<2 法文の読み方>
法令を読んでいくテクニックはあります。法令を読むテクニックとして最初に紹介されるのは,「又は」と「若しくは」,「並びに」と「及び」の関係です。これらは「A若しくはB又はC若しくはD」「A及びB並びにC及びD」というように「又は」「並びに」の方が全体を包含するようになっています。その他には,「以上」と「超える」,「直ちに」と「遅滞なく」,〈「その他」と「その他の」〉などの用語の違いがあります。
ここでは,建築基準法の条文で具体的にその読み方を考えてみましょう。
<1.法律から読む>
〈1 建築基準法の法体系〉で説明したように,法律の条文をスタートにして,政令,規則へとつながっていきます。ですから,法律の条文から読みます。そして,そこからつながっている政令などの条文を探していきます。法第28条第1項で説明します。
法第28条第1項 ~~居室(居住のための居室,学校の教室,病院の病室その他これらに類するものとして政令で定めるものに限る。)には,採光のための窓その他の開口部を設け~~
政令第19条第2項 法第28条第1項の政令で定める居室は,次に掲げるものとする。
一 保育所及び幼保連携型認定こども園の保育室
二 診療所の病室
三 児童福祉施設等の寝室(入所する者の使用するものに限る。)
四 児童福祉施設等(保育所を除く。)の居室のうちこれらに入所し,又は通う者に対する保育,訓練,日常生活に必要な便宜の供与その他これらに類する目的のために使用されるもの
五 病院,診療所及び児童福祉施設等の居室のうち入院患者又は入所する者の談話,娯楽その他これらに類する目的のために使用されるもの
このように,法律では制限を受ける居室のすべてを規定するのではなく,政令で加えることで具体化します。
政令第19条第2項だけを読むと,病院の病室は対象にならないのかと思えますが,この条文は法第28条第1項を根拠としたものですから,ちゃんと法律で病院の病室は制限されています。
今の例は,法律から政令に1回飛ぶだけですからまだわかりやすいかと思いますが,ものによっては,何回も飛ばなければ読みきれないものもあります。このあたりが新任の担当者にとっては(ベテランの担当者にとっても)難しいところです。
私が見つけた5回飛んでやっと規制内容にたどりつけるものの例を紹介します。それは,よう壁の構造条件が「土圧等によってよう壁が破壊されないこと」となっていること,これがそうです。この条文にたどりつくためには法律から5回飛ばないとたどり着けません。回答を次に入れておきますが,できれば読まずに挑戦してみてください。
- 法第88条第1項
- 政令第138条
- 政令第142条
- 政令第139条第3項
- 平成12年告示第1449号
- 宅地造成規制等規制法施行令第7条
となります。
<2.用語の定義>
用語の定義は,法律では第2条に,政令は第1条に書いてあります。法律で定義した言葉は政令と省令と告示でそのまま用いることができます。政令で定義した言葉は省令と告示で用いることができます。これらで定義した言葉は,県条例では有効とならないので,県条例の冒頭で「法及び政令で使用する用語の例による」と宣言しています。
というわけで,「用語の定義は簡単ですね」で,終わりではありません。実は,法第2条と政令第1条以外にも条文のいろいろなところに用語の定義が隠れていますのでそれをあげてみましょう。
法第92条に「面積,高さ及び階数の算定方法は政令で定める」とあって,それは政令第2条で算定方法が定義されています。
その他にも,条文の中に「(以下,「○○」という。)」という文面があります。これも実は用語の定義とほとんど同じ意味合いになってきます。例えば,「避難施設等に関する工事」は法第7条の6第1項のカッコ書きで定義されていて,法第90条の3で使われています。法律を第1条から順番に読んでいけばわかることなのですが,第90条の3をたまたま見た人にとっては,「避難施設等に関する工事って,何だろう」とわからなくなってしまいます。実務上は法令の「(以下,「○○」という。)」の部分にマークしておくなどして慣れるしかありません。
間違いやすいものとして「建築基準法には道路の定義はあっても道の定義はない」と思っていませんか。
「道に法文上の定義はない」こと自体は正解なのですが,政令第126条の6の「道に通じる幅員4メートル」の「道」には定義があります。政令第20条に「都市計画区域においては道路をいう。以下同じ」と定義されていますから「道路」として適用しなければいけません。
