④力とモーメント

Ⅰ  構造力学(法則・基本的な考え方)

④力とモーメント

力にはモーメントと言うものがあります。押したり引いたりする一方向の力とは別に,ねじる力があって,それをモーメントと言います。

このねじる力(=モーメント)をどう理解するか。また,どう説明するか。

そもそもモーメントは力の一種類ですから「力とモーメント」という書き方自体がおかしいです。それと,「力」という幼稚園児でも使う言葉に対するものとして「なんで横文字なんだ」と言いたいですね。できれば,「方向力と回転力」という言葉に置き換えてほしいものですがそのような言い方はしません。

モーメントを教えるときに,てこの原理や天秤のしくみを例にする場面が多いです。これは概念的にわかりやすいものですけど,モーメントを正確に理解するためには実は障害になります。「モーメントとは,偶力により回転を与える力」と教えるべきです。偶力として解説しているものとしては,

偶力と偶力によるモーメント(埼玉工業大学)

があります。回転を生じさせる力であるモーメントと移動を生じさせる方向力を対比させて説明するのですから,モーメントでは移動を生じさせない必要があります。上記のHPでは,そのへんがきちんと説明してあります。

ただ,てこや天秤を使ったものも概念として飲み込みやすいですから併用すればいいです。解説としては,

力のモーメント(わかりやすい高校物理)

があります。モーメントの説明として,六角ナットをスパナーで回転させる絵がよく使われます。スパナーの先を手でもって直角方向に力を入れると六角ナットのところで力×腕木長さのモーメントが生じるというものです。わかりやすい絵ではありますが,六角ナットのところで方向力も作用していますから,これがモーメントの本質をとらえていません。このへんも,力学的な感覚がわかる人にとっては「方向力は無視して教えたな」とわかることですが,そうでない人には混乱させる要因になっています。

モーメントを教えるにあたって,もうひとつ加えておいてほしいことがあります。

「モーメントと方向力の合成」「方向力から方向力とモーメントへの分離」です。

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左の図は,片持ち梁の先端に下向きの力を作用させたら,左端の支持部では下向きの力とモーメントが作用するというものです。下向きの力は方向力であってこれを方向力とモーメントに分離することなどできないのですが,作用する点を変えれば方向力+モーメントとして作用します。これを逆に利用して方向力PとモーメントMを合成してLだけ離れたところに作用する方向力として合成することができます。

こんなこと教えるまでもないこととはいうものの,教えておいた方がいいと私は思います。

備考:1点に作用するふたつの力をベクトルに置き換えて足し算します。この時,平行四辺形の2辺を使って合成した力を対角線上に書きます。これが正解です。ベクトルの足し算ですから,1本目の矢印の矢のところに2本目のベクトルの起点をつけても答えは同じです。ですが,これをすると2本目のベクトルの作用点をずらすことになります。作用点をずらすとモーメントが生じますので,矢印をつないでいく説明は力の本質を表現していません。このへんも混乱する原因になります。

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このページの公開年月日:2015年5月10日