形によって決まる許容応力度・圧縮座屈・曲げ座屈

<形によって決まる許容応力度・圧縮座屈・曲げ座屈>

「素材が強ければ許容応力度が高くなる」

これが普通ですが,圧縮材の場合は,座屈してしまって素材が持つ強さを発揮できない場合があります。このことを私は「形によって決まる許容応力度」と呼んでいます。

<座屈という現象をどのように説明するか>

構造力学や構造設計を習得するにあたって障害となるもののひとつに「座屈」があります。私も座屈をはじめて聞いた時には,うまく飲み込めなかったものです。

直線材を引っ張れば,長いか短いかに係わらず,その素材の降伏点で塑性変形が生じて破断に至りますが,

圧縮する場合は,短い材料であれば引張側とほぼ同じ性状を示すものの,細長い形状になれば,降伏点に至る前に座屈してしまうことがあります。

直線材の軸線上に正確に圧縮の力を作用させれば,その材は直線に圧縮されるだけですから,引っ張った時と同じように降伏点に達して素材の特性のとおりに破断に至ると思うのですが,実際はそうではありません。細長い材料を圧縮すると座屈が生じてしまいます。

座屈現象を次のように説明しています。

完全に水平な机に,均質で完全な直方体の積み木を積み重ねていきます。

一つ目の積み木の上に中心と中心を完全に一致させて二つ目の積み木を乗せます。

3つ目も4つ目も同じように乗せます。

積み木を10個でも,100個でも乗せ続けることができるでしょうか。

いえいえ,積み重ねていくうちに頂上がふらふらしてきてそれ以上乗せることができなくなります。

これが,座屈現象です。

この説明をしたときに,「それは,均質でもなければ,完全な直方体でもなければ,中心も少しずつずれているからだ」と,普通は思います。でも,どんなに均質にしても必ず積み木は倒れてしまいます。

これが,通常,座屈現象を説明する時の言葉なのですが,そこまで聞いても,なかなか納得できないものです。そこで,もう一つ,こんな説明を加えます。

完全に水平な机に,起き上がりこぼしがあります。その頭をちょっとつついても,もとに戻ります。

頭は完全に水平になっていて,その上に,均質で完全な直方体の積み木を乗せます。乗せる位置は,起き上がりこぼしの机との接地点の真上です。そして,その頂部をちょっとつつきます。もとに戻ります。

その上に,もう一つの積み木を乗せて頂部をちょっとつつきます。次の積み木,次の積み木と乗せていくと頭が少しずつ重くなっていきますから,どこかで倒れてしまいます。

これが,座屈です。

積み木を正確に積み重ねる限り起き上がりこぼしが転倒することはないと思うかもしれませんが,転倒に対する復元力よりも転倒させる力が大きくなったら転倒してしまいます。座屈とは,安定して圧縮できなくなる現象のことであり,それは,圧縮している材に微細な力をかけた時に,復元できない状態になることです

<柱の座屈>

柱が圧縮の軸力を受けた時の座屈を説明します。

柱における座屈とは,圧縮の軸力を受けた時に,微細な力に対して復元力を持たなくなることです。圧縮材の座屈現象を数式化したのがオイラーで,

cr=σcr×A

=(πE/λ)×A

cr:座屈荷重

σcr:座屈応力

A:断面積

E:ヤング係数

λ:細長比(=L/i,L:部材長さ,i:断面二次半径)

です。これがどのようにして導き出されたかは「座屈(wikipedia)」で入り口だけ解説してあります。

ところで,実務上は,上記式を修正したものを用いています。鉄骨柱の座屈応力は,圧縮座屈を考慮した許容応力度として与えられています。〈鋼材の許容応力度等〉で考え方と算出式とその許容応力度を示しましたので見てください。


さて,ここまで来て重要なことをいいますが,通常,建築技術者は,オイラーの座屈式が導き出せることを求められたりしません。そもそもこの式は実務上で使われていません。座屈現象は,許容応力度として与えられていて,それはオイラー式を修正したものですけど,この許容応力度算出式も覚える必要はありません。ならば,何が必要なのかを〈圧縮材の座屈で知っておくべきこと〉で説明します。

<曲げ材の横倒れ座屈>

曲げモーメントを受ける材料では,圧縮応力と引っ張り応力を受けるのですが,圧縮応力を受ける側で座屈が生じることがあります。曲げ材のすべてで横倒れ座屈(曲げ座屈)が生じるのではありません。長方形断面の通常のRC梁では横倒れ座屈は生じません。生じるのは,例えばH形鋼の強軸にモーメントを作用させた場合です。横倒れ座屈の仕組みと許容応力度への反映を〈曲げ材の横倒れ座屈〉で説明します。

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座屈は構造力学

座屈問題は,構造力学の分野のひとつですから,本来は,〈Ⅰ構造力学(解法2)〉で解説すべきものです。それを,私はあえて座屈の解説を〈Ⅱ構造躯体として使われる材料の特性(構造材料の許容応力度等)〉に入れています。理由は,建築分野における構造解析は,圧縮材において座屈が生じないことを前提として行い,算出結果として出された圧縮軸力で座屈を起こさないことを検証するからです。座屈という現象を説明(数式化)するために構造力学の手法を用いますが,算出された知見を許容応力度として使用します。ですから,許容応力度の方で解説しています。

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このページの公開年月日:2016年7月30日