話を戻して,法第42条第1項はまぎれもなく「道路」という用語の定義ですし,政令第123条第1項も条文上は「~しなければならない」という表現になっていますが,実態的には「屋内に設ける避難階段」という用語を定義しています。令第137条も「基準時」という言葉を定義しています。
このようにいろいろなところに用語の定義が隠れていますので注意してください。
<3.条文の骨格を読む>
国語の時間に,文書を主語・目的語・述語に分解しましたね。「いかした青年が大きな帽子をかぶった。」という文書は,「青年が帽子をかぶった。」が文書の骨格で,「いかした」は「青年」を修飾し,「大きな」は「帽子」を修飾しています。こういう作業が法文を読むときにも必要になってきます。
法第6条第1項柱書の前段を例にすると,
法第6条 建築主は,第1号から第3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようと……を含む),これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替えをしようとする場合又は第4号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定(この……以下同じ)に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない。
という条文です。この条文の骨格は,下線をした部分の
「建築主は,場合においては,前に,交付を受けなければならない。」
となります。その他の部分は,
「場合,場合又は場合」が3つの並列でそれ以外は修飾語句となります。条文を読むときはカッコ部分を飛ばして読んで,骨格をつかんでから修飾語句を詳細に見るようにします。
次は,もっと難しいものの例でやってみましょう。政令第112条第11項は,
政令第112条第11項 主要構造部を準耐火構造とした建築物又は第136条の2第一号ロ若しくは第二号ロに掲げる基準に適合する建築物であつて,地階又は3階以上の階に居室を有するものの竪穴部分(長屋又は共同住宅の住戸でこの階数が2以上であるもの,吹抜きとなっている部分,階段の部分(当該部分からのみ人が出入りすることのできる便所、公衆電話所その他これらに類するものを含む。),昇降機の昇降路の部分,ダクトスペースの部分その他これらに類する部分をいう。以下この条において同じ。)については,当該竪穴部分以外の部分(直接外気に開放されている廊下、バルコニーその他これらに類する部分を除く。次項及び第13項において同じ。)と準耐火構造の床若しくは壁又は法第2条第九定する防火設備で区画しなければならない。
という条文です。この条文の骨格は,下線をした部分で,
「竪穴部分については,竪穴部分以外の部分と壁で区画しなければならない。」
となります。かなり難解ですが骨格が見えたでしょうか。
次も難解な例です。政令第126条の2第1項柱書は,
政令第126条の2第1項 法別表第1(い)欄(1)項から(4)項までに掲げる用途に供する特殊建築物で延べ面積が500㎡を超えるもの,階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物(建築物の・・・を除く),第116条の2第1項第2号に該当する窓その他の開口部を有しない居室又は延べ面積が1000㎡を超える建築物の居室で,その床面積が200㎡を超えるもの(建築物の・・・を除く)には,排煙設備を設けなければならない。
という文面です。この条文の骨格は,下線をした部分で,
「ものには,排煙設備を設けなければならない。」
となります。これは先ほどよりは単純だったかと思いますが,問題は,「もの」を修飾する語句をどう読むかです。次で,解説します。
<4.修飾語句が修飾する範囲,「または」がつなぐ範囲>
上記の,政令第126条の2第1項「もの」を修飾する語句を解説します。
「もの」は,その前段に「又は」で4つのものを並列しているのですが,最後の「その床面積が200㎡を超えるもの」がどこにかかっているかがわかりにくい条文です。答えは,その直前の千超えの居室にしかかかっていません。読み方としては,4つともにかかっているとする読み方も成立しますが,1番目にかかると仮定すると意味合い的につじつまがあいません。また,3番目と4番目にかかるとのでは?との考え方については「又は」の位置からして文書の構成上ありえません。
さらに難解な例を出してみましょう。政令第115条の2第1項第7号は,
