偽装事件から10年No.3

偽装事件を受けて,再発防止対策に取り組まれた人のことを紹介します。
いえいえ,その人のことをそれほど知っているわけではありませんので,取り組まれた人に出会えたことの偶然についてお話します。
再発防止対策を最も真剣に取り組んだのは,国土交通省住宅局建築指導課であると認識しています。事件を受けて建築指導課が最初にしたのは,事件の解明であり,実行者,責任者の処罰であったはずですが,その後は再発防止対策へとシフトしていきます。具体には再発防止のための法改正です。
平成19年6月に施行された改正法で,審査の厳格化が行われて,構造適合性判定制度がスタートとともに,構造関係規定が明確化され,確認申請書への記載事項も詳細に規定されました。
この改正作業を行うのが国土交通省建築指導課ですが,担当するのは数人の係長で,これほどの制度改正に対応できるほどの人数ではありません。実は,建築関係の法改正作業(法文の作成作業)は,国土交通省国土技術政策総合研究所で行われています。その中心にいた方が平成19年4月から広島大学に来られたので,幸運にも,その人に巡り合うことと,改正のことをお聞きすることができました。
建築学会中国支部の何かの講演会で登壇されて,話すことは当然に,この法改正のことです。
地元の建築士会にも参加の意欲を示されて,「偽装事件と法改正への対応」というテーマの改正法で苦労していた建築士との座談会へも参加直前までいったのですが結果としては参加はかないませんでしたが,その準備の中で,直接にお話を聞くこともできました。
当時は,改正法の施行直後で,制度があまりにも厳格化しすぎていたもので,大きく混乱していました。その中で,その人が話されたのは,「事件による信用失墜に対して,どこまですれば認めてもらえるか,それを考えて制度を作った」です。
偽装事件を受けた法改正は,確認申請図書の保管であったり,申請時の審査途中で修正になった場合にどこを修正したのかが記録として残るようにするとか,どこまで記載するかを明確にするとかでして,その部分だけ見れば,当然のことでしかありません。
改正の大きな柱である構造適合性判定も,行政側の審査能力不足を補うものであり,これも必要事項だと思います。
19年の法改正で,苦労させられた人も多かったとは思いますが,信頼回復のために何をすべきかを考えて作られたものであることを紹介します。

偽装事件から10年No.2

この事件を受けて我々がしなければいけないことは,信頼回復です。

そうであるはずですが,社会は別の方向へと動いていきます。「偽装した人への追及」マスコミをはじめとする社会一般の人の行動としては当然でしょう。

不思議だったのは,国土交通省の発表で,偽装があったことともに,審査漏れがあったことを発表したことです。

偽装設計を見抜いた民間の審査機関は第一発見者です。すでに複数の偽装設計があったにもかからわず誰も気づかなかったことを最初に見抜いた技術レベルの高い審査担当者を持っていた審査機関です。

審査漏れが大きくクローズアップされて,その審査機関は閉鎖されてしまいました。

事件後,建築主やマンション購入者からこの事件による損害請求の中で,確認申請を審査した行政を相手取って訴訟をしますが,一貫して,審査漏れに対する責任はないことを主張し裁判もそれを受け入れています。

審査漏れがあったこと自体は事実ですから,その審査機関の責任追及をするのは,損害賠償を応じる覚悟でしていることかと当時は思っていましたが,結果としてはそうではなかったです。

第一発見者の審査機関を閉鎖することが,何のために必要だったのか,それが信頼回復のための第一歩になったのか,私にはわかりません。

偽装事件から10年

姉歯事件,構造計算書偽装事件から10年が経ちました。

10年前の11月17日は,事件を国土交通省が発表した日です。

職能集団としての信頼性を傷つけるもので,その信頼回復にその後の長い時間を費やすことになりました。信頼回復のために出された法改正は,あまりにも厳密過ぎて,日本の経済活動を低下させるほどの影響を与えた,それほど抜本的な改正でした。

それを修正するために緩和の改正もありましたし,今年の6月には,確認申請を構造適合性判定申請を切り離す改正もありました。その意味で,偽装事件の対応処理は今も続いていると言っていいでしょう。

この10年間,建築の中にいる者として,私も取り組んできました。翻弄されてきたという面もありますが,決して翻弄されただけではありません。

事件を聞いたその日の夜から構造設計の勉強を始めました。それまで,断片的に構造の知識はありましたが,偽装設計ということが起こりうるものであり,それを見抜かねばならないとなると,習得しておくべき知識量が格段に違うからです。

あれから,10年が経ちましたか。構造。奥の深い世界です。少しずつは,今も取り組んでいます。信頼回復とはそういうことの積み重ねなんだと思います。