蔚山市,住商複合高層ビル火災における考察

2020年10月8日深夜に,韓国の蔚山市の低層階に商業施設がある33階建ての高層マンション(達洞サムファン・アールヌーボー)で火災が発生しました。国内で報道されている情報よりも韓国の韓国語版で報道されている情報が詳しいので,これを紹介します。

国内では,「12階で発生した火が,強風に煽られて外壁を伝って上の階へと類焼した」という内容で報道されました。11月3日現在のウキペディア「蔚山高層ビル火災」でもそのような文面で説明されています。韓国の韓国語版での報道では,出火は3階のテラスのウッドデッキが燃えて外壁に着火して上階へと類焼したとされています。その外壁はアルミ複合パネルであり,それが可燃性の材料であることから上の階へと類焼したことを指摘しています。

朝鮮日報10月11日記事「警察,蔚山雑居火災3階のテラスで火を開始・原因は不明」「警察,蔚山雑居火災3階のテラスから始まり・原因追加捜査しなければならい」で,そのように説明されていますし,記事に添付された外壁写真で,外装材が着火して真上へと類焼した形跡が見て取れます。

外装材が燃えている様子は,国内でも報道されていましたから見られた方もおられると思います。燃えた外装材が火が付いたままで隣のビルや一般車両が通行中の道路に降ってくるというショッキングな場面でした。朝鮮日報10月11日記事「3階の屋外テラスで開始・蔚山火災合同鑑識裏付ける当時の写真を入手」でもその様子を見ることができます。

報道されている内容や添付されている写真から,私が想像しますに,3階テラスの外壁に何らかの原因で火がついて,その外装材が燃えやすい材料であったため,ついた火がそのまま上へ上へと広がっていき,上層階においては窓からガラスを破って火が建物内部へ類焼して,マンションの住戸への被害を広げてしまったものです。アルミ複合パネルは,2枚のアルミ板の間に樹脂材料が使われますので,これがよく燃えてこのようなことになったのだと,想像します。33階建てのマンションですから耐火建築物なのだと思いますけど,その外壁に燃える材料を使ってはならないと明文化して規制する条文は当時の韓国にはなかったのだと思いますし,それは現在の日本の建築基準法にもありませんけど,規制する条文があったかなかったかという問題ではなく,高層ビルの外壁に誰かが近づいて,そこに火をつけたらそのまま最上階まで外壁が燃えてしまうような設計はそもそもしてはならないのだと思います。アルミ複合パネルには不燃性のものもありますので,そういう材料を選ぶべきでしょう。ただ,あくまでも想像で言っていることでして,蔚山市のこのビルの外装材ももしかしたら不燃性複合パネルだったのかもしれません。「燃えやすい外壁が」という記事にはなっていますし,実際に燃えていますから不燃性でないアルミ複合パネルが使われたのだと想像しただけです。

さて,国内の高層ビルの外壁は,不燃性でないアルミ複合パネルが使われているのでしょうか。部分的な使用は別として,低層階から高層階までのほぼ全層にわたって使われている建物はないのだと想像しますし,そうであってほしいと願います。

ところで,蔚山市のこのビルの火災でこれだけ大規模に類焼したにもかかわらず,全員を救出しています。朝鮮日報10月11日記事「蔚山の英雄たちにメールを」です。素晴らしいことです。また,このビルには,15階と28階に避難待機区画が設けられていたのですね。その施設も命を守ることに貢献したのだと思います。

参考:〈耐火構造等の外壁に可燃材を貼ることの制限

巨大物流倉庫の火災と面積区画

<巨大物流倉庫の火災と面積区画>

2017年2月16日に起きた埼玉県の巨大物流倉庫での火災は10日以上燃え続けるという大規模な火災でした。3階建て約7万㎡の倉庫のうち60%程度が焼けたそうです。

巨大な倉庫がひとたび燃え始めると消すことがどれほど困難かが示されました。小さな建物の火災を消すときには外壁にある窓から放水すれば消火できますが,巨大物流倉庫は外壁の開口部が少ないですし,あったとしても,窓から放水が届く範囲は限られていて,建物内部で燃えているものを消すためには,消防隊が燃え盛っている建物内部の奥深くまで進んで放水しなければいけないのですが,安全確保上そんなに奥深くまで行くことなどできません。

火災が燃え広がるのを抑止するための基準があるはずで,これがどうなっているのでしょうか。

倉庫の面積区画

にまとめました。巨大な倉庫の面積区画をどう適用するかは,「用途上やむを得ない場合」に該当するかどうかということになります。これは,ある意味,あいまいな概念で,何を保管するか,どのように運用するかにかかってくることです。結果を見れば,10日以上燃え続けたのですから,区画を含む安全対策が必要だったといえるでしょう。

この執筆時点(3月9日)でその建物に区画がされていたのかどうか私は知りません。今後原因の究明や対策が発表されるでしょうから注目したいと思います。

<4月13日追記>

4月13日の報道で,防火戸の多くが作動しないか,倉庫の内容物(保管物やベルトコンベアー)などに邪魔されて閉鎖しなかったとされています。また,同日の日経アーキテクチュアーには,各階平面図と防火区画の位置が記載してあって,1500㎡以内ごとに防火区画が設定されていたことがわかります。

32年前の粗雑工事で和解

<32年前の粗雑工事で和解>

2月4日の地方新聞に,1980年に建設された建物の粗雑工事で工事をした建設会社と建築主との間で和解が成立したことが報道されています。

報道によれば,2012年にこの建物を耐震診断したところ,設計とは違う工事がしてあって,余計な耐震補強が必要になり,その補強工事分を請求していたもので,それについて和解が成立したそうです。

和解金額は公開されていませんからわかりませんが,建設会社が何割かは支払わないと成立しませんからそうなんだと思います。

違う工事とは,鉄骨の柱はり接合部の溶接方法が設計とは違っていたとされていて,その結果,強度が低下していたとなれば,はりフランジの溶接が完全溶け込み溶接でなければいけないところが隅肉溶接になっていたことが想定できます。でも,さすがに,そんなことはしないと思うのですけど,それ以外には思いつきません。

建設会社は,時効による損害賠償責任の消滅を主張していたようですが,最終的に和解を選択しています。

世の中は,30年も前に建設された建物の粗雑工事の責任が問われるんですね。怖いことです。

<参考>

建築物:広島市西区の㈱アスティの本社ビル

施工者:三井住友建設

裁判での請求金額:約3億7000万円(和解金額は報道されていない)