<建築基準法学習素材(入門編)>
建築基準法がどんなものであるかを,解説します。入門編の学習素材としてご活用ください。
スタートは,建築基準法の目的です。
建築基準法第1条:この法律は,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
です。
ポイント1:最低基準でしかない。
ポイント2:個人の財産である建築物の基準を定めることで公共の福祉に貢献する
ポイント2の「基準を定めることで公共の福祉に貢献する」とはどういうことでしょうか。これは,規制のあるすべての法律に共通したことでもあります。「基準を定める」とは,「個人の行為を制限する」ことです。本来,個人の行動は自由であるべきものですけど,一定のルールに従った行動とすることで,個人の安全や,社会の安定や,経済活動の発展などを図るものです。基準=規制が,個人の安全,社会の安定,経済の発展に寄与する分かりやすい例として,交通規制があります。交差点に信号を作って,赤と青で通行を規制することでもって,交通事故を防止することと,円滑な通行を確保しています。
規制の対象となるものは「建築物」です。「建築物」の定義は次の通りです。
法第2条第1号:建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。
※ この条文をもっと詳細に見ていきましょう〈建築物の定義〉
です。
建築基準法が規制対象とするのは「建築物」です。
※ 法第88条で「工作物」も規制対象になりますが,工作物のことはちょっと横に置いておきます。
建築物に対して,どんな基準があるかを見てみましょう。
例えば,居室の天井高さの最低が規定されています。
施行令第21条:居室の天井の高さは,2.1メートル以上でなければならない。
です。
「居室」とは,法第2条第4号で規定されています。
法第2条第4号:居室 居住,執務,作業,集会,娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室をいう。
です。
つまり,住宅の寝室やリビング,学校の教室,事務所の事務室など,人が立ち入って継続的に使用する部屋を言います。
天井高さの規定は2.1m以上で,身長が2mの人もいますから規制としてはかなり緩いといえます。基準ぎりぎりしかない部屋はほとんど見かけないはずで,このあたりが「最低基準」と言われるゆえんです。
建築基準法の基準は,「単体規定」と「集団規定」に分類されます。
単体規定:一つの建築物について適用される規定で,天井高さ,居室の採光・換気,耐火基準,避難規定,耐震基準など
集団規定:敷地全体について適用される基準で,建蔽率,容積率,道路斜線制限,日影規制など
です。
次は,確認申請手続きです。法文で基準を決めればそれは国民の義務ですから守らなければいけないものですが,許認可という仕組みを作って守っていることのチェックをすることで規制を実効あるものにしています。
法第6条第1項:建築主は,第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合,これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない。
一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で,その用途に供する部分の床面積の合計が百平方メートルを超えるもの
二 木造の建築物で三以上の階数を有し,又は延べ面積が五百平方メートル,高さが十三メートル若しくは軒の高さが九メートルを超えるもの
三 木造以外の建築物で二以上の階数を有し,又は延べ面積が二百平方メートルを超えるもの
四 前三号に掲げる建築物を除くほか,都市計画区域若しくは準都市計画区域内における建築物
です。
※ 手続きが必要であるかないかにかかわらず,基準は守らなければいけません。その意味で,手続きが必要かどうかは大きなテーマではないはずですが,実態としては,大きなテーマとなっています。
次に,事例検討をしましょう。
次のものは,建築基準法上で建築物になるでしょうか,ならないでしょうか。
手で持てる犬小屋(例:クレヨンしんちゃんで庭においてあるシロの犬小屋),
鉄板製物置(例:ヨド物置,「ヨドコウHP」に大きなもの,小さなものがある),
アルミ製自転車置き場,アルミ製カーポート(例:壁がなくて屋根がポリエステルなど透明なもの,「三協アルミHP」のカーポート),
小学校の運動会当日の生徒や保護者が座るテント,
道路上の電話ボックス,
農業用のビニールハウス(農地の中にあって,温室としてイチゴやトマトなどを栽培しているもの),
デパートの屋上にあるビアガーデンの開閉式テント
受電のための変圧機でコントロール機器が屋根壁の中に収納されているもの(例:「㈱大樹電気HP」),
携帯電話の無線基地局で大型で中に人が入ることができるもの
上記について,建築物になるかならないか考えてみてください。
建築物になるかならないかがなぜ重要なのかも考えてください。
答えは,基準法の規制対象となるかならないかの違いがあるからです。
こぼれ話:「鳥小屋を作るのだが確認申請が必要か」と本当に電話がかかってきた。この電話にどう答えますか。また,この話の落ちは何でしょうか?
次は,基準法の規制が建築物や街並みの形を作る事例を見てみましょう。
建築基準法で高さ制限は,主なものとして4つあります。
- 住居専用地域の絶対高さ制限
- 住居専用地域の北側斜線制限
- 道路斜線制限
- 隣地斜線制限
です。その他,日影時間の制限も事実上の高さ制限になります。(道路斜線制限などの高さ制限がどのような規定であるかは別の資料を見てください。)
街へ出て,規制により建物の形が斜めになっているものを探してみましょう。
平成10年の法改正で,道路後退したものの緩和,天空率による緩和が行われましたので,その後に建築されたものは本来の道路斜線よりもどび出しているものがあります。
集団規定である高さ制限は,形自体を規制していますから都市のデザインに直接に影響します。それに比べて単体規定はそれほど建物の形状に影響するものではありませんが,例えば,住宅の採光規定であっても見た目のデザインに影響します。
「最上階の屋根が透明になっている写真」(ここでは省略します)
(採光の規定がどのように規定されているかは他の資料を見てください。)
最上階の屋根がなぜ透明になっているのかを考えてみましょう。
次は,番外編として,規制にありかたについて考えてみましょう。
「延焼の恐れのある部分」という用語があって,耐火建築物や準耐火建築物では,延焼の恐れのある部分の開口部に防火設備にして類焼を防ぐことになっています。
法第2条第6号:延焼の恐れのある部分 隣地境界線,道路中心線又は同一敷地内の二以上の建築物(延べ面積の合計が500平方メートル以内の建築物は,一の建築物とみなす。)相互の外壁間の中心線から,一階にあつては3メートル以下,二階以上にあつては5メートル以下の距離にある建築物の部分をいう。ただし,防火上有効な公園,広場,川等の空地若しくは水面又は耐火構造の壁その他これらに類するものに面する部分を除く。
です。「延焼の恐れのある部分」の規制がどのようなものであるかは別の資料を見てください。
この規定の運用上でどのような問題が生じるかを考えてみましょう。
次は,事件,災害への行政の対応について勉強してみましょう。〈事件・災害への行政対応①(入門編)〉〈事件・災害への行政対応②(入門編)〉
このページの公開年月日:2017年9月13日(最新更新:2021年4月13日)