<工事費積算>
建築士は,設計した建物がどのくらいの建設費を要するものであるかを建築主に示す必要があります。その手法を「積算」と言います。
建築士自身は,工事をしませんから,設計した建物を建設するのにどれだけの工事費がかかるかは,「わからない」というのが実際のところですけど,でも,
建築士:「高級な材料を組み合わせて,デザインも凝って,こんなにすばらしい設計をしました。」
依頼者:「うん,気に入った。で,これは,いくらで建設できるのかな。」
建築士:「工事は,建設会社がするので,工事費は発注してみなければわかりませんよ。」
では,依頼者はその設計を採用していいかどうかがわかりません。
それで,工事費を予測する手法として「積算」があります。建築士のする積算の目的は,「これを発注したら,標準的には,このくらいの金額で応札があるだろう」と考えられる金額を予測することです。
「積算」は,コンクリートの数量(体積)を計算して,生コン1m3あたりの材料費と打設費用を加えたものを乗じることで,コンクリートの施工費を算出し,これを,鉄筋,型枠,左官材など,すべての材料について計算して積み重ねることで,全体の工事費を算出するものです。
1棟のマンションを見て,「このマンションにどれだけのコンクリートが使われていると思いますか」と聞かれたらどうしますか。積算は設計時点で行うのですから,図面のマンションという意味になります。マンションの床面積に,通常なら1㎡あたりこのくらいの量のコンクリートを要するという値を乗じることで,概算のコンクリート数量を算出することができますが,積算では,実際の体積を計算します。具体には,柱の断面積に長さを乗じ,その本数を乗じ,梁についても,壁についても,床についても,さらにバルコニーの手すり壁なども含めて,ひとつひとつ体積を出しては足し算,体積を出しては足し算をしていきます。柱の断面積も種類がありますし,長さも階によって違います。梁の長さでは,柱中心から隣の柱中心までの距離を梁長さにすると柱内部のコンクリートをだぶって計上することになりますから,梁長さは柱の表面からの距離を取ります。壁では,窓のあるところにはコンクリートがありませんから,それも控除します。
このようにして,コンクリートの体積を算出します。
そして,これを,鉄筋,型枠,左官材など,すべての材料について行います。「積算」とは,このように非常に地道な作業です。
<積算のルール>
積算には,法律化されたルールはありません。とはいえ,積算によって算出された工事費で予算取りをしたり,落札上限価格としたりしますし,公共建築物の発注では積算根拠がそのまま公金の支出根拠になりますから,積算のルールはあります。
国土交通省が公共建築工事の発注する時に用いる積算のルールを紹介します。
スタートになるものが「公共建築工事積算基準」です。
ここには,直接工事費の算出を[数量]×[単価]で積み上げ,共通費と消費税を加えて予定価格の基となる工事費を算出することが短い条文で示されているだけです。積算手法の詳細は,この基準の中に「内訳書は公共建築工事内訳書標準書式による」などと規定されています。この積算基準からリンクしている基準は次のものです。
「公共建築工事積算基準」には解説が出されています。「公共建築工事積算基準等資料(平成30年版)」です。また,算定例もあります。
「公共建築工事の工事費積算における共通費の算定方法及び算定例」
参考:「公共建築工事積算基準等資料」が出る前は,「公共建築工事積算基準の運用(平成25年版)」がありました。
内訳書標準書式の解説は,「平成25年版 建築工事内訳書標準書式・同解説」(建築工事内訳書標準書式検討委員会)という書籍で出ています。市販されている書籍ですからネット上でタダで見ることはできません。
歩掛りが2015年から公開されています。歩掛りとは,いわゆる複合単価を作るための計算式のことで,労務と材料費を加えたものです。
「公共建築工事積算研究会参考歩掛り(平成30年)」「営繕積算システム等開発利用協議会参考資料(平成30年版)」
上記の「公共建築工事標準単価積算基準(平成30年版)」について,補足します。この基準では,材料単価や労務単価の根拠を何にするかが規定されています。
「材料単価は,物価資料の掲載価格等による」
