ターンバックル

<ターンバックル>

ターンバックルの品質について解説します。

まず,「ターンバックルとは何か」

鉄骨造の筋交いで直径20mmぐらいの棒鋼が使われていることがあります。棒鋼は細いのでそのままではたわんでしまうので,取り付けた後で長さを短くするために両ネジが切ってあって回転させることで調整できるようにするものがついています。この回して長さ調整をする部分をターンバックルと言います。それが一般的なターンバックルの意味ですが,回転させる部分は「ターンバックル胴」と言います。では改めて,「ターンバックルとは何か」と言うと,「ターンバックル胴とその両側につく丸鋼を含めたもの」を指します。


ターンバックルは,建築基準法第37条にいう「指定建築材料」ですから,守るべきJIS規格が告示で指定されています。JISA5540です。ここまで「ターンバックル」と言ってきましたがこのJIS上の正式名称は「建築用ターンバックル」です。

JISA5540では,次のことが規定されています。

  • ボルトの端部に羽子板がついたもの(「羽子板ボルト」という)も規定されていて,羽子板部の溶接長さや羽子板の形状も指定されている。
  • 鋼材は,炭素鋼またはステンレスで,炭素鋼の場合,M10以下がJISG3101のSS400でM12以上がJISG3138のSNR400B,ステンレスの場合,JISG4321のSUS304Aと指定されている。
  • ネジ部は転造加工法による(M16と言えばネジの山から山までが16mmという意味で,丸鋼の軸部は16mmより細い)
  • ターンバックルを引っ張った時の,保証荷重と引張強度を規定している。
  • 羽子板ボルトの羽子板部には穴があいていて,使用すべき高力ボルトがF10Tでありその径も指定されている。(六角ボルトの場合は10.9)

などです。


規格として存在するターンバックルの太さは次のとおりです。

M6,M8,M10,M12,M14,M16,M18,M20,M22,M24,M27,M30,M33

「M○○」という表記からわかるようにターンバックルの太さはネジ部の太さで規格化されています。ネジ部は転造加工法で作られていますから軸部は「M○○」の数値よりも細くなっています。この結果,軸部の十分な塑性変形が期待できるようになっています。

 

ターンバックルの〈保証荷重と引張強度はこちら〉です。

「保証荷重」とは,その力を作用させてもターンバックルに塑性変形が生じないもので,短期許容応力に相当します。「引張強度」とは,その力を作用させても破断しないもので破断強度に相当します。

ターンバックルの保証荷重と引張強度は,次のようにして決定しています。

軸部の最小径を直径とする断面積に対して,SS400またはSNR400Bの降伏点である235N/mm2と引張強さである400N/mm2をそれぞれ乗じたものです。

<保証荷重,引張強度の算出例>

M16の場合

軸部の最小直径:14.41mm←JISで規定されている

軸部の断面積:163mm2=3.14×14.41×14.41/4

保証荷重:38.31kN=163mm2×235N/mm2

引張強度:65.20kN=163mm2×400N/mm2


 

ネジ部と軸部との関係を補足します。

ネジ部は転造加工で作られていますから軸部の方が細くて軸部の十分な塑性変形が期待できる。そのようにターンバックルは作られています。M16の場合,ネジ部の外径(山から山)は16mmで軸部の最小直径は14.41㎜ですからそういう意味で軸部の方が細いのですが,ネジ部の有効断面積は,157mm2で軸部の断面積163mm2よりも小さいです。

したがって,ターンバックルに強い引張力を作用させると,最初に降伏するのはネジ部で,最終的に破断するのもネジ部です。ならば「ネジ部の断面積でターンバックルの許容応力度設計をすべきでは?」との考え方もありますが,正解は軸部の最小直径による断面積です。ネジ部の塑性化は限定された部分でしかなく,ターンバックル全体の性状は軸部で決まってくるからでしょう。

[cwpkouzouhinshitsu1]

[cwpkouzouhinshitsu2]

ターンバックルのJIS規格

指定建築材料の告示では,ターンバックルの適用すべきJIS規格として,JIA5540,JISA5541,JISA5542の3つを規定しています。2012年1月現在でそうなっていますが,JISA5542は2008年にJISA5540に吸収されています。また,JISA5541はターンバックル胴の規格で,JISA5540を指定すればJISA5541のターンバックル胴を使用することになっていますから,取り立ててJISA5541への適合を規定する必要はないように思います。

こぼれ話

ターンバックルの構造設計で,M16を16φの棒鋼として断面積を算出して適用する人がいますが,間違いです。M16は軸部の直径14.41mmの円の断面積です。

こぼれ話2

ターンバックルの品質としてSNR400Bを書かなくても,JISA5540であればM12以上について自動的に決定されます。SNR490でターンバックルを作ることも可能ですが,JISA5540ではなくなります。ですから,SNR490のJISターンバックルは存在しません。

ターンバックルの不思議

M16の軸部の直径が14.41mmから14.66mmと指定されていることを不思議に感じます。なんのために100分の1ミリを指定しているのでしょうか。JISで寸法測定は義務付けられていますから,常に測定しているのですが,100分の1ミリを測定できる高精度のノギスを使う必要があります。測定はやればできることですけど,SNR400Aの棒鋼を直径14.41mmから14.66mmの精度で製作するのはかなり困難な気がします。そもそもSNR400Aの標準直径はミリ単位ですから,14ミリの次は15ミリです。もちろん,14.5ミリを指定して発注することはできるのですが,14.50ミリ丁度で製作できるはずもなく,JIS規定でマイナス0.3mmからプラス0.5mmが許容されているのですから,14.5mmで発注した棒鋼は14.2mmから15.0mmです。ターンバックルの精度を守ることができません。ターンバックルは,母材が十分に塑性化することを条件としていますから,太さも細さも制限する必要があります。とはいえ,100分の1ミリで規定しているのは不思議に思えてなりません。(2016年5月9日記)

2003年のJISA5540

ターンバックルの品質を規定するH12告示第1446号では,2003年のJISA5540への適合を求めています。最新のJISは2008年です。これはどういうことでしょうか。JIS改定と告示改正が整合していないことの取り扱いは〈JIS規格の改正の扱い〉を見てください。ここで大きな問題があります。私には2008年改正が強化だったのか緩和だったのかがわかりません。2003年のJISを今(2016年)入手しようと思っても,ネット上では公開されていませんし,書籍として購入することもできません。可能なのは古本の購入です。

2008年の改定がどうであったか推察する資料として「建築用ターンバックルについて(浪早鉄工)」があります。これによれば,母材がSS400からSNR400Bに強化されたことがわかります。(2016年5月15日記)

[ckouzoulink]
[cwpkouzouhinshitsu2]

このページの公開年月日:2013年6月