政令第115条の2第1項第七号 建築物の各室及び各通路について,壁(床面……を除く)及び天井(天井の……屋根)の室内に面する部分(回り縁……を除く)の仕上げが難燃材料でされ,又はスプリンクラー設備,水噴霧消化設備,泡消火設備その他これらに類するもので自動式のもの及び第126条の3の規定に適合する排煙設備が設けられていること。
という文面です。この条文の骨格は,下線をした部分で,
「通路について,排煙設備が設けられていること。」
となりますが,どこが難解なのかおわかりいただけましたか。問題は,この条文の後半の「又は」と「及び」をどう読むかです。簡単に書くと「難燃材又はスプリンクラー等及び排煙設備」となるのですが,「難燃材又はスプリンクラー等」を及びでつないでいるのか,「スプリンクラー等及び排煙設備」を又はでつないでいるのか,これがどちらであるかによって規制の内容が違ってきます。答えは,後者の「及びを又はでつないでいる」です。なぜそうなるかというと,又はでつなぐべき前者が「難燃材でされ」だから,それに対応する後者が「設けられ」しか考えられないからです。この結果,及びは「式のもの」と「排煙設備」をつないでいることになります。この条文の又はと及びの関係は,解釈上でそのように解釈しているのではなく,文面上そういう読み方しか成立しないということになります。
このように,条文の骨格をつかむことと,「又は」などで並列されるものが何であるか,修飾する言葉がどこにかかっているかということを考えながら法文を読んでください。
<5.空白1文字の重要性>
「空白1文字の重要性って何?」ってなものですけど,法律を読む上でこれを知っていないと読むことができないんです。実は,これが重要であることをほとんどの人(解説書籍)は解説しません。それは,講師となる人にとってあまりにも基本的な事項であって,これを解説しなければいけないことに気付かないからです。と,前置きして,「空白1文字」を解説します。
建築基準法第2条は次のようになっています。
第2条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 建築物 土地に定着する工作物のうち,・・・
二 特殊建築物 学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。),体育館,・・・
この条文の「建築物」の後ろに1文字の空白がありますね。これが重要なんです,と,解説するまでもないかもしれません。第2条は,用語を定義する条文で,その各号に「建築物」「特殊建築物」などの用語を冒頭に置いているのですから,冒頭の言葉が定義しようとする言葉であり,空白の後ろにあるものがその定義を示すものです。そういうわけですから,あえて説明しなくてもいいようなものでしかありません。
でも,1文字の空白の存在が分かりにくい条文もあります。政令第137条の2です。
第137条の2 法第3条第2項の規定により・・・,次の各号に掲げる範囲とし,同項の政令で定める基準は,それぞれ当該各号に定める基準とする。
一 増築又は改築の全て(次号及び第三号に掲げる範囲を除く。) 増築又は改築後の建築物の構造方法が次のいずれかに適合するものであること。
二 増築又は改築に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の20分の1(50㎡を超える場合にあつては、50㎡)を超え、2分の1を超えないこと 増築又は改築後の建築物の構造方法が次のいずれかに適合するものであること。
三 増築又は改築に係る部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の20分の1(50㎡を超える場合にあつては、50㎡)を超えないこと 増築又は改築後の建築物の構造方法が次のいずれかに適合するものであること。
この各号それぞれにある空白は,つい見落としがちです。でも,この空白があるから成り立っています。空白よりも前の言葉が,この条文の柱書の「次の各号に掲げる範囲」であり,空白よりも後ろの言葉が「政令で定める基準」なのです。
政令第137条の2は「空白1文字が重要ですよ」と教えてもらっていなければ読めない(読むのに混乱する)条文だと思います。
実は,国が提供している「e-Gov法令検索」で政令第137条の2を見ると,1文字の空白が消えてしまっています。下記は,2021年5月10日現在の画面表示です。
このページの公開年月日:2011年9月1日(最終更新:2021年5月10日)