<防火設備の構造方法>
柱・梁などの主要構造部が耐火や防火の性能について満足していなければいけない制度の一般論は〈主要構造部の各種構造方法(耐火構造・防火構造・不燃材など)〉で解説したとおりです。
このページでは,「防火設備」にしぼって構造方法を解説します。
<防火設備と防火戸の関係>
防火設備を複雑にしている原因として,防火戸と防火設備との関係があげられます。一般的には「防火戸」という言葉が使われますが,法文上は「防火設備」の設置を義務付けています。防火設備とは令第109条で,
令第109条第1項 ~の政令で定める防火設備は,防火戸,ドレンチャーその他火炎を遮る設備とする。
同条第2項 (2以上の建築物の外壁の開口部を遮るそで壁など)
と規定していますから,防火戸は防火設備の定義に含まれるひとつの要素です。防火戸以外の防火設備である「ドレンチャー」は水をカーテンのように吹きかけて火炎を遮るものですが,文化財を守る目的で設置されている以外には,建築物に使われることはほとんどありません。「防火設備」と「防火戸」がイクオールではないこととして2棟の建物の外壁間の開口部の間に遮るように設けるそで壁(令第109条第2項)もあります。ここでは遮るそで壁についての説明は省略します。
「防火設備」と「防火戸」はイクオールではありませんが,防火戸は防火設備の代表格であり事実上,防火設備と言えば防火戸のことを指すものと思って間違いありません。
<防火設備と特定防火設備>
防火設備には,「防火設備」と「特定防火設備」がありまして,その「定義」「性能に関する技術的基準」「条文指定の構造方法」を定めた根拠条文は次の通りです。
定義 | 性能に関する技術的規準【主な値】 | 条文指定の構造方法 | 個別認定の構造方法【認定番号の冒頭】 | |
防火設備 | 法第2条第9号の2ロ | 令第109条,第109条の2【20分火炎】 | H12告示第1360号 | 各社の認定【EB,EC】 |
特定防火設備 | 令第112条第1項 | 同左の特定防火設備のカッコ書きの前段【1時間火炎】 | H12告示第1369号 | 各社の認定【EA】 |
「防火設備」の代表格は網入りガラスの窓です。耐火建築物・準耐火建築物の延焼の恐れのある部分に網入りガラスの窓が取り付けてあるのを目にすると思います。網入りガラスの窓が防火設備であることは,H12告示第1360号第1第2号ニで規定されています。この告示指定の防火設備は,「鉄及び網入りガラスで」と規定されていますからスチールサッシに網入りガラスをしたものです。現在,目にする網入りガラスの窓はほとんどがアルミサッシでして,これはサッシメーカーの個別認定です。
「特定防火設備」の代表格は鋼製扉です。H12告示第1369号第1第1号に「骨組を鋼製とし,両面にそれぞれ厚さが0.5mm以上の鉄板を張った防火戸」が規定されていまして,階段などに戸袋内に格納されるように設置されている鋼製扉のほとんどは告示による条文指定の特定防火設備です。
<外壁に設ける防火設備と区画に用いる防火設備>
防火設備は,その使われ方にふたつの用途があります。「外壁に設ける防火設備」と「区画に用いる防火設備」です。
主な用途 | 定義条文 | 閉鎖機構の条件(根拠条文) | |
外壁の延焼部分の防火設備 | 耐火建築物の外壁の延焼恐れある部分にある開口部に設ける防火戸 | 法第2条第9号の2ロ | なし |
防火区画の防火設備(特定防火設備を含む) | 耐火建築物の面積区画や竪穴区画などの開口部に設ける防火戸 | 法第2条第9号の2ロ,令第112条第1項など | あり(令第112条第13項) |
このように面積区画や竪穴区画の開口部に設ける防火設備には,火事の時にその扉が自動的に閉まらなければ意味がありませんので,閉鎖機構の条件が付加されています。そして,閉鎖機構の条件は次のふたつに分けられます。
閉鎖機構に関する技術的規準【主な条件】 | 条文指定の構造方法 | 個別認定【認定番号の記号】 | |
面積区画の特定防火設備 | 令第112条第13項第1号イからニ【煙または高温での作動】 | S48告示第2563号 | 各社の認定【CAT】 |
竪穴区画の防火設備 | 令第112条第13項第2号イとロ【煙での作動】 | S48告示第2564号 | 同上【CAS】 |
<防火ダンパーという防火設備>
風道が防火区画を貫通する場合に「防火ダンパー」をつけなければいけませんが,これも法文上は「防火設備」です。
令第112条第15項 ~風道が~防火区画を貫通する場合においては,当該風道~を貫通する部分又はこれに近接する部分に,特定防火設備(~の場合にあっては,~防火設備)であって,~ものを設けなければならない。
上の項目で「防火設備は,その使われ方にふたつの用途があります」と記載しましたが,防火ダンパーという防火設備が加わりますから3つになります。
<防火設備が守るべき基準>
防火設備の設置が義務付けられているときに,どのようなものを設置すれば設置義務を満足したことになるのかを整理することは,なかなか難しいです。普通は,「防火設備という用語の定義があって,その定義に当てはまるものを設置すれがいい」と思うのですが防火設備に関してはそう簡単ではありません。それは,防火設備の設置義務を規定する条文には「~必要とされる性能に関して~定める技術的基準に適合するもので」という制限がついていて,防火設備の種類によってその技術的基準が異なっているからです。
防火設備は大きく分けると3つの種類があります。
1.耐火建築物・準耐火建築物の外壁の延焼の恐れある部分の開口部に設置する防火設備〈守るべき基準〉
2.防火区画の開口部に設置する防火設備(特定防火設備を含む。閉鎖条件あり)〈守るべき基準〉
3.防火区画を貫通する風道に設置する防火設備(特定防火設備を含む。閉鎖条件あり)〈守るべき基準〉
そして,上記の2と3には,防火設備と特定防火設備の違いがあるとともに,煙感知か熱感知かの閉鎖条件が付加されます。それぞれの防火設備が守るべき基準を上の「守るべき基準」に整理しました。
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<防火地域等の外壁の防火設備>
防火地域・準防火地域で耐火建築物でも準耐火建築物でもない建築物の外壁の延焼恐れある部分の開口部には防火設備の設置が義務付けられますが,この防火設備の性能に関する技術的基準は法第2条第9号の2ロの防火設備とはちょっとだけ異なります。技術的基準の根拠条文は法第64条からリンクする令第136条の2の3で条文指定の構造方法はH12告示第1366号です。この告示ではH12告示第1360号と同じ内容を規定していますから,事実上何も変わりません。ただ,個別認定の認定番号の記号が変わっていまして,法第2条第9号の2ロが「EB」で法第64条が「EC」です。EBは建物の外からの火災と中からの火災との両方に対応しなければいけないのですがECは外からの火災だけです。
「防火設備に係る関係条文」(国土交通省HP)
※ 「防火ダンパー」という法律用語はありません
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このページの公開年月日:2018年1月27日