事故防止・安全管理・危機管理

<事故防止・安全管理・危機管理>

工事は施工者が行うものですが,建築士はプロとして建物を作ることに関わっている以上,事故防止などについて,無縁ではいられません。工事現場に行った時の自分自身の安全確保はもちろん,施工現場で危険なことがあれば,回避の手立てをとるのは当然です。事故防止は,その工事に関わるもの全員の務めです


事故防止・安全管理の話であれば,出だしは,

「毎日の安全点検の積み重ねです」的な,精神論となるのですけど,私の場合,みなさまに精神論を述べられるような人物ではありませんので,精神論は省略します。

この場で紹介するのは,安全管理などについて規定されたルールです。これがたくさんあります。

安全に(つまり,無事故で)工事を実施することの義務は,どの法律で規定されているのでしょうか。ここで言う「事故」とは,隣家や通行人などに対するものとします。

「工事に関することだから,建設業法だろ」と,言いたくなりますが,建設業法は建設工事の適正な施工の確保(法第1条)を目的としたもので,締結した契約書の内容を誠実に履行する義務を定めて(法第18条)はいますが,事故なく工事を完成されることの義務は,規定していません。


ちょっと意外ですが,安全に工事を実施することの義務は,建築基準法で定めています。

建築基準法第90条「工事現場の危害の防止」

└ 同 施行令第136条の2の20「仮囲い」

└ 同 施行令第136条の3「根切り工事,山留工事等を行う場合の危害の防止」

└ 同 施行令第136条の4「基礎工事用機械等の転倒による危害の防止」

└ 同 施行令第136条の5「落下に対する防護」

└ 同 施行令第136条の6「建て方」

└ 同 施行令第136条の7「工事用材料の集積」

└ 同 施行令第136条の8「火災の防止」

この条文は,施工者に対して義務付けたもので,違反した場合の罰則(法第101条)もあります。


建設業法に戻りますが,実は工事中の事故についてちゃんと規定しています。「建設業者が建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたとき,または危害を及ぼすおそれが大であるとき」には,許可業者であれば指示そして営業停止,許可業者でなければ指示ができる(建設業法第28条)ことになっています。


事故防止に関するルールとして,法律ではありませんが,国土交通省が要綱を出しています。

「建設工事公衆災害防止対策要綱の制定について」(事務次官通達,平成5年1月12日建設省経建発第1号)

この要綱は,土木工事からはじまっていますから,建築とは関係ないと思われがちですが,後半に建築工事のことが記されています。要綱ですから義務ではありませんが,事故防止のことですからかなり重みはあります。

また,官庁工事を対象としたものですけど,安全施工に関する技術指針があります。

建築工事安全施工技術指針


建設現場で事故が起きると建設作業に携わる労働者に危険が及びます。それで労働者を災害から守るためのルールが定められていますので紹介します。

スタートは「労働基準法」で,具体には「労働安全衛生法」で定められています。

労働基準法第42条

└ 「労働安全衛生法

└ 「労働安全衛生法施行令

└ 「労働安全衛生規則

労働基準法第42条を頂点とする労働災害防止のためのルールがたくさんあります。

労働安全衛生法で特に関係があるのが,同法第88条の「計画の届出」でしょう。同法第88条第1項で届出を必要とすることはないのですが,第2項で準用しますので,準用されるものの届出が必要になります。そのことが「労働安全衛生規則」第88条第1項に「別表第7の上欄に掲げる機械等」と書いてあり,別表第7には「第12号 足場(つり足場,張出し足場以外の足場にあっては,高さが十メートル以上の構造のものに限る)」と規定しています。ただ,同法第88条のカッコ書きで「仮設の建設物又は機械等で厚生労働省令で定めるものを除く」とあり,これを規定しているのが「労働安全衛生規則」第89条でここに「足場で、組立てから解体までの期間が60日未満のもの」と規定していますから,60日未満で取り壊される足場は届出の対象ではありません。

