朱鷺メッセ崩落事故の原因が突き止められなかったことが残念(その3)

<朱鷺メッセ崩落事故の原因が突き止められなかったことが残念(その3)>

裁判の過程で,通常は原因が解明されるはずです。どのように進められたのでしょうか。

一審で県側は,調査報告書を根拠として設計が不適切だったことを主張しましたが,裁判所は「報告書の論証過程には大きな疑問が残ると言わざるを得ない」と指摘し,県側が主張する事故原因を立証できないとしました。

二審では,県は「設計・施工の技術的側面で争うよりも,そもそもの契約責任としての債務不履行責任等の法的責任を問う」と訴訟方針を変更して争っています。高等裁判所が出した結論は,和解勧告であり「事故は設計上の問題によって発生した」とした上で,和解金として設計者・施工者に8000万円の支払いを求めて和解が成立しました。

この結果,「事故は設計上の問題によって発生した」とはいうものの,詳細の原因は特定されずに終わっています。本来,設計が原因であると特定できたならば,その損害の責任のすべてを設計者が負うべきところですけど,和解金は県が一審で請求した額の約10分の1でした。

裁判の場で,原因を究明することができればよかったのですが,残念な結果です。一審がはじまる前に崩落せずに残った部材で引張試験をすることで斜材ロッド接合部の耐力不足が原因ではないことが特定できていたにも関わらず,原因を修正するなり再調査をするなりしなかった県の対応に疑問を感じます。

朱鷺メッセ崩落事故の原因が突き止められなかったことが残念(その2)

<朱鷺メッセ崩落事故の原因が突き止められなかったことが残念(その2)>

朱鷺メッセ崩落事故の原因を究明しようとした足跡はあります。

新潟県事故調査委員会報告書

発注者である新潟県が設置した委員会が出した「新潟県事故調査委員会報告書」(2004年1月19日)があります。この文書の執筆時点(2016年12月)において新潟県のHP上では公開されていないようなので私は見ることができませんが,別の資料の記録から,原因を斜材ロッド接合部の耐力不足としたことが分かります。PCa版をハイテンションタイロッド(鋼線)が貫いているコンクリート部分を指しており,写真で見てもいかにもちゃちで脆性材料であるコンクリートがせん断力に耐えられなくなって鋼線が抜けてしまったと考えるのは自然なことです。日本建築構造技術者協会の報告書でも設計者の計算式にあやまりがあり長期の許容応力度の1.6倍の力が作用していたことが報告されています。接合部の耐力不足は,それを疑うに十分な論拠がありますが,結果からすると,県の委員会の報告書を根拠として争った一審で「論証過程に大きな疑問が残る」とされ否定されています。実は,被告側にいた設計者が,県の報告書の計算式の誤りを指摘しているとともに,崩落しなかった通路のPCa版で引張試験をすることで強度の存在を立証しているのです。

朱鷺メッセ連絡橋事故調査報告書(日本建築技術者協会)

中立機関が出した報告書としては,「日本建築技術者協会」の「朱鷺メッセ連絡橋事故調査報告書」(2004年2月10日)があります。

この報告書では,検証過程で斜材ロッド定着部せん断,鉄骨の上弦材圧縮,PCa版の下弦材引張が設計上長期許容応力度を大きく超えていたことを指摘しています。であるならば,結論は,設計自体が不適切だったと結論付けられるべきものなのに,なぜか,結論では,事故原因を「工事途中で実施された第1回ジャッキダウンによって構造体に生じた損傷が,落下事故に大きく関わっていることは疑う余地はない」とし,「平成12年度の第1回ジャッキダウン時および平成14年度の竣工時に発生した下弦材PCa版の大きな曲げ応力の影響により,PCa版の斜材ロッド定着部近傍に過大な曲げひび割れが発生したと推定される。この結果,時間と共にこのひび割れが進展して,定着部のコンクリートの有効せん断面積が減少して崩壊につながったと考えるのが自然であろう」としています。これはとても不思議な結論です。しかも,原因として指摘した言葉に「ジャッキダウンによって構造体に生じた損傷が」がありますが,報告書中の論証過程では「ジャッキダウン時に損傷を与えた可能性がある」としているだけで,接合部に損傷が生じたことを特定した記述はありません。こうしたことから,論証過程,結論ともに現実を表現したものとは考えにくいものです。

