圧縮材の座屈で知っておくべきこと

<圧縮材の座屈で知っておくべきこと>

座屈という現象と,柱を圧縮したときに座屈が生じる軸力の算出方法(オイラー式)は〈形によって決まる許容応力度〉で説明したとおりです。

座屈や座屈を生じる軸力の算出方法は,構造力学の重要な分野のひとつですが,通常,建築技術者はオイラー式を導き出す手法や算出式を記憶することを求められたりしません。建築分野における座屈現象は,許容応力度として与えられます。この圧縮許容応力度は,オイラー式から導き出されたものとは言うものの,修正(低減)しているので修正された算出式を理論的に導くことができなくなっていることと,実務上は細長比による換算表で圧縮許容応力度を算出すること,算出式や換算表を覚えていなければ解けないような問題が建築士試験で出されることはないことから,オイラー式を記憶しておく必要はありません。

ならば,圧縮座屈について,建築士が知っておくべきことは何でしょうか。

○ 座屈の概念,オイラー式を低減して許容応力度を設定した考え方

○ 断面二次半径の算出

○ 座屈長さの算出

の3つです。

<座屈の概念,オイラー式を低減して許容応力度を設定した考え方>

座屈の概念は〈形によって決まる許容応力度〉で説明したとおりです。

オイラー式からの低減を説明します。オイラー式は理論上の正解値ですから,これを用いることが最も理にかなったものだと考えるのですが,オイラー式の数値よりも低減して許容応力度としています。オイラー式では,

ある細長比以下であれば素材としての降伏が先に現れますから,座屈はしない。その最長比を超えれば細長比の二乗に反比例して低くなる。

となります。これは,理論上は正しいのですが,実際の柱材は,完全な直線ではないし,作用する荷重も軸線上に正確に作用するものでもなく,素材も均質ではありませんから,細長比が小さくても素材が降伏する前に座屈してしまいます。細長比が大きい部分でも,オイラー式の数値よりも早く座屈が生じます。これが,オイラー式を低減して許容応力度とする理由です。

鋼材のSS400の場合,オイラー式のσcrが短期許容応力度σよりも大きい時には座屈しませんから,

σcr=πE/λ

で,σcr=σ=235N/mm2,E=205000N/mm2を入力すると,

λ=92.7

となり,理論上は細長比が92.7以下ならば圧縮座屈は起きないことになります。

でも,92.7はかなり細長いです。実際の材料がこの数値まで座屈しないなんてことはありませんで,建築基準法上の圧縮許容応力度は,141.2N/mm2でσの235の60%に低減されています。

λ=92.7より大きい材では,オイラー式ではλに反比例して小さくなりますが,建築基準法上の圧縮許容応力度は,限界細長比Λ(SS400の場合は,119.8)までオイラー式ではない式で低減します。それ以上の細長比では,λに反比例する式ですからオイラー式を約69%に低減した式になっています。

これが,オイラー式と建築基準法上の圧縮許容応力度の関係です。細長比が100を超える材料の圧縮許容応力度を有効なものとして設計することは少ないので,オイラー式の成果である「圧縮座屈は細長比の二乗に反比例して小さくなる」を実務上で使うことは少ないのです。

<断面二次半径の算出>

断面二次モーメントIや断面係数Zを算出するように,断面二次半径ⅰを算出できることも求められます。

必要とする理由は,細長比λで圧縮許容応力度が決定するのですが,λ=L/ⅰだからです。

細長比とは,読んで字のごとくで,細さと長さの比です。長さは圧縮材の長さのことで,細さが断面二次半径ⅰです。ⅰは次のように定義されます。

ⅰ=√(I/A)

I:断面二次モーメント

A:断面積

H形鋼などは断面表で与えられていますから,通常は表を見ます。例えば「鋼材表(by web-FUNX)」が便利です。

組み立て材であれば,断面二次半径ⅰの算出を必要とする場面があります。これは建築士の試験においてもそうです。〈断面二次半径の算出例〉を見てください。

<座屈長さの算出>

細長比λ=L/ⅰのLの方です。

Lは圧縮される部材の長さです。この説明がほとんどすべてなのですが,圧縮される材の両端の支持条件によって長さが変わってきます。

長さLの基本は,両端がピン支持で変位が材軸方向のみに生じる場合です。両端が固定されている場合は長さが半分になります。例えば,「柱の座屈現象(近畿大学)」を見てください。


鋼材の圧縮許容応力度は〈鋼材の許容応力度等〉で示しています。





座屈がなぜ理解しにくいか

座屈は圧縮力を受けるときに不安定となる現象です。座屈を知らない人は,完全に直線で均質な材料を完全に軸心に一致する圧縮力を作用させればそれが座屈することはないと考えるものです。座屈を説明するにあたって,なぜ座屈現象が生じるのかを説明しなければいけません。それは,例えば,起き上がりこぼしの頭の部分に少しずつ重しを乗せていってある重さに達したときにバランスを失うことなのですが,これを圧縮材に置き換えて,バランスを失うとはどういう状態かを想像することが難しいです。それを解き明かして数式で表現した人がオイラーで,構造力学の手法でどのように導き出されたかを説明することがこれまた難しくて,でも,やっとそれを理解したとしても,実は,建築の実務上は座屈現象を許容応力度として評価すること,その許容応力度の算出式はオイラー式とは異なっていることから,オイラー式やオイラー式がどのように導き出されるかを,一般の建築技術者は知っておく必要がありません。座屈を教えるときに,せっかく理解した座屈現象やオイラー式が「実務上は使われていません」とは言わないものですから,ますます混乱します。

実務上は,「座屈」として教えるのではなく「圧縮材の許容応力度」として教える方が呑み込みやすいです。

圧縮材の許容応力度を教える過程で,座屈という現象と,オイラー式を示して,実務上は法が定める許容応力度で評価していることと,その適用の仕組みを示す方がいいでしょう。

構造設計の関連情報
Ⅰ 構造力学
構造力学(法則・基本的な考え方)
構造力学(解法1)
構造力学(解法2)

トラス構造解法の補足
CMQ算出の仕組み
梁理論の補足

構造力学(力学的な感覚)
Ⅱ 構造躯体として使われる材料の特性
材料力学

モールの応力円とミーゼスの降伏条件

種々の構造材料の品質等
構造材料の許容応力度等

コンクリートの許容応力度等
鉄筋の許容応力度等
鋼材(炭素鋼)の許容応力度等
高力ボルトの許容応力度等
あと施工アンカー1本あたりの許容耐力など(H13告示第1024号による)
形によって決まる許容応力度

Ⅲ 構造の仕様書的規定
構造の仕様書的規定
Ⅳ 建築構造安全性判定手法
建築構造安全性判定手法

構造体をモデル化する手法
構造解析で算出された存在応力を割り増しするルール
既存建物の耐震診断と耐震改修



このページの公開年月日:2016年7月31日