2000年金物規定の木造住宅にも倒壊被害

<2000年金物規定の木造住宅にも倒壊被害>

平成28年熊本地震で被害を受けた建物の中には,2000年に強化された木造規定で建築されたものも含まれていました。報道記事としては,

被災者を苦しめる4号特例」(日経アーキテクチュアー)

があります。この記事は,木造建築の4号ものの確認申請にあたって添付図書が省略できてそのために適正な設計が行われなかったことの可能性を指摘するものです。今後,新基準で倒壊した建物の原因調査は行われるものと思います。

その原因として考えられるもののとしては,設計の不備,施工の不備などがあげられますが,私は,もうひとつ別のことを想定します。それは,

総2階である建物の1階の壁量が不足しているのでは?

です。上記報道の写真も総2階に近い建物です。その他にも,

南阿蘇の倒壊アパート5棟 柱接合部に金物なし

で報道されたように,2階建て木造アパートは総2階です(写真の建物は2000年基準前のものと思います)。壁量を規定しているのは政令第46条第4項で,壁量は各階の床面積で規定されていますから,2階の面積が大きいか小さいかにかかわらず,1階の壁量は一定です。このことが,総2階の建物の1階の余力を低下させているように思います。

2階の面積によって,1階の壁量を変化させる規定が望ましいと考えます。そして,もうひとつ。床面積にならないベランダや玄関ポーチなどは壁量を算出する際の床面積に含めるべきと考えます。現在の規定では,内側に入り込む形の玄関ポーチでも屋外は屋外ですから壁量の床面積に考慮しません。でも,荷重としてはいくらも低減されていませんから,耐力上は不利側に作用します。

今後,調査結果が出されるでしょうからその中で議論されると思います。

ホテル所有者を業務上過失致死傷罪で起訴

2012年5月に福山市のプリンスホテルで7人の死者を出す火災がありました。

この建築物の所有者として,必要な措置を怠ったとして業務上過失致死傷罪で起訴したとする記事が地方新聞に掲載されています。

出火自体は不可抗力とは思われますが,耐火建築物でなければいけないにもかかわらず,木造で増築した部分があった,また,必要な防火戸が取り付けられていなかったなど,建築基準法の基準を満足していない建物でした。

この記事によれば,「刑事処分を受け入れる覚悟があり」とされています。必要な管理を怠ったことにより7人の死亡者を出したのですから,罪に問われることもやむを得ないことと思われます。今後,この裁判に注目していようと思います。

帯山小学校体育館の被害についての疑問

<帯山小学校体育館の被害についての疑問>

熊本地震で,耐震補強をしたばかりの体育館に被害が出ています。

記事としては,

なぜ壊れた?耐震補強したばかりの校舎・体育館・・ボルト抜け落ち,筋交い垂れ下がり

耐震化済みの体育館が損傷 熊本の24校で避難者ら移動」があります。

避難場所になっていた帯山小学校体育館で,14日の地震で避難していた被災者のいる中で16日の本震が来て,体育館が地震の揺れで損傷したというものです。天井面に水平剛性の確保として設置されているターンバックルのボルトが外れて体育館のフロアーに落下し,ターンバックルも垂れ下がりました。落下するボルトをまともに受けていたら死亡する可能性もあったのですから,避難していた人に怪我などがなかったのは偶然でしかありません。

体育館は,避難するためにあるのですから,避難していた人に危害が生じるなどあってはならないことです。

しかも,その体育館は耐震補強をしたばかりで,安心できる避難所であると考えるのは当然です。とはいえ,報道は,「補強工事をしていたからこの程度で済んだ」「震度7が2回。想定外」とのコメントです。

考えてみれば,現行の耐震設計は,巨大地震に対して倒壊しないことを目標としているのです。ひび割れや塑性化など,建物に損傷が生じても倒壊しないことで人命を守るのです。震度7が1回でも,部材の部分的な損傷自体は,許容範囲です。

今後,避難所となる建物の耐震強度は一般の建物よりも強化しておくべきとの議論は生じるものと思われます。もちろん,すでに国の指針では,重要度係数があって,被災時に重要な役割をする建物については高くするようになっています。義務化されていないだけです。


さて,ここまで「部分的な損傷自体は許容範囲」としましたが,このニュースを聞いて,私が気にするのは別のことです。

「ターンバックルを引っ張ったらどこが切れるのか(どこが破断するのか)」

報道によるとボルトが落下したことになっています。ターンバックルの両端の高力ボルトのことです。穴がいている羽子板が破断したとしても,高力ボルトはガゼットプレートに残りますから落ちてきたりしません。高力ボルトが落ちてきたということは,せん断で切れたことになります。

「高力ボルトがせん断で切れた」

そんなこと信じられますか。

ターンバックルを強い力で引っ張ったらどうなるか。棒鋼の部分が十分に塑性化する。これがターンバックルの条件です。でも,さらに引っ張り続けた場合に棒鋼の部分(つまり,母材)で破断するかと言えばそうではありません。母材以外のどこかで破断します。

「だから,高力ボルトで破断したんだ。」

と思われたかもしれませんが,M16のターンバックルの場合,

棒鋼(ターンバックルの母材)の破断強度(引張):65.2kN(JISA5540より)

HTBの材料強度(せん断):104kN(HTBのせん断破断はもっと大きい)

ですから,高力ボルトが切れることはありません。

もうひとつ気になることがあります。どこが破断するかという問題以前に,棒鋼の部分(つまり,母材)が十分に塑性化することがターンバックルの条件ですから,破断するまでに10%以上伸びるはずです。恐らく,20%近く伸びます。ターンバックルはこれほど優れた塑性変形能力を持っている材料です。にもかかわらず破断したということは,素直に考えれば10%以上伸びて破断したということになるのですが,10%と言えば,屋根材がぐちゃぐちゃに変形したことになります。報道では,屋根材の変形は伝えられていませんから,ターンバックルはほとんど伸びることなく破断したと考えられます。

私の勝手な想像ですが,高力ボルトの半分以下の強度の材料,つまり,ボルト(中ボルト4.6)で施工したのではないでしょうか。これは,単なる想像です。調査すればわかることですので,今後,原因についての発表はあると思います。

※参考解説〈ターンバックルの品質〉〈高力ボルトの許容応力度等

※高力ボルトの破断強度については「鋼材および高力ボルト接合部の引張試験(京都大学工学部)」の資料がわかりやすいです。