※ この報告書は「日本建築施術者協会」の会員専用ページに公開されています。

朱鷺メッセ連絡橋落下事故(渡辺邦夫氏による事故後の概況報告)

構造設計をした設計者が,「朱鷺メッセ連絡橋落下事故(渡辺邦夫氏による事故後の概況報告)」報告書を出しています。

これによれば,県の調査委員会が原因とした斜材ロッド定着部の破断を否定しています。調査委員会の調査報告書の計算式が間違ったものであることは建築関係雑誌「建築技術」に掲載したとしていますし,崩落しなかった実際の架構を使って自費で実験を行って,必要な耐力が存在していたことを証明しています。

崩落原因については簡単にしか触れられていませんが,上弦材鉄骨破断を指摘しています。ただ,断定はせず,原因は解明できなかったとしています。

※ この報告書は「㈱構造ソフトHP」で公開されています「朱鷺メッセ連絡橋落下事故概況報告」。

PCa版製造者の説明(黒沢建設㈱)

PCa版を製造し現地で架設した下請け施工者による調査結果がHP上で公開されています。

黒沢建設の説明によると,PCa版の斜材ロッド定着部の耐力が十分にあったことを事故後に作成したテストピースによって証明しています。加えて,県の調査委員会が事実としたことについてそうではなかったことを主張するとともに,元請けである第一建設工業が行った実験についても設定条件に誤りがあることを指摘しています。

※「朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故の「補強筋」について申し上げます

立体駐車場からの転落事故と安全対策

<立体駐車場からの転落事故と安全対策>

自走式の立体駐車場から自動車が転落する事故が発生することがあります。

例えば,

2016年9月,広島市安佐南区西原の商業施設「ゆめタウン祇園」にて,立体駐車場の3階からワンボックス車が転落
2016年12月,横須賀市の「サカイヤパーキング」にて,立体駐車場の5階から乗用車が転落

がありました。横須賀市の事故では乗っていた人が死亡されています。事故の原因は,勢いがついた状態で柵やフェンスに突っ込んだとされていて,想像ですが,運転操作の誤りではないかと思われます。

突っ込んだから落ちたという単純なことではありません。マンションの開放廊下の手すりにしっかりとした強度があるように,駐車場においても外周部分に自動車の転落を防止できるようなしっかりとした強度が必要です。

自動車の転落防止のために必要な強度がどうあるべきかについては,国土交通省から指針が出されています。これによれば,2トンの自動車が時速20キロメートルで激突することを想定して,25トンの衝撃力に耐えるべきことを求めています。それを受け止める部材は短期許容応力度の1.5倍で設計するとしています。

この指針は,建設省昭和61年9月1日付け住指発第185号通達であり,「建築物の構造関係技術基準解説書」に掲載されている他,

http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/kensetu.files/0225shishin.pdf

で取り出すことができます。

上記の2つの施設において,この指針が求める強度を有していたのかどうかが気になるところで,

①指針が求める強度以上の力で激突した

②設計上は強度を満たしていたが錆などで劣化して強度が低下していた

③設計上もともと強度を有していなかった

の3つが想定できます。

もしも③であった場合,設計が適正でなかったとして責任が問われることになるでしょう。問われた結果,どうなるかはわかりませんが,

①指針であり義務事項ではない

②運転者はそもそも駐車場の利用において柱や壁にぶつからないように走行する義務があるのであって,外壁を突き破るほどの運転ミスを行ってはいけない

ことから,転落した運転者から損害を請求されることはないのではないかと考えます。などと言ったら設計者へのひいき目と思われるかもしれません。あくまでも個人的な希望的観測です。

この考え方で,指針を守っていなくても設計者がその責任を問われないならば,何のために指針が存在するのだと思いますよね。以下も個人の考えですが,指針は,自動車が落下してきた場合,そこにいた第三者の安全を保つために存在しているものと思っています。立体駐車場から自動車が転落する事故において,下にいた人が被害を受けた場合に施設管理者と設計者に対して損害を請求することはあるのだと思います。

運転者と設計者の責任関係はともかくとして,建物が安全でなければいけないことは間違いありません。指針は義務ではないとはいうものの,これを守って設計すべきです。


<判例>

自動車の転落事故で施設管理者が責任を問われた事例としては次のものがあります。

保育園の屋上駐車場からの落下事故」(国土技術政策総合研究所)