この偽装事件を受けて,私が取り組んだことを紹介します。
事件の発表を聞いたその日の夜から,構造の勉強を始めました。それまでも構造の知識はありましたが,偽装設計をする人がいて,審査の過程で偽装を見抜かねばならないとなると,習得しておくべき知識量が格段に違うからです。
この勉強をする中で気づいたのは,「審査するための道具が必要である」ということです。法規制の整理とともに,設計の過程で生じる計算式を段階ごとにわけて,計算過程のそれぞれが正しく算出されていることをチェックする計算表のようなものが必要です。
このことに気付いて,それを自分一人で作るのもあるとは思いましたが,近畿大学の藤井教授のところへ行って相談しました。「この偽装事件を受けて,こんなものを作りたい」というと,なんと,賛同してくれて,「構造計算書審査技術の開発」として取り組んでくださることになったのです。
次の年度のふたりの卒業論文のテーマに設定して,私も卒論生の指導をしたのです。4年間で3人の卒業論文とひとりの修士論文の作成を指導して,私も論文を出しています。
構造計算書審査技術を作るという過程で,構造規制の複雑さや構造設計の奥の深さが見えてきました。