<モルタルという構造材料>
「モルタル」という構造材料について解説します。
モルタルは仕上げ材料であって構造材料ではありません。一般的にはそうですし,建築基準法上も構造材料として位置づけられてもいません。でも,構造材料として使われることもあります。例えば,
- 鉄骨造柱脚のベースプレート下のモルタル「柱底均しモルタル」
- 耐震補強で,補強で取り付ける鉄骨フレームの周囲で既存RC柱梁の間に流し込むモルタル
上記は実際に建物の自重などを負担していて,事実上の構造材料です。
「モルタルは構造材料なのかどうか」を論じるには,「構造材料とは何?」を論じなければいけません。実は,「構造材料」という用語は,建築基準法にも,国の標準仕様書にも,日本工業規格にもありません。「構造材料」という言葉はこの建築業界の中で一般的に用いられていますが,基準法等での定義はないのです。ないでは話が進みませんから仮に構造材料を定義しておきます。
構造材料:建築基準法第20条により構造方法に関して政令で定める基準の適合することを求められる部分,または,応力度が許容応力度を超えないことを確かめるなど政令で定める基準に従った構造計算で確かめなければならない構造耐力上主要な部分,を構成する材料。
上記は,例えば鉄骨造の建物であれば,構造計算の対象である柱梁を構成するH形鋼などの鋼材を指します。
上記を構造材料の定義とした場合,柱底均しモルタルが構造材料になるのかどうかを考えます。
「構造耐力上主要な部分」は,政令第1条第三号で「基礎,柱などで,建築物の自重などを支えるものという」と定義されています。柱底均しモルタルは,柱の軸力を基礎へ伝達するので構造耐力上主要な部分にあたります。そして,政令第82条で構造耐力上主要な部分に生じる応力を計算して許容応力度と比較することになっています。ですから,上記定義に当てはまって,構造材料であることになります。
上記のとおり,柱下均しモルタルは構造材料ですから,その品質について記載します。このHPのどの構造材料でも紹介しているように,品質の説明は,「モルタルの品質はJIS○○で規定されています」ではじまります。でも,モルタルはJIS規格がありません。モルタルという用語は,建築基準法にも国の標準仕様書にもJIS規格にも規定されていない一般用語です。
ならばモルタルって何?
モルタルは,説明するまでもないと思いますが,セメントと細骨材を混ぜたもので,樹脂モルタルというものもありますから樹脂(いわゆる接着剤)を混ぜたものも含みます。モルタルは生コンの粗骨材を抜いたものですから,レディミクストコンクリートのJIS規格であるJISA5308の骨材寸法を限りなく小さくしたものとしてJISA5308の一部なのではないのかと思いはしたのですが,粗骨材のないものはJISA5308の範疇から外れるようです。
柱下均しモルタルの品質というか仕様については,国の標準仕様書で,次のように規定しています。
「柱底均しモルタルの材料は,15.2.2により,調合は容積比でセメント1:砂2とする」
また,柱底均しモルタルを無収縮モルタルとする場合も規定しています。その場合の強度は,45N/㎡であることも規定されています。
次に「耐震補強で,補強で取り付ける鉄骨フレームの周囲で既存RC柱梁の間に流し込むモルタル」です。耐震補強でRC壁を打設する時も,一番上にはコンクリートを充てんすることができませんから,10cm分の空白をあけて,そこにモルタルを打設します。これらのモルタルの品質について解説します。
「モルタル」と書きましたが,国の標準仕様書では,「柱底均しモルタル」とは別物として「グラウト材」という用語で規定されています。ただし,
「グラウト材は,無収縮グラウト材とし,実績等の資料を監督職員に提出する。」とあるだけです。
ここで,
柱底均しモルタルの無収縮モルタル
グラウト材の無収縮グラウト
の,2つの材料が出てきました。無収縮モルタルは混和剤や試験方法について規定されていますが,無収縮グラウトは何も規定されていません。そもそも「無収縮モルタル」と「無収縮グラウト」の違いは何なのかもわかりません。
これらを扱っているメーカーとしては,「宇部興産㈱」「太平洋マテリアル㈱」「ABC商会」などがありまして,いずれも,区別はされていません。ですから,無収縮モルタルと無収縮グラウトは材料としては同じものなのだと思います。
無収縮モルタル(グラウト)の品質で,もうひとつ重要なことがあります。それは施工時の流動性です。狭いところに流し込みますから,重力で流れて隙間をぴったりと埋めなければいけません。その性能のことを「コンシステンシー」と言います。
コンシステンシーのことなら,「耐震補強グラウト施工協議会のHP」の「品質管理」がわかりやすいです。
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<こぼれ話>
左のように柱底均しモルタルが構造材料ですから,そこに作用する応力を計算してモルタルの許容応力度以内であることを計算しなければいけません。法律を素直に読めばそうなりますが,一般的にモルタルの許容応力度をチェックしたりはしません。軽微な部分でありチェックするまでもないとの考え方なのでしょう。
<柱底均しモルタルを無収縮モルタルにする意味>
モルタルは硬化とともにちじみます。でも,柱底均しモルタルは基礎とベースプレートとの間の30mmの間でちじむだけのことで,多少ちじんだところで応力の伝達に影響を及ぼしたりしないと思います。
柱底均しモルタルを無収縮モルタルにする意味は,実は施工時の流動性にあります。
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このページの公開年月日:2013年7月27日