筋かい材の靭性確保

<筋かい材の靭性確保>

筋かい材の靭性確保の条件は,

筋かいの軸部が降伏する場合において,当該筋かいの端部および接合部が破断しないこと

と,H19告示第593号で規定されています(靭性確保という用語は法令上にはありません)(靭性の確保できる筋かい端部の接合部のことを「保有耐力接合」と言います)。

法令上で定められていることは,ここまでで,具体の条件は定められていません。意外なことですが,破断の検討に必要な破断応力度すら法令上は定められていません。具体の条件は,「2015年版建築物の構造関係規定技術基準解説書」で解説として示されています。

6.3.2(1)と付録1-2.4で条件と計算例が示されています。

条件は次の通りです。

・σ≧1.2A・F

:接合部の破断形式に応じた接合部の有効断面積

σ:接合部の破断形式に応じた接合部の材料の破断応力度(各破断形式に対応する接合要素の引張り強さの下限値。(例:SN400Bは400N/mm2))

:筋かい材の全断面積

F:筋かい材の基準強度

また,A・σは,以下に掲げる破断形式に応じて計算される数値のうち,最も小さくなる数値

a)筋かい軸部で破断する場合

b)接合ファスナーで破断する場合

c)ファスナーのはしあき部分で筋かいが破断する場合

d)ガゼットプレートで判断する場合

e)溶接部で破断する場合

※ 式中の1.2は炭素鋼の場合,ステンレス鋼は1.5

です。

この式は,筋かいの軸部が降伏し始める軸力の1.2倍の力で接合部が破断しなことを条件としています。

これを踏まえて,条件式を詳しく見てみましょう。

条件式の右辺は,軸部の断面積(ボルト穴の欠損を考慮しない)に基準強度を乗じて1.2倍するものです。

左辺は,断面欠損を考慮した断面積に破断強度を乗じるものです。これだけならいいのですが,難しいの条件式の「また」以下に書いているa)~e)にある種々の破断形式を考慮しなければいけないことです。

このa)~e)の検証をどのようにするのかは,「2015年版建築物の構造関係規定技術基準解説書」の付録1-2.4の[具体的計算方法](2)ii)で示されています。具体の式は「解説書」のそのページを見てもらうことにして,考え方を下にまとめます。

a)筋かい軸部で破断する場合

「筋かい軸部で」と書いてありますからわかりにくいですけど,これは接合部でのことを言っているのですから,筋かいのボルト穴による断面欠損したところで破断する場合のことです。したがって,断面積は穴のあるところの有効断面積です。それに破断強度を乗じます。

加えて,山形鋼,溝形鋼の場合は,突出部の一部を無効にすることが解説されています。無効にする長さは次のとおり。

筋かい材の
断面形
筋かい材を結合しているファスナーの本数n
 山形鋼 -t 0.7h 0.5h 0.33h 0.25h
 溝形鋼 -t 0.7h 0.5h
(0.4)
0.25h 0.2h

h1:筋かい材の突出部の高さ(50のアングルなら50。厚さを控除しない)
t1:ウェブの厚さ
カッコ内に0.4としているのは,学会の接合部設計指針による。

b)接合ファスナーで破断する場合

「接合ファスナー」という用語は,接合部の高力ボルトのことを言っているようです。式は,0.75×A×σです。Aはボルトのせん断面の断面積でσはH10Tならば1000N/mm2です。せん断による破断ですから√3で除した値になるはずですが0.75としているのは不思議です。学会の「鋼構造接合部設計指針」では,1/√3を示したうえで実験値と他指針との整合上で0.6を採用したとしています。よって,0.75ではなく0.6で設計すべきものと個人的には思っています。

c)ファスナーのはしあき部分で筋かいが破断する場合

「はしあき」とは,ボルト穴から見て母材の端部までのことで,ボルトが支圧で母材を押したときにせん断で抜けてしまうことを防ぐためにはしあき寸法が適正に確保されていなければいけません。式は,ボルトピッチを考慮することなくはしあき距離に本数を乗じて板厚を乗じたものを断面積にして,破断強度を乗じるものになっています。せん断面は2つありますし,せん断の破断強度ではなく引張の破断強度を使っているという,理論的には省略した式になっています。ボルトを通したプレートのちぎれ方は,なかぬけ,そとぬけ,はしぬけとあってそれぞれの破断形式に応じた耐力の算出方法は学会の「鋼構造接合部設計指針」で規定されています。

d)ガゼットプレートで判断する場合

30度の角度で開いたところにあるガゼットプレートの断面積でするようです(ホルトが1本の時に式が成立しない。私には意味不明)。

e)溶接部で破断する場合

ガゼットプレートが取り付く柱はりにすみ肉溶接されている場合は,のど厚に有効長さを乗じて破断耐力を乗じて√3で除したものです。これは,溶接の長さ方向に対してもっとも不利となる方向に力が作用した場合の破断力です。参考〈鉄骨溶接部の断面検証

<筋かい接合部設計の考え方と設計例>

筋かい接合部設計の考え方と設計例

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条件式は解説です

筋かい材の靭性確保の条件式は,「解説として示されたもの」でしかありません。1.2倍という数字も法令によるものではありませんし,接合部の破断を検討するσの数値も法令事項ではありません。

保有耐力接合はどこで破断する?

保有耐力接合にすれば,接合部では破断せず母材で破断することだと思っている人がいますが,破断するのは接合部です。保有耐力接合は,筋かい軸部の十分な塑性化を条件とするものであり,筋かいを引っ張り続ければ,破断するのは接合部です。

靭性確保の定義の不思議

筋かいの靭性確保の定義は,母材(筋かい軸部)が十分な塑性変形するまで接合部が破断しないこと,だと思っていましたが,法令上の定義は,ちょっと違っています。法令上の定義も,母材(筋かい軸部)の降伏軸力と接合部の破断力を比較して破断力の方が大きいことを条件としていますから同じことを言っているようにも見えますが,「筋かい軸部が降伏する場合において」ということは,筋かいが降伏しない場合はその制限は適用されないという意味です。基本的に水平力を負担する筋かいが降伏しないなどということはありませんから,特に影響はないようにも思えますが,架構の形態によっては筋かいを降伏させないようにすることもできますから,そうした筋かいには母材先行降伏の条件を必要としないということです。

「保有耐力接合」という用語がどこから来たのか

建築基準法上はこの用語はありません。日本建築学会の「鋼構造接合部設計指針」にもありませんし,同学会関東支部の「鉄骨構造の設計ー学びやすい構造設計ー」にもありません。「2015年版建築物の構造関係技術基準解説書」に「保有耐力接合」という用語が使われています。

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このページの公開年月日:2016年8月25日