用途変更における基準法の適用

<用途変更における基準法の適用>

用途変更において建築基準法がどのように適用されるかは,最難関問題のひとつです。

まず,トレーニングとして,適法に建築された既存の80㎡の倉庫で生活をはじめた場合,また,物品販売業を営む店舗に変える場合などを考えてみましょう。その法適用は下のページのとおりです。

80㎡の倉庫で生活をはじめた時の法適用

80㎡の倉庫を物品販売店舗に用途変更する時の法適用

上記のように,80㎡の倉庫を店舗に用途変更する場合ですら,法第8条の状態維持についての努力義務が適用されるだけです。倉庫で生活する場合にはそれを制限する条文はありません(個人見解です)。

次は,120㎡の倉庫を物品販売業を営む店舗に変える場合を考えます。

120㎡の倉庫を物品販売店舗に用途変更する時の法適用

上記は,用途変更の確認申請手続きを要しますから,店舗としての基準が適用され基準に合わなくなる用途変更をすることはできません。

次は,既存不適格建築物の用途変更ですが,その前に,逐条解説を入れます。

法第87条第1項:第6条第1項第1号の特殊建築物にするような用途変更に対する確認申請手続きの準用(基準への適合義務も生じる)

同条第2項:用途地域の制限の準用

同条第3項:用途変更による既存不適格の消滅(用途変更する建物全体に及ぶもの)

同条第4項:用途変更による既存不適格の消滅(独立部分がある場合や用途変更する部分のみに適用されるもの)

法第87条(用途変更)の逐条解説

<既存不適格建築物の用途変更>

ここまでは,既存不適格のことを考えずに法適用を考えてきました。建築基準法は年々改正されるもので,10年前に建築された建物を用途変更する場合にはいつの建築基準法が適用されるのかが問題です。

それは〈いつの建築基準法が適用されるか(既存不適格,遡及適用)〉で解説しましたように,建築工事に着手したときの建築基準法です。とはいえ,法第87条第3項,第4項による遡及適用もあります。既存不適格で120㎡の倉庫を店舗に変更する場合の法適用は次の通りです。

既存不適格の120㎡の倉庫を物品販売店舗に用途変更する時の法適用

<用途変更における基準適用のまとめ>

用途変更において,基準法のいつの時点のどの条文が適用されるのかを説明するためには,上記のように,確認申請手続きのいらないもの,確認申請が必要なもので既存不適格以外,確認申請が必要なもので既存不適格に分けて考える必要があります。それほど複雑な規定です。

上記をとりまとめると次のようになります。法第48条などの用途規制とそれ以外とでは異なりますので別々にまとめます。

<法第48条などの用途規制に対する用途変更の条文適用>

1.法第48条,第51条など用途地域の規制に関しては,規模の大小に係らず現行の第48条などが適用される。原動機の出力で制限している地域における当該用途のものであれば原動機の増設も用途変更として扱われるため,制限を超える増設は法第87条第2項で禁止される。

2.法第48条について既存不適格建築物の用途変更にいおいては,令第138条の18第2項の範囲内であれば既存不適格を継続できる。

<用途規制以外に対する用途変更の条文適用>

1.法第87条第1項で確認申請の必要ない用途変更であれば,基準への適合は法第8条の努力義務である。(努力義務の意味は,注釈の通り)

2.法第87条第1項で確認申請が必要な用途変更であれば,手続き規定の準用のみではなく基準への適合義務が生じる。

3.用途変更の基準法の各条文の適用の原則は,建設された時点の基準である。用途変更する時点の基準ではない。(法第3条第2項,用途変更は工事ではないため同条第3項による既存不適格の消滅がない)

4.第24条(特殊建築物の外壁等),第27条(耐火建築物・準耐火建築物),第28条第1項若しくは第3項(居室の採光,火気使用室等の換気),第29条(地階における住宅等の居室),第30条(住戸の遮音界壁),第35条(特殊建築物等の避難及び消火に関する技術的基準),第35条の2(特殊建築物等の内装),第35条の3(無窓居室等の主要構造部)については,用途変更する時点の基準が適用される。(法第87条第3項)

5.4.の適用にあたっては,独立部分の緩和や用途変更しないところの緩和などが適用できる。(法第87条第4項の条件による)

6.居室でないところを居室に用途変更するような,新たな条文(居室の天井高さや24時間換気)が適用になる場合は,現行のその条文への適合が必要である。(現行の規定ではなく,建設当時の規定が適用になるのでは?との考えはあるのだと思いますが,法第3条は既存不適格が緩和されるのであって,居室でなかったところを居室に変えるというのは居室の規定について既存不適格ではありませんから,現行法を不適用とする根拠がありません。これは個人的な解釈ですけど,法文上他の読み方はないものと思っています。)

このようにまとめることができます。

<用途変更で確認申請を必要とする場合>

最後になりましたが,どのような用途変更であれば確認申請の手続きが必要なのかという重要なテーマが残っています。〈用途変更で確認申請を必要とする場合〉で解説します。

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努力義務

努力義務というと,「努力したけどできなかったのは許される」つまり「努力したと言いさえすれば違法ではない」と考える人がいるのでしょうか。店舗に用途変更する際の基準適合への努力義務とは,変更しなければ法律に適合しているのですから,「努力したけどできなかった」とは言えないものと思います。

2016年3月の技術的助言

用途変更の円滑化について(技術的助言)」東京都建築士事務所協会HPより

備考

「確認申請手続きのない場合の基準への適合の努力義務」と「確認申請手続きが必要な場合の基準への適合義務」との間に強さの差があるのでしょうか。努力義務は「努力はしたけどできなかった」場合は認められるということですから,適用の強さに差があるように見えますが,その用途変更をしなければ適合し続けるものを用途変更して適合しなくなるのであれば,用途変更しなければすむことですから,「努力したけどできなかった」は通用しないでしょう。「努力義務」と「適合義務」との間にほとんど差はないと思います。

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備考

用途変更における基準法のどの条文がどのように適用されるかを,確認申請の要否,既存不適格の有無に分けて事例分析し,適用のされ方を説明したホームページは,このページの公開時点においてなかったと考えています。

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このページの公開年月日:2016年7月3日