値:ベースシァーを0.3(鉄骨造は0.25)にした地震力を分母にして建物の保有水平耐力を分子にしたもの。

となります。いろいろな補正係数がついていますから,上記のように単純なものではありませんが,簡単に言うとこんなところです。

・・ための基本的な方針(告示)が別添の指針で規定する耐震改修指針についても,ちょっとだけ解説します。この告示では,実はたいしたことは規定していません。壁を厚くしたり筋違を追加することを改修方法として例示しているだけで,数値的にどのレベルまで補強した場合に安全とするのかという肝心の部分を規定していません。規定していませんが,Is値0.6以上,q値1.0以上を安全の基準にするであろうことは容易に想像できますし,事実,そのように運用されています。

・・ための基本的な方針」(告示)が別添の指針で規定する耐震診断指針以外の判断基準。

告示の耐震診断指針以外にも判断基準があります。同指針第1ただし書きに,

「国土交通大臣がこの指針の一部又は全部と同等以上の効力を有すると認める方法によって耐震診断を行う場合においては,当該方法によることができる」と定めていて,その認める方法は下の通達で示しています。

建築物の耐震診断及び耐震改修に関する技術上の指針に係る認定について(技術的助言)」(平成26年2月10日国住指第3839号)

同等と認められた方法の中で,よく使われるものを紹介します。

「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」(日本建築防災協会)

これは,書籍として販売しているものですからネット上で無料で閲覧することはできません。

公立学校施設に係る大規模地震対策関係法令及び地震防災対策関係法令の運用細目」(昭和55年7月23日文管助第217号)

「建築物の構造耐力上主要な部分が昭和56年6月1日以降におけるある時点の建築基準法(構造耐力に係る部分(構造計算にあっては,地震に係る部分に限る。)に限る。)に適合するものであることを確認する方法」

これは,改正耐震改修促進法の平成25年11月25日の施行時に加えられた方法です。昭和56年6月以後の法律とは,保有水平耐力を検証するいわゆる「新耐震設計法」ですから,これに満足すれば安全の判断ができることは当然のことです。この通達で規定されたことでそのことが明確になったのですが,この通達が出る以前は駄目だったのか,いえいえ,駄目ではなかったはずです。ただ,行政庁によっては「不可」としていたところもあるのでしょう。





構造設計の関連情報
Ⅰ 構造力学
構造力学(法則・基本的な考え方)
構造力学(解法1)
構造力学(解法2)

トラス構造解法の補足
CMQ算出の仕組み
梁理論の補足

構造力学(力学的な感覚)
Ⅱ 構造躯体として使われる材料の特性
材料力学

モールの応力円とミーゼスの降伏条件

種々の構造材料の品質等
構造材料の許容応力度等

コンクリートの許容応力度等
鉄筋の許容応力度等
鋼材(炭素鋼)の許容応力度等
高力ボルトの許容応力度等
あと施工アンカー1本あたりの許容耐力など(H13告示第1024号による)
形によって決まる許容応力度

Ⅲ 構造の仕様書的規定
構造の仕様書的規定
Ⅳ 建築構造安全性判定手法
建築構造安全性判定手法

構造体をモデル化する手法
構造解析で算出された存在応力を割り増しするルール
既存建物の耐震診断と耐震改修

関連外部リンク

耐震技術に関する報告書」日本損害保険協会

建築物の耐震化について」国土交通省←耐震診断の法制度についてはここが便利です。

関連法令

建築物の耐震改修の促進に関する法律

同 施行令

同 施行規則

告示リンク

国の告示は縦書きですので見にくいです。鳥取県が横書きで出していますからこの方が見やすいです。「・・ための基本的な方針」(告示)

建築物の耐震診断及び耐震改修の実施について技術上の指針となるべき事項に係る認定について(技術的助言)(平成1775日国住指第902) ← この通達は,平成26年2月10日付けで廃止されました。


このページの公開年月日:2013年6月16日