Ⅳ 建築構造安全性判定手法
構造力学が習得できれば建物の構造設計ができるか,と言えばそうではありません。
構造力学でできることは,構造体にある力を作用させた時に生じる各部の応力であったり歪であったり変位などを算出することです。でも,その結果,その構造体(建築物)が安全なのかどうかの判定はできません。一口に「地震力」と言っても,どんな地震が来るかは誰にもわからないわけで,どの程度の地震力に対して安全性を評価するのかも構造力学では示されません。地震などの外力を想定して構造体(建築物)の安全性を判断する手法が別に必要でそのことを,ここでは「建築構造安全性判定手法」と呼ぶことにします。
建築構造安全性判定手法では,例えば,
① 自重,積載荷重,地震,台風などによって建物に作用する力(外力)の大きさを想定する。
② 建築物の複雑な構造をモデル化する。
③ ①の外力が②のモデル化された構造体に作用した時に生じる各部の応力や変位などを算出する。
④ ③で算出した各部の応力や変位などが許容値内にあるかどうかで安全性を判定する。
ということを行います。
①の外力は,あくまでも想定でして,地震でどれだけの力が作用するのかはわからないことです。②のモデル化も単純な構造体に置き換えることで,あいまいさを含んでいます。④の許容値にしても,許容値内にあれば絶対に安全で,許容値をちょっとでも超えたら倒壊するというものでもありません。建築構造安全性判定手法は,ある意味,あいまいさを含んだものです。ただ,この文書で「建築構造安全性判定手法というものは,あいまいなんです」と言いたいのではありません。建築構造安全性判定手法は,あいまいさを含んでいるがゆえに,あいまいさをできるだけなくして①から④をして判定できるようにしたものです。
参考ですが,③の応力や変位の算出で活躍するのが構造力学です。③の部分にはあいまいさを含みません。
上記の①から④の検証手順は法律で決まっているのでは? と思われたかもしれませんが,私はあえて建築構造安全性判定手法を法律の定めとは別項目として分類しました。理由は,建築物の安全性を判断するための手法は研究者によって作られたものだからということ(判定手法を作り上げてきた研究者への敬意)と,検証プロセスの中に法律で定められない事項があまりにもたくさんあるからです。
上記の①から④の検証手順を実施するためには,実にいろいろなことが必要になります。
ア 〈構造材のヤング係数〉→ヤング係数は〈構造材の許容応力度〉に入れています。
イ 〈構造材の質量,仕上げ材の質量,積載されるものの質量〉
ウ 〈構造材の許容応力度〉
エ 〈構造体をモデル化する手法〉
オ 〈地震力や風荷重や積雪荷重を算出するルール〉
などです。
上記のうち,ウの許容応力度は法令で決まっています。オの地震力なども法令で決まっています。それ以外のものは,部分的に法令で定められているものもあるとはいうものの,主には学会規準などで定められています。
「建築構造安全性判定手法」のひとつの分野に既存建物の耐震診断と耐震改修があります。建築物は建築された時の安全基準で設計されます。安全基準は時とともに強化されているため,古い建物は現在の安全基準を満たしていない可能性があります。古い建物の安全性を評価するのか「既存建物の耐震診断」で,それにより耐震性が低いとされたものを補強するのが「耐震改修」です。
安全性を評価する手法として,偏心率の制限や鉄骨構造の靭性確保があります。
〈偏心率の制限〉
〈鉄骨構造の靭性確保〉で解説します。
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<参考資料>
構造関係の取扱いのQ&Aを紹介します。
「構造関係基準に関するQ&A(一般財団法人建築情報センター)」←技術基準解説書(2007年版)を補足するもので,2010年までにつくられた139件のQ&Aがあり,構造別や解説書のページで検索できるようになっている。
「構造関係技術基準解説書のQ&A(一般財団法人建築情報センター)」←技術基準解説書(2015年版)を補足するQ&A
「構造計算適合性判定に係るよくある質疑事項の解説(大阪府)」
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このページの公開年月日:2013年6月16日