Ⅰ構造力学(解法2)

Ⅰ 構造力学(解法2)

構造力学を習得する上で必要な基礎的な考え方は〈構造力学(法則・基本的な考え方)〉で紹介し,解法の与条件は〈構造力学(解法1)〉で紹介しました。

次は,その考え方を使って構造問題をどうやって解くかです。このページでは,

①トラス構造

②片持ち梁・単純支持梁・両端固定梁

③梁理論

④有限要素法

備考:このページで紹介するのは,力学問題を解くにあたって必要な知識を習得すべき順に列記するだけです。具体的な解法の説明まではしません。

について紹介します。

①トラス構造

まずはトラス構造です。写真は立体トラスです。1本1本の棒材がトラス材で球になっているところでトラス材がお互いにつながりあっています。この構造を見て,「1本1本のトラス材は引っ張られるか,圧縮されるかのどちらかである」「1本1本のトラス材が引っ張られることに抵抗し,圧縮されることに抵抗しているからこの構造体が自立している」と気づきますか。ここまでは大丈夫と思います。ならば「1本のトラス材は接合している球の部分を材軸方向に押しているか引っ張っているかのどちらかである」ことは気づきますか。「1本のトラス材が接合している球の部分を材軸に対して斜めに押すことはありえない」この条件を利用してトラス構造を解いていきます。(写真のトラス材は,太さがありますから,本当は曲げが作用して少しですけど斜めにも押していますね。トラス構造の解法は,斜めに作用する力を無視して解くものです。)

3dtrass

トラス構造の解法については,例えばこちら「静定力学講義・静定トラスの応力計算(近畿大学工学部)」がわかりやすいです。

トラス構造解法の補足

② 片持ち梁・単純支持梁・両端固定梁

次は片持ち梁・単純支持梁・両端固定梁です。建築物はほとんど柱梁で構成されていますから,梁に力を作用させた時にどのようになるかは重要です。柱梁構造(ラーメン構造)の一部である梁に力を作用させた時にどうなるかを考える前段として,片持ち梁,単純支持梁に作用させたらどうなるかを考えます。左に「どうなるか」と書きましたが,「どうなる」の言葉の意味から説明します。それは梁にとっての内力である断面力がどのように分布するかです。梁の断面力については内力のところで解説したように,軸力,せん断力,曲げモーメントの3つです(断面力の説明は,こちら「断面力(wikipedia)」でどうぞ)。また,「静定力学講座・静定梁の応力(近畿大学工学部)」も,梁部材の断面力についてわかりやすく説明されています。

もっとも単純な形が,片持ち梁の先端に集中力が作用したときです。その時の,固定端のモーメントMは,

M=PL
P:先端に作用する力
L:梁の長さ

となります。

片持ち梁の次は単純支持梁でやってみてください。

上記は1点集中荷重ですが,2点集中荷重ならどうか,等分布荷重ならどうかといった荷重の種類によってどうなるかも必要です。この単純支持梁,片持ち梁に集中荷重や等分布荷重が作用した時に曲げモーメントなどの断面力がどのように作用するのかを理解できる(自分で算出できる)ことが必要だということとともに,実は公式化されていて,この公式を使いこなせることが実務上は求められます。梁の両端が固定端であった場合の端部のモーメントも含めて,「C,M,Q」として公式化されています。「C,M,Q」の意味については「CMQの算定(建築学生が学ぶ構造力学)」でどうぞ。「C,M,Q」の公式化されたものをネット上で入手したい場合は,「公式集-構造計算・梁」があります。JFEスチール㈱が出している「鋼構造設計便覧」の38ページ目にもあります。

C,M,Qがどのように作られるかを〈CMQ算出の仕組み〉で解説します。

③ 梁理論

次は梁理論です。梁に引っ張り力や曲げモーメントが作用した時にどうなるか。それを式にしたものが,

P=EAε
P:作用する軸力
E:素材のヤング係数
A:梁の断面積
ε:Pによって生じる歪(軸方向変位の1回微分)

M=EIφ
M:作用する曲げモーメント
I:断面2次モーメント
φ:Mによって生じる曲がり具合(曲率という。軸に直角方向の変位の2回微分)

です。

梁の断面性能を表す指標として,「断面積」や「断面2次モーメント」があります。上記の2つの式がどうして導き出されるのかは下の補足に譲ることにして,それ以外の指標を紹介します。

Z:断面係数(M=σZ,として使われる。)
i:断面2次半径(圧縮座屈の細長比の指標として使われる)

梁理論について補足します〈梁理論の補足〉。

断面二次モーメントと断面係数の具体の算出方法は〈断面二次モーメントと断面係数の算出〉で解説します。

※ 参考「公式集-断面性能

④ 有限要素法

次は有限要素法です。建築分野では柱梁構造にモデル化する場合が多いですからそれを前提にして説明します。

構造力学(解法1)〉のところで,「構造体のすべての変位がわかっていてそのような変形を生じる外力を算出することは簡単」と説明しました。柱梁構造では柱梁の接合部における変位は,水平変位,垂直変位,回転の3種類しかなく,1本の梁にとって両端の水平変位,垂直変位,回転の6つがわかっていれば,梁内のすべての変位(歪も)が算出できます。1本の梁にとって端部に作用するモーメントと回転の関係を式にすることはでき(どのようにできるのかは省略しました),これを水平変位,垂直変位もあるものに変換することもでき(ここも省略しました),あとは接点における力のつり合い条件と満足する式を作れば,

F=kU
F:全接点に作用する外力
k:FとUを関連付けるマトリックス
U:全接点における水平変位,垂直変位,回転

となり,FがわかっていてUを算出するのですから,F=kUの連立方程式を解けば,Uつまり全接点の変位がわかります。(正確には,外力がわかっているところは変位がわかっていない,地面についていて変位が0だとわかっているところは反力がわかっていない,となります)

「こんな説明で有限要素法を説明したことになるのか」と怒られそうですが,有限要素法の解説は書籍で見てください。例えば,「Excelで解く構造力学(藤井大地著)」で紹介されています。この本のすごいところは,仕組みを解説するだけではなく,Excelのマクロを利用して有限要素法プログラムを自分で作ることができるようになっていますし,実は完成形のプログラムもおまけでついていますから,プログラムだけ利用することもできます。

ここでお伝えしたいのは,構造力学解法は実務的には有限要素法に集約されていると言っても過言ではないことです。しかも,有限要素法プログラムを自分のパソコンに入れておきさえすれば簡単に構造力学の問題を解くことができるのです。

次は,力学的な感覚について解説します。 〈構造力学(力学的な感覚)

<公式集>

公式集-断面性能

圧縮材の座屈

構造力学の重要な分野のひとつに「圧縮材の座屈」がありますが,このページで座屈を「構造力学の解法」のひとつとして紹介することはしませんでした。建築分野における構造解析は,「圧縮材も座屈しない」という前提で計算して,断面検証として算出された軸力が作用しても座屈が生じないことのチェックをするからです。座屈については,〈Ⅱ②構造材料の許容応力度等〉で説明します。

このページの公開年月日:2015年5月10日