<工事監理の業務範囲>
工事監理業務がどこからどこまでを指すのかというのは難しいテーマです。
まず,建築士が行う一般的な工事監理と法的に義務付けられた工事監理とは違うとの考え方があります。
「義務のある工事監理は一般的な工事監理の一部である」との考えです。
そういうことも含めて,工事監理の業務範囲をまとめました。
国土交通省建築指導課が,工事監理についてガイドラインを出しています。これは,構造計算書偽装事件を受けて監理業務についても厳格化を推奨したものです。
「工事監理ガイドライン」(国土交通省建築指導課,平成21年9月1日)
「 同 別紙1~5」(国土交通省建築指導課)
「工事監理ガイドラインの講習会テキスト(新建築士制度普及協会HP)」←国土交通省のガイドラインと別紙1から5までを掲載して解説も加えたもの。
このガイドラインに記されている内容は,現場における確認事項を一覧表にして列記したものです。〈工事監理の必要知識〉で示したように,工期設定→施工体制→施工図→材料品質→施工といった工事監理の全体像を示すものではありません。また,上記ガイドラインは,建築士法による「工事監理」と品質の「監理」とを区別して表現しています。
工事監理:建築士法第2条第7項
監理:上記を含み,監理委託業務契約に基づく品質確保のための業務
としていて,その関係を上記講習会テキストの55ページ以下で解説しています。建築士法第2条第7項で定義され建築基準法で義務付けられる「工事監理」は広く一般に言われるところの「監理」の一部分であるとの考え方です。ただし,ガイドラインの解説の中ですら「工事監理」という用語が,「監理」全般を示す用語としても使われています。そうした用語使用の混乱はともかく,一般的に行われている工事監理業務のすべてが建築士法第2条第7項で定義され建築基準法第5条の4第4項で義務付けられる工事監理ではありません。
工事監理の定義は,建築士法第2条第7項でされていますが,そこには「その者の責任において,工事を設計図書と照合し,それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいう。」としか書いていないので,具体にそれはどういう内容なのかはその条文だけではわかりません。工事監理のもう少し詳しい内容は,実は建築士の業務報酬基準でわかります。
「建築士の業務報酬基準」(H21告示第15号)
この告示の別添一の2工事監理に関する標準業務及びその他の標準業務に規定しています。ここではさらに
- 工事監理に関する標準業務
- その他の標準業務
に分かれていて,その中身も規定しています。中身については「建築士の業務報酬基準」を見てください。
「工事監理ガイドラインの講習会テキスト(新建築士制度普及協会HP)」では,法的に義務付けされた工事監理は「一 工事監理に関する標準業務の(4)工事と設計図書との照合及び確認」のみであるとしていますが,私は間違っているような気がしてなりません。「一 工事監理業務に関する標準業務」には冒頭で「工事を設計図書と照合しそれが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認するために行う次の業務」としているのですから,次で示す(1)から(6)までのすべてがあってはじめて「設計図書のとおりに実施されている」ことが言えるのです。(1)から(6)の内容を見ても,(2)があって(3),(3)があって(4)と一連の確認作業になっていて,(4)だけ切り離して処理できるものではありません。「(4)工事と設計図書の照合及び確認だけが法的に義務付けられた工事監理である」とするのはあまりにも限定的な見方だと思います。
2015年10月のマンション杭の未到達事件を受けて,2016年3月に杭工事の工事監理についてガイドラインが出されています。
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このページの公開年月日:2013年7月