増築における既存不適格の継続と遡及適用

<増築における既存不適格の継続と遡及適用>

建築基準法が改正されて基準が強化されても,建ってる建物は建設時の建築基準法が適用され続けますから現行法の規定に適合しないからと言って違法建築物になったりはしません。そういう建物のことを「既存不適格建築物」と言うこと,そのように適用されることは〈いつの建築基準法が適用されるか(既存不適格,遡及適用)〉で解説したとおりです。

ここでは,増築工事などをすることで,既存不適格を継続したままでできる場合と遡及適用になる場合のルールを説明します。

まず,増築などの工事をすることで既存不適格が消えてしまうことの根拠は,法第3条第3項第三号です。第三号は,増築,改築,移転,大規模の修繕,大規模の模様替えの工事をする場合に,増築工事をする部分だけでなく既存部分にも既存不適格が消えてしまい,現行法が適用されるという規定です。でも,これでは,小さな増築でも既存部分の改修工事が生じますから,その緩和措置が法第86条の7にあります。

法第86条の7  第3条第2項(第86条の9第1項において準用する場合を含む。以下この条,次条及び第87条において同じ。)の規定により第20条,第26条,第27条,第28条の2(同条各号に掲げる基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。),第30条,第34条第2項,第47条,第48条第1項から第13項まで,第51条,第52条第1項,第2項若しくは第7項,第53条第1項若しくは第2項,第54条第1項,第55条第1項,第56条第1項,第56条の2第1項,第57条の4第1項,第57条の5第1項,第58条,第59条第1項若しくは第2項,第60条第1項若しくは第2項,第60条の2第1項若しくは第2項,第60条の3第1項,第61条,第62条第1項,第67条の3第1項若しくは第5項から第7項まで又は第68条第1項若しくは第2項の規定の適用を受けない建築物について政令で定める範囲内において増築,改築,大規模の修繕又は大規模の模様替(以下この条及び次条において「増築等」という。)をする場合(第3条第2項の規定により第20条の規定の適用を受けない建築物について当該政令で定める範囲内において増築又は改築をする場合にあつては,当該増築又は改築後の建築物の構造方法が政令で定める基準に適合する場合に限る。)においては,第3条第3項第3号及び第4号の規定にかかわらず,これらの規定は,適用しない

 第3条第2項の規定により第20条又は第35条(同条の技術的基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。以下この項及び第87条第4項において同じ。)の規定の適用を受けない建築物であつて,第20条又は第35条に規定する基準の適用上一の建築物であつても別の建築物とみなすことができる部分として政令で定める部分(以下この項において「独立部分」という。)が二以上あるものについて増築等をする場合においては,第3条第3項第3号及び第4号の規定にかかわらず,当該増築等をする独立部分以外の独立部分に対しては,これらの規定は,適用しない。

 第3条第2項の規定により第28条,第28条の2(同条各号に掲げる基準のうち政令で定めるものに係る部分に限る。),第29条から第32条まで,第34条第1項,第35条の3又は第36条(防火壁,防火区画,消火設備及び避雷設備の設置及び構造に係る部分を除く。)の規定の適用を受けない建築物について増築等をする場合においては,第3条第3項第3号及び第4号の規定にかかわらず,当該増築等をする部分以外の部分に対しては,これらの規定は,適用しない。

 第3条第2項の規定により建築基準法令の規定の適用を受けない建築物について政令で定める範囲内において移転をする場合においては,同条第3項第3号及び第4号の規定にかかわらず,建築基準法令の規定は,適用しない。

です。

法第86条の7の各項の違いは次の通りです。

第1項に掲げる条文の規定は,小規模な増築工事などについて既存不適格の継続を認めるものです。条件にあてはまる小規模な増築であれば,既存部分に現行法が適用されないだけではなく,増築部分にも現行法が適用されません。

既存不適格が継続する小規模な増築工事(法第86条の7第1項)

第2項に掲げる条文の規定は,既存部分に独立しているとみなされる部分が複数ある場合に,離れているところの独立している既存部分には既存不適格が継続するというものです。

複数独立部分がある場合の既存不適格の継続(法第86条の7第2項)

第3項に掲げる条文の規定は,既存部分は既存不適格を継続し,増築部分には現行法を適用するものです。

増築部分のみへの現行法適用(法第86条の7第3項)

第4項は,移転の扱いです。〈2015年6月施行の基準法改正〉により追加された条文です。改正前は敷地内での移転に限られていた既存不適格の継続を,敷地外への移転にも認定により拡大されるものです。

第1項から第4項で列記されていない条文は,増築等において緩和がありませんから,既存不適格が消滅します。

増築などに際して既存不適格の継続のない条文(法第86条の7以外)

そして,各項の規定によって既存不適格が継続するかしないかを上記のリンクでまとめていますから見てください。

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参考資料

既存不適格建築物の増築をまとめた資料として「既存建築物の増築等における法適合性の確認取扱要領及び同解説(平成30年4月,大阪府内建築行政会議)」がわかりやすいです。

法第86条の7でどの条文がどの規模の増築まで既存不適格の継続が認められるのか一覧表にしたものがあると便利です。上記PDFの21ページ目(資料中では18ページ)に一覧表があります。この一覧表を見れば一目瞭然と言いたいところですが,ちょっとだけ補足します。この表を読むにあたって,表の一番上の法第86条の7の第1項から第3項のそれぞれの意味がわかっていないと理解できません。また,法第28条の2は第1号から第3号まであって,第1号と第2号が法第86条の7第1項適用で第3号が同第3項適用なのですがこの表は区別されていません。行政会議の一覧表に加筆してわかりやすくしました〈既存不適格の一覧表〉。

用語解説

既存部分,増築部分

改正経緯

法第86条の7は平成17年施行で大きく改正されました。

法第20条の既存不適格が規定されたのはこの時でした。それまでは,増築工事において既存不適格の継続はなかったので,既存部分を構造耐力的に適合させなければいけなかったのですが,EXP.Jで分離した増築ならば既存不適格を継続させるという取り扱いも広く行われていました。平成17年改正は,これまで根拠があいまいな状態で既存不適格継続を認めていたことをルール化したものです。

法第86条の7第2項,第3項が制定されたのも,平成17年施行の改正です。なかったことを追加したのですから,緩和です。

法第86条の7第4項(移転)が制定されたのは,平成27年施行の改正です。

法第86条の7のことなら日本建築センターが発行している「平成16年6月2日公布建築基準法改正の解説」がわかりやすいです。この本のQ&Aなら公開されています「講習会における質問と回答」(質問の23~35)。

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このページの公開年月日:2016年6月12日