Ⅱ 構造躯体として使われる材料の特性【材料力学】
構造躯体に使われる材料としては,コンクリート,鉄筋,鋼材などがあります。これらの材料の特性を知るために「材料力学」の知識が必要です。
材料力学のスタートは,1次元の応力ひずみ関係です。多くの材料は,応力を作用させていない状態から小さな応力を作用させると,
σ=Eε
σ:応力
ε:ひずみ
E:応力ひずみ関係の比例定数(これを「ヤング係数」という)
の関係が成り立ちます。鋼材では,降伏点に達するまでかなり正確にσ=Eεが成り立ちます。コンクリートでは,「小さな応力」であれば成立しますが,作用する応力が大きくなるほどEが小さくなるので,σ=Eεが成り立つとは言えません。しかし,それでも,建築的には,簡略化して,σ=Eεが成り立つものとして扱います。
したがって,構造材料の特性を考える上でE:ヤング係数が重要です。
上記までは,バネを伸ばした時に伸びと作用する力が比例しているという小学校の理科でも習うことですが,材料力学では,これを3次元で考えます。
「モールの応力円」や「ミーゼスの降伏条件」などがこの分野になります。これらをわかりやすく紹介したページとして,次のものがあります。
このページで解説されているように,力はベクトルであり,応力はテンソルです。応力のテンソルは3×3の9次元で,ただし,対称条件がありますから自由度としては6次元です。材料力学の入り口として,応力のテンソルを座標を回転させて変換できるようになることがあります。また,どのような応力状態においてもせん断応力の生じない座標軸が存在してその時の3つの応力を主応力といいます。
3次元に作用する応力がどのようになったら降伏するかがミーゼスの降伏条件です。
モールの応力円とミーゼスの降伏条件について補足します。
応力がテンソルであることや3次元で存在する応力の降伏条件は重要なことなのですが,実は建築の構造設計の実務においてはあまり使われていません。構造を柱梁材に置き換えることが多いので,弾性域のヤング係数,弾性限界となる許容応力度で事足りてしまうからです。
材料力学の考え方で建築分野で影響のあるものとしては,鋼材の許容応力度でせん断許容応力度が引張許容応力度の√3分の1になっていることぐらいです。これは,ミーゼスの降伏条件で,X方向に引張,Y方向に圧縮の同じ大きさの応力が作用している場合に座標軸とは45度になっている面にはせん断応力のみが作用していて降伏するのは引張許容応力度の√3分の1であることを利用したものです。√3分の1を数値化した0.5773502ではなく,政令に√3がそのまま使われているところがおもしろいと思いますけど,引張許容応力度とせん断許容応力度の関係は,材料力学のミーゼスの降伏条件に従って定められたものです。ただ,これすら,そうであることを知らなくても建築の構造設計はできますから,実務において材料力学(3次元に作用する応力状態の分野について)の知識を求められることは少ないでしょう。
応力テンソルの座標回転の考え方で,線弾性係数(ヤング係数:E)とせん断弾性係数(G)の関係が数式化できます。
純せん断の応力状態(作用せん断力をτとする)は,45度傾いた面では主応力σ1=τ,σ2=-τであり,σ1の方向へはσ1によりτ/Eのひずみと,σ2によりντ/Eのひずみが生じますから合計で(1+ν)τ/Eのひずみになります。σ2の方向へは同様に-(1+ν)τ/Eのひずみです。これをτが作用している方向のせん断変形に置き換えれば,2×(1+ν)τ/Eのせん断ひずみで,それが求めたいτ/Gですから,
G=E/(2×(1+ν))
ν:ポアソン比
となります。
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<構造力学と材料力学>
「構造力学」と「材料力学」はどう違うのか。
材料力学の本にトラス構造の解法や梁の曲げ問題が書かれていたりしますから,両者の分野が交錯しているのだと思います。でも,私の感覚では,力の分解と接点における力のバランスを用いてトラス構造を解くことは構造力学に分類されるものと考えています。一方の材料力学は,3次元に均質に広がる物質のある1点の微細な部分に3次元的に作用する応力の特性を明らかにするものであったり,種々の構造素材の応力-歪関係を探求するものであったりするものと考えています。
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このページの公開年月日:2015年5月27日