と,されていて,実は「物価資料」とは何かが規定されていません。規定はされていませんが,事実上,「一般財団法人 建設物価調査会」「一般財団法人 経済調査会」が毎月(季刊もあり)発行する書籍を指します。
次に,労務単価は,
「労務単価は,公共工事設計労務単価による」
と,されていて,それは,国土交通省が「平成31年3月適用公共工事設計労務単価」で公開しています。この資料には,とび工,土工などの一人1日の労務費が書いてあります。とび工・土工がどのような作業をする作業員であるかの定義も書いてあります。ただし,「高所における作業」とか「相当程度の技能」とかの表現でしかありません。
参考資料:「平成31年度建築保全業務労務単価」
※ 材料単価でコンクリートだけは,例外です。各県が地域ごとにコンクリート価格を調べていて公開していますから,それを使います。
上記の物価資料や労務単価にないものについては,「公共建築工事標準単価積算規準」では,「製造業者・専門工事業者の見積価格等を参考に定める」とされています。見積りを求める場合の手続きを規定したものがあります。
「公共建築工事見積標準書式(建築工事編)」 「 同 (設備工事編)」
<数量積算>
上記の「公共建築数量積算基準H29」についての解説は〈数量積算の注意点〉にまとめました。
<内訳書の書式>
上記の「公共建築工事内訳書標準書式(建築工事編)H30」について,補足します。この基準では,内訳書の様式を定めているのですが,書き方というか,まとめ方も規定されています。
例えば,科目別明細書に記入する科目は,「直接仮設」→「土工」→「地業」→「鉄筋」→「コンクリート」→「型枠」の順であることが例示されています。また,直接仮設に記入する項目はほとんどが「一式計上」して別紙明細書をつけることも示されています。また,捨コンをコンクリートに入れている人が多いですが,この基準では地業に入れています。
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<積算の意義>
建築士が積算をすることに本当の意義は,コスト管理です。設計した建物のどこにコストがかかっているのかを分析して設計の無駄をなくすことです。一般的に,良質な材料を使えば耐久性や見栄えが良くなりますが,費用も上がります。その費用増の効果があるかどうかを考えることが必要です。逆に,依頼者が「安い材料でいい」と言っても,「これ以上,品質を落としてはいけません」と依頼者を説得することも必要です。
<標準的な工事費>
積算によって,工事費を予測するのですが,それ以前に,戸建て住宅だったらこのぐらい,マンションならこのぐらい,事務所なら,と,およその工事費が感覚としてわかっていることも必要です。
<積算に必要な書籍>
「公共建築工事積算基準〈平成27年版〉」(国土交通省大臣官房営繕部監修平成27年版)
「公共建築工事積算基準の解説 建築工事編―平成27年基準」(同営繕部監修平成27年版)
「工事歩掛要覧 建築・設備編」(経済調査会積算研究会編)
<物価資料>
建設物価調査会と経済調査会発行している物価資料で,建築分野で使っているものは,
- 建設物価(建設,毎月)
- 建築コスト情報(建設,季刊)
- 積算資料(経済,毎月)
- 建築施工単価(経済,季刊)
です。大きな設計事務所なら毎月購入しているはずです。WEB版もあります。いずれも結構な経費が掛かります。
<設計労務単価>
設計労務単価は,国土交通省土地・建設産業局が公表しています。
<数量積算での注意点>
「公共建築数量積算基準H29」には,数量を算出(一般に「拾い」という)するやり方が細かく規定されています。重要なことや間違いやすいことを並べて見ました。〈数量積算での注意点〉
<鉄筋・コンクリート・型枠>
積算では「鉄筋」→「コンクリート」→「型枠」の順ですが,標準仕様書では,「鉄筋」→「コンクリート」の順に変わりはありませんが,型枠はコンクリートの中に含まれています。なぜ統一しないのか,ちょっと不思議です。
<チェックマニュアル>
積算はとても地道な作業で,しかも漏れや間違いがあってはいけませんからそれを防ぐ目的でチェックマニュアルが公開されています。「営繕工事費積算チェックマニュアル(平成30年)」
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このページの公開年月日:2012年5月27日(最終更新:2019年2月)