したがって,

高さ10m以上の足場で組み立てから解体まで60日以上になるものは労働安全衛生法第88条の届出が必要

となります。設置する30日前までに必要です。

同法の同じ部分に型枠支保工のことも規定されています。支柱の高さが3.5m以上のものは対象になります。労働安全衛生規則第89条第1号で6か月未満のものは除かれるような気もしますが,カッコ書きで型枠支保工だけ除かれていますから期間にかかわらず対象となります。

したがって,

支柱高さが3.5m以上の型枠支保工を設置する時は期間にかかわらず労働安全衛生法第88条の届出が必要

となります。


労働安全衛生法関連でもうひとつ関係するのが「作業主任者の選任」です。「労働安全衛生法」第14条で「政令で定めるもの」の選任を規定し,同法施行令第6条で作業を列記しています。建築工事に関連するものとしては,

  • 掘削高さが2m以上となる掘削
  • 型枠支保工の組立・解体作業
  • 高さが5m以上の足場の組立・解体作業(吊り足場や張り出し足場は高さに関係なく必要)
  • 高さが5m以上のコンクリート工作物の解体
  • 石綿若しくは石綿をその重量の0.1%を超えて含有する製剤その他の物を取り扱う作業

などがあります。これら以外にもありますから,正確には同法施行令第6条の第一号から第二十三号までを見てください。

法第88条の届出や法第14条の作業主任者は「安全基準を守る」ために制度化されたもので,同法などに安全基準が規定されています。

上記が法令で規定された安全基準ですが,足場だけでも1冊の本になるぐらいの知識が必要です。これらの安全基準までは「建築士の必要知識」の範囲から外れるものと考えています。建築士は設計をするプロであり,施工者は工事をするプロですから,建築士の役割は,「すべき届出がされており,いるべき作業主任者がそこにいて,その人がこの工事の安全性に責任を持って取り組んでいるかどうかを確かめる」ところまでだと思います。建築士が足場組立の安全基準を熟知して足場つなぎのひとつひとつを現場で点検して是正させることまでする必要はないものと考えます。これは私の個人的な見解です。


安全管理をする上でいろいろな取り決めがありますので,紹介します。

手すり先行足場

平成27年7月に足場の転落防止が強化されています。

足場からの墜落防止対策を強化します(厚生労働省HP)」その「パンフレット」がわかりやすいです。

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関連情報

手すり先行足場

こぼれ話

通常,法律による許認可権限の行使は,その法律で義務を規定して,その義務に反する行為を行った場合に行われるように作られています。

でも,建設業法第28条は,その前段で無事故で工事を行う義務を定めていないのに,「公衆に危害を及ぼした場合」に営業停止という許認可権限を行使するようになっています。

作法の原則から外れるような気もしますが,他者へ危害を及ぼしてはいけないことは民法で定められているので,それを根拠に営業停止を規定しています。

通達の検索

左の通達を見たい場合は,

国土交通省 告示・通達検索システム」で検索・閲覧できます。

左の通達の中の要綱は長崎県から公開されています。

建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事編)

便利なHP

労働災害の防止のことなら次のHPがわかりやすいです。

中央労働災害防止協会

安全衛生情報センター

建設業労働災害防止協会

独り言

工事の安全は,そこに参加する技術者全員の役割ですから,その意味で足場の安全点検も建築士の役割ではあります。足場を点検する場面において,足場の不備を見つけた時にでかい態度で「すぐ直せ!」みたいなことを言う建築士がいますが,違うような気がしてなりません。勿論,見つけた不備の危険度によりますから,直ちに是正させねばならないこともあるとは思います。でも,足場は足場のプロに任せるべきです。不備を見つけた場合の対応としては,「足場のこの取り付け方法を,足場の作業主任者は見ているのか。安全基準がどうなっているのかと,安全性の判断についてどう考えたのか」を聞いて,作業主任者が是正すべきと判断すれ作業主任者の指示で是正すべきと思います。足場の安全基準について熟知した建築士が言うのならばまだしも,断片的にしか知らない知識でもって指示を出すことは避けるべきことと思います。

書籍

足場の安全性については,「建設業労働災害防止協会」がテキスト「新版 足場の組み立て等作業の安全」を出しているのでこれがわかりやすいそうです。私はまだ,入手できていません。

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このページの公開年月日:2012年6月